第九話 ていうか、リルは愛しの人の側に、エイミアとリジーは秘密の行動。ヴィーと私はどうしようか?
「じゃ、じゃあ私はエリト様の護衛をしてくるから。あ、あとは頼む」
「ねえ、リル」
「な、何だよ」
「夜も同じ部屋で護衛するのー?」
「なっ!! バ、バッカヤロォォォ!!」
バッターーン!
顔を真っ赤にしてドアを閉めるリル。可愛いなおい。
カチャ
そこへリジーが戻ってきた。
「リル姉、どうしたの? 挨拶しても無視して走っていった」
「無視したんじゃなくて、挨拶を返す心の余裕がなかったのよ」
「そう」
あ、そうだ。
「リジー、リルの尻尾ってどんな感じだった?」
「え? ピーンって立ってたけど何か?」
……内心は喜んでたのね。
(注! 猫は嬉しいときは尻尾をピーンと立てます)
リルが行ったあと、当日のフォーメーションを考えた。
「リルは正規の護衛ということで、エリートさんにぴったり付いてもらう。エイミアとリジーは……わかってるわね?」
「無問題」
「うぅ〜〜……本当にやるんですか? 凄く恥ずかしいんですけど……」
「仕方ないじゃない、あんたが一番目立つんだから。何よりあんたを走らせるわけにはいかないし……」
「へ? 何故ですか?」
「……あんたはいまだに自覚がないのか……」
「???」
手に取るようにわかるわ。走るエイミア、流れる汗、そして揺れまくる胸。なぜか「く」の字になって走る男性陣。阿鼻叫喚でしかないわ。
「と・に・か・く! あんたは今回目立っちゃダメだからね! わかった?」
「……はい……」
めっちゃ不満そうだな!
「……エリトお兄様に会いたいの?」
エイミアは激しく首を左右に振った。
「なら大人しくしてなさい」
「……わかりました」
あとはリジーに任せて……と。
「ヴィーはどうする? やっぱり一般ランナーとして紛れ込むのはキツい?」
「…………」
明後日の方向を向いて黄昏るヴィー。ムリみたいね……。
「……なら……ヴィーって≪千里眼≫のスキルなんて持ってない?」
「≪千里眼≫ですか? 流石にありませんね……」
だよね……。
「ですが聖術で≪遠視≫という視力を強化するモノはあります」
マジで!?
「効果は!?」
「遠い場所を間近に見る事が出来ます。倍率も調節可能です」
「……最大でどれくらいの距離を?」
「そうですね……精度は落ちますが、10kmはいけるでしょうか……」
すげえな!
「精度を保って、なら?」
「……3〜4kmは余裕ですね」
よっしゃ、十分!
「ならヴィーは高い場所からの後方支援! ≪遠視≫をかなり使うから、MP切れには注意して!」
「わかりました。≪遠視≫で見える距離でしたら聖術も届きますので、お任せ下さい」
をを! 遠隔聖術も可能とは心強い! ていうか、走らなくて済んだからか、あからさまにホッとしてるわね……。今度からヴィーは走り込みが必要かしら。
「…………なるべく走るようにします…………」
「ヴィ、ヴィー、何でわかったの!? 私、今は口に出してないわよ!」
「以心伝心です」
そこまでいくと恐いわよ!
「……ま、いいわ。リジーはエイミアを引き続きお願いね。私はヴィーと下見に行ってくるから」
「サーチ、もうコースの下見は終わったのではなかったですか?」
「今回はヴィーのための下見よ」
「わ、私の為に!? つ、ついにサーチが……! うふ、うふふ!」
「…………何か盛大に勘違いしてるみたいだけど、ヴィーが監視するための高台を下見するのよ?」
「え………そうなんですか………何だ……」
めっちゃ肩を落とすヴィー。一体何を期待してたのかな!?
「期待外れで申し訳ないけど、ちゃんとしてよ、ヴィー? あんたの役回りもめっちゃ重要なんだから」
「わ、わかりました……」
……いまいち元気がないわね……。
「今度一緒に買い物」
「全身全霊で頑張ります!」
……扱いやすくて助かるわ。結果的に自分の首を絞めてるのが癪だけど……。
「じゃあ最初はあの丘ね」
「はいっ! 世界の果てまでも行きますっ!」
そ、そこまでやる気ゲージ満タンにしなくていいからね?
「ここからコースは臨める?」
「お待ち下さい……≪遠視≫」
高台からコースの位置を確認する。
「……大体ですが……一区の1/3はカバーできますね」
申し分なさすぎでしょ……。
「それじゃあ高台を順に移動していけば、全区間カバーできるわね」
「そうですね。問題ないと思います」
「例えばだけどさ、≪回復≫を遠隔でかけたりはできる?」
「はい、聖術でしたら問題ありません。ただMPを大量に消費しますので、あまり多くは使えませんが……」
ヴィーに大量のMP回復ポーションを渡しとけば大丈夫ね。
「一応聞くけど、≪遠視≫と≪石化魔眼≫の併用なんてできるの?」
「出来ますよ。ただ、すぐに寝入ってしまうと思いますが」
あ、そっか。ヴィーの≪石化魔眼≫にもデメリットがあるんだっけ。
「……じゃあ、石化はいざってときの切り札で。聖術をフル回転でお願いします」
「フルですか……わ、わかりました……」
これで……近距離はリル、遠距離はヴィーでカバーできる。
「あとは私が臨機応変に対応するしかないわね……」
「? ……サーチはどのような方法で護衛をするつもりなのですか?」
「私? 陰ながら」
「は?」
「だからー……物陰に隠れたり、木を飛び移ったり……」
「…………あ、成程。つまりアサシン的な……」
…………そうとも言うか。どうでもいいんだけど、私は忍者と言って欲しかった……。
「あ! 申し訳ありません、ニンジャでしたか」
「な、何でわかるのよ!?」
「ですから以心伝心です」
恐い恐い! マジで恐いって!
コース沿いの高台や建物を下見して回り、ヴィーの拠点となる場所の選定も終わった。
私も昨日のコースの下見の際に、隠れやすい場所を確認してある。これで当日の手筈は整った。
「……これだけですか?」
旅館に戻って温泉を満喫していると、一緒に浸かっていたヴィーがポツリと呟いた。
「……はい?」
「確かに入念に計画は立てました。コースの下見もしました。しかし、まだ用心し足りない気がするのです」
「……そうね」
「そうねって……良いのですか!? まだ日にちはあります。出来る限りの対策をすべきでは!?」
「いいのよ、これで」
「!?」
「……いい、ヴィー。どれだけ護衛を増やしても、どれだけ強力な魔術を施しても、必ず『穴』はあるわ。それを全て塞ぎ得る万全な態勢なんて、絶対にあり得ないわ」
「それは……そうでしょうけど……」
「必要以上に策を練ると、そこからボロが出てしまうモノなの。ならば基礎的な警備を固めておくことに留め、不測の事態には臨機応変に対応する。これがベストだわ」
「……言い方は格好良いですけど……要は行き当たりばったりって事ですよね?」
「あら? 行き当たりばったりは戦闘の基本よ?」
「……へ?」
「予想外の出来事でいちいち慌ててるようじゃ、どのみち護衛対象を護りきるなんてムリよ」
「それは……確かに……」
……だから……頼りになるのは、私自身の経験と……。
「……信じる仲間って事ですよね?」
「だ・か・ら! 何で私が考えてることがわかるのよ!」
「ですから、以心伝心ですって」
やっぱヴィー恐いよ!