第二十一話 ていうか、ドラゴンさん達の探索終了! 結局見つからず……。
朝になって、ようやくドノヴァン特攻隊ドラゴン部隊が戻ってきた。
『ド、ドノヴァン特攻隊……?』
気にしないで。エイミアの黒歴史なんだから。
そして、アブドラから詳しい調査報告を受けることになった。
『おほん! ……では詳しい事を説明します。まずは堕つる滝入口より約20m下で見つかった横穴について……』
入口から20m下!? 意外と近い場所にあったのね。
『調査の結果……スカイスネークの住処でした』
がくっ。
『続きまして……その35m下にて見つかった亀裂について……』
亀裂か。大きさによっては、何かを隠すこともできるわよね。
『調査の結果……ただの亀裂でした』
がくっ。
『続きまして……その右斜め下にあった横穴について……』
………。
『調査の結果……何もありませんでした』
「ちょっと待って。横穴って全部で何ヵ所あったのよ?」
『全部で、ですか? 亀裂も含めれば………一千万ヶ所以上の報告があがっています』
……ちょっと待て。
「それ、全部調査してくれたのよね?」
『無論』
「……その結果を、全部読み上げる気?」
『無論』
……無言で深爪した。
『いだい! いだい! いだあああい!』
泣き叫ぶアブドラから調査報告書を奪い、ザッと目を通す。
「…………あ、たまに武器や装備品も見つかってるのね。それって集めてあるの?」
音竜達は尻尾をブンブン動かしながら頷いた。犬かよ。
「それ全部エイミアに献上して」
音竜達は『喜んで!』という顔をしながら、エイミアの前に戦利品を積み上げていく。
「へえ……結構あったのね」
「ど、どうします、これ……」
山のように積まれた武器や装備品を、呆気にとられた顔で見上げるエイミア。
「とりあえず、あんたの無限の小箱に収納しときなさいよ。落ち着いたら詳しく見てみましょ」
「は、はい」
エイミアは戦利品の山を、一気に無限の小箱に放り込んだ。
「……一気にこれだけの量が消えるって……何度見ても圧巻ですね」
ヴィーの呟きもわからないではない。無限の小箱を獲得してから結構経つけど、収納時のインパクトにはいまだに慣れないのよね……。
「あと……相当数のモンスターの死体もある……か」
流石にモンスターの死体は……当然素材はいっぱい取れるけど、剥ぎ取りだけで何年かかるやら……。
「ドロップアイテムだけは貰うわ。あとはあんた達が好きにして」
音竜達から歓声? があがる。
『ぐすんぐすん……サーチ殿、本当に貰っていいのか、と音竜達が申しておりますが……』
……深爪くらいで、大のドラゴンが泣くなっつーの。
「いいわよ。私達じゃ処理に困るだけだし。剥ぎ取りしようにも、時間がかかり過ぎちゃう……」
『わかりました。音竜にとっては一番のご褒美となりましょう』
そうなの?
『音竜達はもうすぐ繁殖期の為、今のうちに食糧集めに精を出すのです』
なるほど、切実だな。
「ワイバーンはいいの?」
『我らは魔素が食糧となります故、全く問題ありません』
「……だからダンジョンの近くに住み着いてるのね」
ダンジョンの近くは魔素が濃いからね。
あ、魔素ってのは、空中を漂う魔力みたいなモノの総称ね。
「ただ……結論から言えば、『七つの美徳』の象徴らしきモノは……発見できなかったのね」
『はい……申し訳ありませぬ』
別にアブドラ達を責めるつもりはないわよ。
「それに……ダンジョンの壁を探さなくてもいいってのは、堕つる滝ではマジでありがたいし」
九割以上壁だからね。
『成程……調査すべき場所は、自ずと限定されますな』
……誰も到達したことがない……最下層。
「……リジーの様子はどう? もうそろそろ来れそう?」
最下層に行くのなら、リルとリジーの戦力は不可欠なので、念話水晶でリルに連絡をしたんだけど……。
『ダメだな。まだいまいち安定しないんだよ』
「そう……じゃあ、まだ無意識で≪化かし騙し≫を発動しちゃう?」
『……悪いときは、寝ながら発動しやがんだよ……』
そりゃダメだ……ちょっと連れていけないわね。
『何だ? まだダンジョンへ潜ってないのか?』
「ヴィーのアイディアでさ、音竜の力を借りたのよ」
『音竜!? どうやって!?』
「エイミアの≪竜の絆≫よ。効果てき面だったけど……結局見つからなかったわ」
『音竜でもか……』
「で、可能性が残されたのは、まだ誰も到達したことがない最下層ってわけ」
『なーるほどな……それで私に声をかけたってわけか……すまねえな』
「仕方ないわよ。他の助っ人を考えるわ」
『他の助っ人? ……ま、まさか!?』
「そ。まさか」
「……というわけでリルとリジーは不参加決定」
「え!? それは困りましたね……」
夜。
私達は夕ご飯を食べがてら、リルとリジーが欠員することへの対策を話し合っていた。
すると、エイミアが得意気に言った。
「大丈夫じゃないですか? アブドラさんや音竜さんの力を貸してもらえば」
「……あんたさあ……アブドラの話を聞いてなかったの?」
「へ?」
聞いてなかったのね……。
「音竜達はもうすぐ繁殖期だって言ってたじゃない。今は準備で大事な時期だから、あまり迷惑はかけられないでしょ」
「そ、そうですね……うーん……」
さっきの勢いはどこに行ったのか、急に静かになるエイミア。あんたが言ったことは、とっくに検討済みよ。
「魔王様に……頼んでみますか?」
「ヴィーもムチャ言うわね……ソレイユはMP切れでウンウン唸ってたわよ?」
「うー……そうなんですが……」
さて……そろそろかな。
「そういうわけで、私が個人的に助っ人を呼んじゃいました」
「「ええ!?」」
「たぶんあんた達じゃ伝がないと思ってねー。ビックリしたでしょ?」
「い、一体誰ですか!? 私の知ってる方ですか?」
「そーねー……ヴィーは知ってるでしょうけど、会ったことはないわね」
「はい! はい! 私は!?」
「あんたが知らないはずはないわ」
「「う、う〜〜ん……」」
……ヴィーはともかく、エイミアがわからないのはダメだからね……。
「…………あ、わかりました!」
エイミア、どうぞ!
「リフター伯爵夫人ですね!」
……あ、背後でコケた気配が。来てるのね。
「ブッブー。違います」
「……もしかして……秘密の村の死霊魔術士ですか?」
「ブッブー」
「あ! 帝国の革命の時の……〝下弦の弓〟!」
「ブッブー」
「……デュラハーンさん?」
「ブッブー」
……この問答が三十分続いた。だんだん飽きてきたわよ。
「もういいわ! 正解ね……出てきていいわよ」
「………………しくしくしく」
「……え? この声は……」
「もうワシの事を忘れたのじゃな、エイミア……しくしくしく」
エイミアは口をパクパクさせてから、叫んだ。
「マ、マーシャン!」
ついにマーシャン降臨。