第十話 ていうか、ギルマスタコ殴り作戦発動。
「勇者の手掛かりを探して各地のダンジョンの探索をしようと思います」
ギルマスが固まった。
失礼ね。
ていうか、ドラゴン討伐からもう一ヶ月。
ドラゴンが撃ち落としてくれたホワイトヤタをギルドに提出して、卒業討伐を無事にパスした。ギルド養成学校の卒業は卒業討伐をパスした時点で、となっているので一応私達のパーティは冒険者として認められた……はず。
あとは何クラスになるかなんだけど……その発表の場が今なんだけど、その前にギルマスが「お前たちの目標は?」と聞かれ……冒頭の展開になったわけです。
「あの……何か?」
しばらくポカンとしていたギルマスが電源が入ったかのように首を振りだした。なんかシンバル持った猿のアレみたい。
「いや! いやいやいや! 大丈夫だ! 全く問題無い……いやはや、流石はドラゴンを討伐したパーティだ! 気概がある!」
なぜかやたらハイテンションになるギルマス。ウザいよ。
「勇者なんて存在するかもわからない伝説上の人物を探し出す、か! さらにダンジョンの探索か! よし、いいだろう、ギルドを挙げてできる限りの支援をしてやる!」
げっ、やばい!
ヘタにギルドに全面介入されたらやりにくいだけだ!
「だ、大丈夫ですよ。私達だけで……」
ギルマスが近寄ってきて私の肩をバンバン叩く。痛いし近い! やめれ!
「いやいや、遠慮するな。他のパーティの支援に使う予定だった予算全部まわしてやる!」
ぎゃーーっ!!
止めて止めて、空気が凍りついちゃう!
私達が敵認定されかねないよ、この状況!
「あ、あのそれは流石に」
まずいマズイ不味い……!
「ボソボソ……」
「えー! んぐっ……ボソボソ……」
ん?
リルとエイミアは何を……?
「いけ、エイミア! 私達の将来のためだ!」
「わ、わかりましたよぅ……」
エ、エイミア?
ボタン外して胸元強調し始めましたけど……?
「あの〜……ギルドマスター……」
なんかテンションだだ下がりのエイミアが、最終兵器を繰り出す。
「私達だけでだ・い・じょ・う・ぶですから。どうか……信用して。ね?」
うわ、捨て身か!
ギルマスの脇腹をグリグリしながら腕に胸押しつけてるよ!
……あ……視線そらして涙がポロリ……。
「む、むふー!」
……マジキモい……。
あ……周りの冒険者からもんのスゴい殺気が……。
「わ、わかった! 影ながら応援するに留めよう!」
思い切り目尻を下げまくったギルマスが叫んだ。
よし、言質はとった!
「よし戻ってこいエイミア!」
「…………ふえ……びええええええええぇぇ!」
ばごっ!
「ぐふぅっ!」
エイミアの左ストレートがギルマスの鳩尾に突き刺さった。
「びえええ! リルぅぅっ!」
「よしよし」
泣きべそかいたエイミアがリルの平ぺったい胸に飛び込む。猫耳娘に泣いて抱きつく巨乳娘。全員ほっこりした。
むむむ……私も黙っていられない。元は私の責任だし……エイミア泣かせちゃったし! よし、大いに盛り上げちゃおう!
「私から皆さんに依頼をします!」
周りがシーンとした。
「これから一ヶ月……」
さらにシーンとする。
「ギルマスを見かけたら闇討ちお願いいたします!」
…………。
あれ? 反応が……。
「「「いよおおおおおっし!」」」
「「「まかせとけええええええ!!」」」
あった。メチャクチャあった。
「ちょっと待て! そんなのは認めんぞぉ!」
ギルマスの虚しい叫びが全員の右から左に抜けていく。
「サーチさんからの依頼、Eランクで受諾されました」
「ををいっ!?」
ギルマス無視して、受付のお姉さんが依頼を受けてくれた。またもや不思議な連帯感と達成感。
これから一ヶ月間、ギルドを挙げて最高のテンションのもと……ギルマス掃討作戦は滞りなく敢行された。
そしてさらに一ヶ月。ついに注文のドラゴン装備が完成した、と連絡があった。
まず、リルの籠手。
「すげえ! まるで着けてないみたいに軽い……!」
ブンブンと素振り。
近くで見ててもわかる。リルのパンチの風圧が違う。籠手だけではなく、ドラゴンの骨製フィンガーリング付き。これはオマケしてもらえました。
次に私。
「最高の履き心地! ビキニアーマーのフィット感も申し分ないわ!」
胸のホックも最高。これで前みたいに切れることも無いでしょ。
「……でもおかしいわね」
胸のサイズがあわない。キツい。苦しい。
「ま、待って。まさか」
も、もしかして大きくなった!?
……あとでちゃんと測ってみよう。
「さて、いよいよ最高金額ね」
で、エイミア。
一番高価なドラゴンローブの登場だ。風水士にとっては最強クラスの装備。
「な、ななな」
エイミアが感動している?
「なんで私のローブ、胸元パックリなのよー!!」
例の防具屋がガッツポーズを決める。ごめんね、エイミア。これで二割引なのよ……ギルマス掃討作戦でけっこうな出費になっちゃって……。
あ、忘れてた。
私達は下から二番目のDクラスでした。
ギリギリ間に合った…。