第二話 ていうか、あまりにもありすぎるポーション、どうしようか……。
リルが回復したのを期に、ソレイユは私達をパンドラーネ近郊に転移してくれた。
そしたら、そこで……ポーションの事を思い出した。
確か帝国にいたとき戦争のきな臭い雰囲気を感じた私は、絶対に需要がドンと増えて高騰するとみたポーションの買い占めを、エイミアに頼んで実行してもらったんだった。
「……それにしても……よくこれだけの数を……」
でも……帝国にいたときってまだ無限の小箱獲得前だったんじゃ……? どうやって持ち運んでたわけ?
「サーチに言われてから、ずっと買い集めてたんですよ」
……………はい?
「……私が言ったのは帝国の中で買い集めろ、ということであって……ずっと買い集めろとは、一言も言ってない」
「ええ!? そうだったんですか!?」
……まあ……エイミアに買ってこい、と言っておいて忘れてた私も悪いんだし。
「で? ポーションはどれくらい残ってるの?」
「あ、はい。ちょっとアイテム欄を見ますね」
……まさか……覚えられないくらいの量なわけ……?
「……あ、ありました。ポーションは……1、10、100、1000……2856本ありまごぶっ!?」
「そんだけ集めてどうするつもりだったのよ!? 流石に『変だなぁ?』とか思うでしょ!!」
「イ、イタタ……そ、それはそうなんですけど……サーチの言った事ですから、間違いなんてありえないと……」
……信頼感のありすぎは逆に困る……。
「でもいいじゃないですか。ポーションはいくらあっても困るモノではありませんし。実際にリルも助けられたわけですし」
「あーそうだなそうだな! 助けられたよ!! シャレにはならねえけどな!」
……あれから大分経ったけど……まだ痛いのね。
「まあリルはさておき……確かに消耗品で必需品だからいいか。しばらくはヴィーに頼らなくても大丈夫だし」
「それは助かります」
……結構疲れるみたいだしね、≪回復≫の重ねがけは。
「そういうわけだから、ポーションは使える限り使いましょ。無限の小箱に入ってるから腐る心配はないし」
「そ、そうですか! 良かったです、これでポーションは解決しました!」
………ん? ポーション……は?
「ちょい待ち。あんた溜め込んでるの、ポーションだけじゃないの?」
エイミアが開いていたステータスを覗き込む。すると……。
『毒消し、痺れ消し、薬草、一級薬草、特級薬草、血止め薬草、MPポーション、気付け薬、エーテル、瞬間接着剤・傷口用、薬草練り込み包帯』
……というのが見えた。ちなみに全て『×100』付き。さらに『エリクサー×15』という文字が目に入る。
「…………あ、あんたは」
「はい?」
「……げ、限度って言葉を知らんのかああああっ!」
どごげしぃ!
「いぎぃああああああああああ!」
「エ、エリクサーが十五個もあるのですか!? 一生食べるのに困りませんね」
実際にエリクサーがそれだけあれば、一生食っていけるくらいの金額にはなる。
「それにエーテルが百オーバーかよ……これでメイドさんが十人雇えるな……一生」
実際にエーテルが百オーバーなら、メイドさんを十人雇えるわね。それどころか、一生分の給料払ってもお釣りがくるわよ。
「それどころか、残りの回復アイテムだけで、もう一生分食っていけると思われ」
……つまりエイミアは、三人くらい一生食っていけるだけの散財をしてくれたわけで……。
「散財って……そういえばあんた、どうやってこれだけのモノのお金を!?」
「え? 自分のお金に決まってるじゃないですか」
「ま、まいまねー!?」
いやいや、いくらなんでもこの額は……。
「実はですね、実家を飛び出した時に幾つか持ち出したモノがあって……それを売ったら凄い金額になったんですよ!」
実家のモノを持ち出したあ!?
「い、一体何を持ち出したの?」
声を出しすぎたかな……喉が渇いた私は、水筒の水をがぶ飲みしながら聞いた。
「はい♪ 私の御先祖様が爵位と領地を王様から頂いた時の、それぞれの証明書類です」
ぶふぅー!
「きゃっ!? サーチ汚いですよ!」
「ゲホゲホゲホ……な、あんた、爵位と領地の証明書を売っちゃったの!?」
「はい♪ 仕返しです」
……そりゃあ……一生食ってける金額三人分くらいの値段にもなるわな……。
「いい? あんたが売った書類があれば、誰でもあんたの実家の領主になれちゃうのよ? つまりあんたの家族は路頭に迷うのよ?」
「はい♪ いい気味です」
黒い話題に♪を付けるな。
「………………そこまであんたに恨まれる、あんたの家族って一体………」
「はい♪ 人間のクズです」
……これ以上エイミアの家族の話題に触れないほうがいいか。だんだんエイミアが黒くなっていく気がする。
「……ここまで回復アイテムがあると、パーティどころか軍一つ分賄えますね……」
「全くよ……エイミア、あんた買い物したいときは、私達に相談してからになさい。あんたの金銭感覚はおかしすぎるわ……」
「わかりました」
……それよりも……この回復アイテムの山、どうすんのよ……。エイミアが買ったモノだから、勝手に売り飛ばすわけにもいかないし……。
「……サーチ、こういう場合は……見なかった事にしましょう!」
「ヴィーの言う通りだ。どうせ無限の小箱があるんだ、仕舞いっ放しでも問題ないだろ」
「賛成。ポーション二千本オーバー持ってるなんて知られたら、馬鹿扱い確定」
そうね……私でもそんな話聞いたら「……バカじゃないの」としか言えないだろうし。
「よし、封印指定ってことで……異議はありますか?」
「「「「「異議無し」です」だな」です!」いえ、ありです!」
「じゃあ一人だけ異議ありということで……ん?」
誰よ、異議があるヤツは!?
「申し訳ない、話に割り込んで……ちょっといいですか?」
……ていうか、あんた誰?
突然現れた怪しげな男に連れられ、私達は近くの喫茶店(?)に入った。
「で? あんたは何がしたいわけ?」
「大変失礼致しました。私はこういう者です」
そう言って名刺を出してきた……ってこっちの世界にも名刺があるのかよ!
「えっと……パンドラーネ主催・ギルド対抗マラソン大会実行委員会!?」
「はい、毎年恒例となっている一大イベントです」
……駅伝じゃないんだ。
「ギルド対抗って事は……?」
「文字通り、各都市のギルドからの選抜メンバーで争います」
……大学対抗じゃないんだ。
「その駅伝……じゃなかったマラソン大会の実行委員会が、私達に何の用?」
「あ、大変失礼致しました! 実はお願いがございまして……」
……お願いねえ……。
「あなた方のお話に出てきたポーション、ぜひお譲り頂けないかと思いまして……」
「……はい?」