第一話 ていうか、次はパンドラーネへ!
堕つる滝の最下層で見つけた『七つの美徳』の装備品は、金属でできた胸当てだった。
バストサイズもキチキチで作られた装甲は、私がつけてもブカブカなままなのに、エイミアがつけるとジャストサイズになる。
「これはもう……エイミア専用防具と言うしかないわね……」
「小手に、ティアラに、靴に、胸当て。あとの三つも防具の線が濃厚だな」
これで鍋とか包丁が出たらスゲエよ。
「まあ、何はともあれ……無事に回収できて、やれやれよ……」
こうして私達は『七つの美徳』の象徴の一つ、節制の胸当てを手に入れた。
「あれ? そういえばマーシャンがいないんだけど?」
「サーチ姉、別にいいんじゃない?」
「……そうね。行きましょうか」
……このとき、リルとヴィーが複雑な表情をしていたのが気になったけど……。マーシャン関連のことだし、どうでもいいか。
「へ、陛下!? 何故泣かれているのですか?」
「わ、わからぬ。急に胸を締め付けられるような悲しみが……」
「……姐さん、また何かやらかしたんじゃないですかい?」
「オシャチ!? お主はワシをそのような目で見ていたのか!?」
「あっしだけではないと思いますが?」
「……うわああああん!」
「……じゃあ次はどこにする?」
ベースキャンプを撤収しながら、みんなに声をかける。
「そうですね〜……ゴミ漁りで身も心もボロボロですから……パンドラーネで静養しませんか?」
「ヴィー。温泉を指定しないで〝八つの絶望〟を指定しなさい……リルは?」
「そうだな……今回は結構キツかったから、少しくらいパンドラーネでゆっくりしてもいいんじゃね?」
「……だから温泉から離れなさいっての。エイミアは……」
「……温泉……」
なぜか乙女ポーズでうっとりするエイミア。聞く間でもないわね。
「……サーチ姉。何故皆に行き先を聞きながら、パンドラーネのパンフレットを熟読してるの?」
「な、何でもないわよ! べ、別に私もパンドラーネに行きたいわけじゃないからね!」
「温泉でツンデレかよ!」
……結局、次の目的地はパンドラーネ……もとい闇深き森に決まった。
「へぇ〜、次は闇深き森にしたんだ……どうせパンドラーネ目当てでしょ?」
ぎくっ。
「まあいいけどさ……アタシも行こうかな〜〜」
「それよりさ、ソレイユに頼みがあるんだけど……」
「……言いたい事はわかるよ。ビキニアーマーだよね?」
「ええ。新しいヤツを作ってもらえないかと……」
「しょうがないな〜……なんてね。ハイ」
あ、あれ!? それは!!
「わ、私のビキニアーマー!! 何で!?」
「アタシが直々に作った防具だよ? 魔力を辿って取り寄せるくらい、簡単簡単」
ああ……! 千切れた場所も直ってる!
「ありがと〜、ソレイユ! いつかリルを半殺しにしてやるつもりだったけど……」
「ニャッ!?」
「いいっていいって。その代わり、リルをコキ使う権利が欲しいんだけど」
「ニャニャッ!?」
「どうぞどうぞ」
「ア゛ニャアア!?」
「……冗談だよ?」
「……冗談だからね?」
「お、お前ら……純真な私をからかって、そんなにおもしろいのかよ!?」
「「文句なしにおもしろい」」
「うぐっ……ち、ちくしょおおおおっ!」
あ、リルが走っていった。
「……サーチ、やり過ぎでは?」
ヴィーが苦言を呈するけど、こればっかりは許しません。
「魔王様も……悪乗りも程々にして下さいね?」
「はーいはい。へヴィーナもさあ、あんまり固い事ばっか言ってると、サーチに嫌われちゃうぞ?」
「な……! ま、魔王様!」
「あははは、冗談冗談。さ〜て、アタシも仕事が残ってるから。パンドラーネへ行くなら早くしてよ?」
「あ、ごめんごめん。エイミア、リルを捕まえてきて。そしたらパンドラーネへ出発よ!」
「わ、私がリルを捕まえるんですか!? ど、どうやって!?」
「……確かに。エイミア姉は、私達の中では一番『素早さ』が低い」
「大丈夫よ。エイミアには≪電糸網≫があるじゃない」
「あ、成程……」
エイミアはさっそく≪電糸網≫を広げる。すると、一分も経たないうちに。
「……いました! あの木の向こう側です!」
「ならエイミア、今リルがいる場所に弱い電撃を」
「はい! 程々の≪蓄電池≫!」
ズッドオオオン!
「え!? ちょっとエイミア! 今の電撃、普通に雷くらい威力なかった?」
「え? 一応加減して雷の10%くらいの威力にしましたよ?」
死ぬわっ!
「ヴィー、急いで治療して!」
「はい……またこのパターンですか……」
ごめんね。
すぐに黒焦げになったリルを発見し、ヴィーが治療してくれた。
けど……。
「これは……時間がかかりますよ。結構重傷です」
「マジで!? エイミア! あんたは加減ってヤツを知らないの!?」
「いひゃい! いひゃい! いひゃい!」
「とりあえず努力はします。≪回復≫」
あ。リルの口から出てた煙が消えた。もしかしてエクトプラズムだった?
「ん〜〜……やはり時間がかかります。≪回復≫で徐々に治していかないと、きちんと治らないかもしれませんので」
≪完全回復≫で一気に治すわけにはいかないのか。
「ねー、まだー?」
ソレイユは時間がないのか。弱ったな……。
「あの……私が持っているポーションを、併用して使えませんか?」
ポーションを?
「エイミア持っているのですか? 併用は可能ですので、ぜひ使って下さい」
エイミアは慌てて無限の小箱からポーションを引っ張り出す。
ゴトト! ガラガラガラガチャーン!
「ちょっと! ポーションのビン割れちゃった……って……えええ!? どんだけ出てくるのよ!!」
「まだまだあります! 飲ませますか? 直接かけますか?」
「あ、えっと。どちらでも……」
「ならジャンジャンいきます!」
バシャッ! バシャバシャバシャ!
「あ、待って! そんなに一気にかけると……」
「………………ぃぃぃぃいいいいってええええ!! いでいでいでえええええっ!!」
あ、リルが飛び起きた。
「……大量にかけちゃうと……急激に治る反動で、激痛に見舞われるのです……」
「いだああい! いで、いでえええええっ!」
「大丈夫……よね?」
「ええ。身体は治ってますから大丈夫です。ただ……痛いだけです」
ただ……痛いだけか。
「ちっきしょおお! 何でこんなに痛いんだよおお! いで、いでえっ!」
「す、すいませええん! リル大丈夫ですかあ!?」
「ふう……それにしても、何故エイミアはこんなにポーションを持っていたのですか?」
……何か覚えがあるような……?
次回、この大量のポーションが騒動を呼ぶ。