第四話 ていうか、依頼の内容的に正直気が進みません……。
「ちょ、ちょっと待ってよ。参加する冒険者達は、みんな武器を持ってるわけでしょ? 何で護衛が必要なわけ?」
「その『武器を持ってる』という事が問題なのでして……」
……まさか……。
「……そのマラソン大会に……国賓クラスのゲストランナーが参加……とか?」
「……………………はい」
マジかよ。
「おい、ちょっと待てよ。何でその偉様に参加の許可を出したんだよ? 一緒に走るのは武器を携帯した冒険者、しかもモンスター襲撃の可能性大。どんだけ優秀な護衛が付いても、護りきるのは至難の技だぞ」
「そうです。警備上の理由だと言えば、そのVIPも諦めるでしょう」
……お客さんは、深い深いため息をついた。
「散々説明しました。パンドラーネの総代表やギルドマスターにまでご出陣を願って、考えて直してもらえないかと説得しました。ですが……」
首を左右に振る。納得しなかったわけか。
「ならやむを得ず。強制的に出場阻止で」
……そうね。そのVIPさんより上の立場の人にお断りをいれて、出場させないようにするか。
「あるいは、『警備です』と言い張って兵士を配置しまくり、身動きとれないようにしちゃうとか」
「あ、サーチ姉の案に一票」
「そうですね。その役を私達が引き受けてはどうでしょう?」
「いいじゃん。いざとなったらリジーの≪化かし騙し≫で偽物の敵でも作り出して、私達に襲わせるとかすればいいだろ」
「OKOK、それでいこ」
「ちょちょちょちょっと待って下さい!!」
何よ。せっかく話がまとまりかけてたのに。
「実はそのVIPの方がサーシャ・マーシャ陛下」
「「「「「マーシャン!?」」」」」
「……はい?」
「何だ、なら護衛なんか必要ないわよ」
「マーシャンは最強クラスの魔術士ですから」
「その気になれば転移もできるしな」
「全く問題ありませんね」
「うん、これで一件落着」
「あ、あの……?」
「マーシャン……じゃなかった、サーシャ・マーシャ陛下なら御一人でも一切問題ないわよ」
「あ、いえ。陛下御自身が参加されるのではなく……」
……?
「陛下が御推薦された方が参加されるのです……」
「………はあ?」
詳しく聞いてみると、最初は『警備上の理由』を盾に出場を拒んでいたそうだ。けど、実行委員会に突然マーシャンが乱入してきて……。
『妾が全責任を負う。じゃから参加を許可するように』
……と言い放って帰っていったらしい。そりゃあハイエルフの女王からの依頼、断れるわけないわ。
「……拒否すれば、人間以外の全種族を敵に回しかねないわな」
……何であのマーシャンがそれほどの権力を持ってんのよ……。
「……わかったわ。私達は個人的に陛下と面識があるから、事の次第を聞いてみるわ」
「た、助かります」
『……む、サーチか。何の用かえ?』
さっそく念話水晶を取り出し、マーシャンを呼び出した。珍しく一発で出たわね。
「何の用かえ? じゃないわよ! パンドラーネの件、一体どういうことよ?」
『パンドラーネの件? ……ああ、マラソン大会の出場の事かえ? 何故お主らが絡んでくる?』
「何でも何も、その護衛の依頼を受けたのが私達よ」
『………………本当にか?』
「マジよ」
マーシャンは頭を抱えて画面から消えた。
「ちょっと? マーシャン?」
『……仕方ない。全てを打ち明けるしかないな』
そんな呟きのあと、マーシャンが再び画面に現れた。
『今回の件、妾が変装して護衛に付くつもりじゃったのじゃ』
「はい? 女王自ら?」
『うむ』
「……どういうことよ?」
『単刀直入に言おう。参加を希望する者の実家に、「七つの美徳」の象徴の一つがある』
っ!?
『譲るよう頼んだのじゃが、その条件が「パンドラーネのマラソン大会に出場できるように取り計らってほしい」という事じゃったのでな』
……納得。
「マーシャンが頼んでもダメだったってことは……人間?」
『そうじゃ。参加を希望してきたのは……エリト・ドノヴァンという貴族のボンボンじゃ』
ドノヴァン!? まさか……。
一斉に視線を向けられたエイミアは、激しくため息を吐いて……。
「………………兄です」
……やっぱり……。
これは……エイミアには参加させないほうがいいか。
「エイミア。この仕事、申し訳ないけど……あんたは外れて」
「そ、そんな!! 何故ですか!?」
「お願い。今回は我慢して」
「わ、私も船の底抜きの一員ですよ! 私だけ仲間外れなんて……おかしいじゃないですか!!」
「あのね、別に仲間外れにしたいわけじゃないの」
「じゃあ何なんですか!?」
「……あんたが実家の超重要書類を売り払ってなければ、何の問題もなかったんだけどね……」
「うぐっ………………お、大人しく留守番してます」
……よろしい。
「ていうかエイミアにも働いてもらうからね? ホントにのほほんと、留守番しててもらうわけじゃないからね?」
「は、はい!」
「それじゃ……リジー、ちょっといい? 耳貸して」
「サーチ姉、返してよ」
「ホントに借りるんじゃないわよ! とっと耳貸せっつーの! ……いい? ゴニョゴニョ」
「あ、は、あ……い、息が……」
ぱかあんっ!
「……殴るわよ?」
「……既に殴られてる」
リジーに詳しいことを耳打ちする。
「……どう? できそう?」
「≪獣化≫を覚えたから無問題」
「OK! じゃあエイミアをお願いね」
「わかった。エイミア姉、来て」
「な、何ですか? 何をするんですか!?」
「いかがわしい事」
「な……! い、嫌ですよ! ねえ! ちょっと!」
ズルズルズル……
「いいいぃぃぃやああぁぁぁ……」
……人拐いみたいだから止めなさい。
エイミアとリジーが取り込み中の間に、依頼主を伴って護衛対象に会いに行くことにした。
「ねえ、護衛対象はどんな人だった?」
どうせろくでもないヤツだろうけど。
「そうですね………一言で言ってしまえば『THE・貴族』という印象でした」
やっぱろくでなし決定ね。
「あーあ……気が重い……」
ボヤきながらも足を進め、ついに超高級宿のスイートルーム前に到着した。
「いいですか? ノックしますよ?」
依頼主さんに頷き返す。
コンコン
「…………誰だ? 入りたまえ」
? ……妙に甲高い声ね。
「……失礼します」
「し、失礼しま〜〜す……」
エイミアのお兄さんは……机に向かっていた。何をしてんの?
「何用か?」
「あ、あの。今度護衛を担当することになりましたので。挨拶を、と思いまして」
「護衛? 要らないと言ったはずだが?」
た、確かにワガママ貴族っぽい。
「し、しかし他の冒険者にも被害が及ぶかもしれませんので、一応」
「そうか。その可能性があったか。ならばやむを得まい」
お? 意外と話せる?
すると、エイミア兄が振り向いた。
「「「…………!」」」
まさに、男版エイミアだった。
エイミア兄の外見は、髪が短くて胸がないエイミアです。