第七話 ていうか、リルの恋心はみんなにバレまくります!
「へ!? エリト兄さんだったんですか!?」
私が回復してからエイミアとリジーに合流したため、少し時間が遅くなった。リジーからは「サーチ姉、何故そこまで汚れてる?」とつっこまれたけど。そのときにエリトさんの話が出た、という流れだった。
「とってもマジメそうというか、堅物だね〜……というか……」
「そうですね〜……マジメで堅物で融通が利かなくて……」
あら? 意外とエイミアからは低評価?
「けど……家族の中では、唯一私を守ってくれる人でしたね」
「守ってくれるって?」
「母は使用人でしたから、正妻の子供だった兄達からはキツくあたられました。それを庇ってくれたのがエリト兄さんでした」
エリト株急上昇!
「領民を道具並みにしか考えてなかった父や兄達と違って『領民は国の礎。だからこそ大事にしなければ』と常々言ってました」
エリト株ストップ高!
「安易な増税や不公平な裁判には全力で割って入り、領民側に立って行動してました」
エリト株一部上場!!
「でも私には口煩いんですよね……」
「「「「それは仕方ない」」」」
「何故ですか!?」
見事にハモった私達に、抗議の声をあげるエイミア。それに対して、私達は顔を見合わせて……。
「だってエイミアだし……」
「エイミアですから……」
「エイミアだしなあ……」
「エイミア姉なら仕方ない」
……ハモってはないけど、同様の答えが返ってきて……。
「…………ひ、酷い……びええええ〜〜」
……泣いちゃった。
「それよりもリル姉」
「ん? 何だ?」
「何か良い事でもあった? さっきから表情が緩んでる」
「ニャ!?」
リルはニヤニヤとつり上がっていた口の端を、両手で押さえて隠した。気づくのも隠すのも遅いよ。
「ちょ、ちょっとラッキーなだけニャ! それだけで普段とはニャんら変わりニャいニャ!」
「リル、方言丸出しになってるわよ」
「ニャニャ!? そ、そんニャことはニャい……ニャ!?」
「リル姉、今ので十回は『ニャ』って言った」
よく数えてたな!
「ぐ……グニャア……」
リル、ノックアウト。
「で、何があったの、ヴィー姉?」
「流石にリルのプライベートですから、私からは言えません」
「そう…………なら、サーチ姉。何があったの?」
「リルに春が来ました」
「サーチ!?」
「あのね、仲間なんだから……面白いことは共有すべきなの」
「サーチ。悪い顔をしてますよ」
あらやだ。
「リル姉に春が来たって……リル姉だけ春なの?」
……はい?
「リル姉の頭に花が咲く?」
……?
「サーチ、リジーにはちゃんと伝わってませんよ?」
「……え〜っとね……リジー、リルに実際に春が来たわけじゃなくて……これは比喩なの、比喩」
「比喩?」
……うーん……どう説明すれば……。
「サーチ、ストレートに言いましょう。リジー、リルはエイミアのお兄様であるエリトさんに恋しているのです」
「……成程、春だ」
「え!? えええええええええっっ!!?」
あ、泣き止んだエイミアの耳に入っちゃった……。
「リルが!? エリト兄さんに!? え、えええ!!」
「エイミア落ち着いて下さい。まだ二人が恋人になったわけではありませんから」
「でででも! リルが私のお義姉さんになっちゃう!? え、ええええええ!?」
「飛躍し過ぎですよ、エイミア」
……うーん……修羅場ってるねえ。
「サーチ! 元々はあなたが面白がって伝えたから、こうなってしまったのですよ! 見てないで何とかして下さい!」
「あ、はいはい」
エイミアを羽交い締めにして、ヴィーから引き剥がした。
「落ち着いた、エイミア?」
「は、はい……取り乱してすいませんでした……」
ようやく落ち着いたエイミアとノックアウトしたリルを連れて、ヴィーが手配した旅館に入る。部屋に入るなりヴィーに≪防音≫の聖術をかけてもらい、もう一回エリトさん関連の話を始めた。
「サーチ姉、そこまで警戒する必要あるの?」
「相手は貴族だからね。警戒するに越したことないわ」
だって、実際に……。
ドシュ!
『ぎゃあああ……ぐぶっ』
「……ここにすでにいるじゃない」
≪偽物≫の針を壁から引き抜く。壁と針から血が滴り落ちた。
「ひ、ひええ……」
エイミアは怯えて辺りをキョロキョロしている。心配しなくても一人しかいなかったわよ。
「殺りましたか?」
「いえ、急所は微妙に外しといたわ」
「……良かったのですか?」
「いいのよ。ここで死なれちゃ、私達が迷惑だもん」
「え……死なれてって……」
ま、ここからは脱出したみたいだけど……一時間くらいってとこかな。
「……どうやったら、そんな絶妙な致命傷を与えられるのですか……」
……経験……かな。
「さて、邪魔者もいなくなったから話を進めましょうか…………どしたの?」
……何か……みんなドン引きしてる?
「「「……サーチ……怖い」」」
「…………怖くて結構です。私は仲間に被害を及ぼしかねない対象には、情をかけるつもりは一切ありませんので」
「そうですね。私達に牙を剥いてくる相手に加減する必要はありませんね」
「わ、私もそう思います。サーチは正しいと思います!」
「………………サーチ姉、最近イエスマンばっかりだけど、大丈夫?」
……リルとリジーに期待します。
「さて、いつものように大幅に話は逸れたけど……エイミアとリジーにも詳しいことを話すわ。いい?」
二人が頷いたので、エリトさんと話した内容を語り始めた……。
「わ、私が婚約!? 何故ですか!?」
「何故も何も……それをあんたのお父さんが勝手にやっちゃったから、めんどくさいことになってんじゃない」
「しかし……何故エイミアのお父様は、そこまで躍起になってるのでしょうか?」
「……と言うと?」
「エイミアがお父様と確執があるのはわかりました。しかしエイミアが家を飛び出した時点で、お父様との確執は解消に近い状態だったのではないかと」
……そうね。目の前から大っ嫌いな娘が消えたんだから……。
「それぐらいで納得するような父ではありません!」
エイミアが珍しく怒声をあげる。
「父は私に復讐するつもりなんです。その為に特にろくでもない男を、私にくっつけるつもりなんだと思います」
そ、そこまでするの!?
「そこまで執念深く復讐される事を、エイミアはお父様になさったのですか?」
「……心当たりは……あります」
「……何をしたのよ、あんたは……」
「何をって! 一緒にお風呂に入ろうって毎日毎日々々々々々々誘われたら! 嫌いにもなりますよ!」
「……いつの話?」
「家を飛び出す直前まで」
ろくでもないセクハラ親父だな!