第十九話 ていうか、やることがないので、とりあえず待機……。
「リジー、突然でしたね」
ヴィーの言葉に、笑って頷くエイミア。
「でも、リジーらしいって言えばリジーらしいですよね」
……確かに。
「リルとリジーが一時的であってもパーティを抜けた以上、フォーメーションを変更するしかないわね……エイミア、あんたは完全に前衛で固定するわ」
「はい」
「では私は、後衛の支援型に徹すれば良いですか?」
「お願い。私は前衛と遊撃を兼ねるわ」
大まかに戦いのときのフォーメーションについて話し合ってから、もう一回テントの設営を始めた。
「…………」
「……? どうしたのですか、サーチ」
私の反対側で、手伝う気満々で立ってるヴィーには悪いけど……。
「……ごめん。普通の野営の準備に変更。テントも簡易テントでいいや」
丸まった簡易テントを取り出して、魔力を込めて投げる。瞬時に広がってテントの形になり、地面に落ちた。
「え、いいのですか?」
「ん……もう一回長期滞在型を設営する気になんないし……」
「……そうですね、わかりました」
ヴィーはそう言って簡易テントを取り出した。何故かはわからないけど……ヴィーとエイミアと私。この三人で一緒に寝るのは、非常に危険な予感がしたんだよね……。
(注! 長期滞在型はやや大きめなサイズのため、三人寝られます。簡易テントの場合は小さいので、ぎゅうぎゅう詰めで二人が限度)
ブルルッ!? 強烈な寒気!?
「…………わ、私は今日は一人で寝るわ。ヴィーはエイミアと寝なさいよ」
「? ……は、はい」
ヴィーは首を傾げ、少しだけ残念そうな顔をしながら、エイミアにその旨を伝えに言った。
「……何でだろう……三人一緒に寝た場合、純潔?を失うような気がした……」
……今回ほどリルとリジーの存在の大きさを感じたことはなかった……。
自分のテントの周りに罠を仕掛けまくったのは、主にヴィー対策だった……というのは、絶対に秘密な事項である。
頑丈に張り巡らした聖杭のおかげで、モンスターに襲われることなく朝になった。モンスター除けの聖杭は消耗品だから、もったいないけど……たまにはいいか。
「ふあ〜あ……よく寝た……あれ?」
何か罠に引っ掛かってる……?
「って……何してんのよ、ヴィー」
「サ、サーチ!! 何ですか、これは!?」
見事に足をロープに持っていかれ、ぶら下がっているヴィーが怒り心頭で叫んでいた。
「ていうか……何で罠に引っ掛かってるのよ……」
「サーチを起こしに来たら……」
あらら。それはごめんなさい。
「心配しなくても、私はあんたやエイミアみたいに寝坊助じゃないわよ?」
「そ、そうかもしれませんけど……! 今日は久々に朝早く目が覚めたので……いつもとは逆に、私がサーチを起こそうと……」
なるほど、それでこっそり近づいてきて……この状態になったと。
「まあ心意気は良しとしときましょう。それより……」
ヴィーは普段からスカートが多い。当然、今日もだ。つまり……。
「み、見ないで下さい!」
必死になって垂れ下がるスカートをたくし上げているわけで。
「前だけ隠しても、後ろががら空き〜♪ ……あ、青だ」
「ぎゃあああ! 見ちゃ駄目です!」
今度は後ろを隠す。つまり、前ががら空き。
「あらら♪ ヴィーったら、大胆なデザインの……♪」
「も、もおおお! いい加減にして下さい! そんなに見たければいつでも見せてあげ……あ」
「……何を口走ってんのよ、あんた……」
「あ、いや、その……」
……何とも言えない空気が辺りに広がる……。
ばちばちばちぃ!
ぶちっ!
「え……きゃあああ!」
ずどおおおん!
その空気を引き裂くように電気が走り、ヴィーの足を縛っていたヒモが千切れ……地面にめり込んだ。完全にスケ○ヨった。
「……あ、おはよエイミア」
「おはようございます! サーチ、ヴィーに何をしてるんですか!」
「何をしてるって……ヴィーが罠に引っ掛かってたから、見物を」
「け、見物って……! 何故早く下ろしてあげないんですか!?」
「だって、下ろしたらヴィーの下着を見物できないじゃない」
「いや、ですから……! ヴィーの下着見物、そのモノに問題が……」
「あんたは見たくないの?」
「え? そりゃあ興味は無いわけでは……」
「ならいいじゃない! 今ならブラも見放題よ!」
ヴィーのシャツをめくって覗き込む。おお、あんびりーばぼー。
「うわ、凄い! ヴィーって意外と……」
結局見にきたエイミア。さっきまでの正論はどこいったのよ。
……すると。
「この透け具合、参考になりまもがっ!?」
突然エイミアの言葉の語尾が変になったので振り返ると……。
「……どこから蛇が? あ、地中からか……」
地面から生えてきた蛇に、エイミアの頭が丸飲みにされていた。ヴィーの頭の蛇ね。
「これはヴィーを引っこ抜いたほうがいいか……えいっ!」
「ぅ〜〜……ぶはあっ!」
ポンッ!
ふは! 抜けた!
「ヴィー、大丈夫?」
「ゲホゲホゲホ! ……サ、サーチありがとうございます。助かりました……」
「うん、いいんだけどね。エイミアは丸飲みなの?」
「落としたのはエイミアじゃありませんか!」
……そうだけど……ヴィーを吊り下げる結果になったのは、私が原因なんだけど……。
「いえ、それは私の責任ですから」
私、ぶら下がっているヴィーの下着を見まくったんですけど……。
「いえ、相手がサーチでしたら問題無いです」
「問題ないの!?」
「はい。エイミアでしたら問題ありありですが、サーチでしたら無問題です」
何故!?
「それはともかく。少しエイミアを懲らしめてきますので……失礼」
「う〜! う〜!」
エイミアの頭を口に入れたまま、ヴィーは簡易テントの中に入っていった。
「……ヴィーが怒るのはわからないでもないけど……私だけ無条件で許されるのは一体……」
テントの中で「エイミアも大胆じゃないですか」とか、「あら、また大きくなったのですね」とかヴィーが呟くのが聞こえた。何をしてるのやら……。
私一人で呆然としていると、アブドラが戻ってきた。
『サーチ殿!』
「あ、あれ? 戻ってくるの早かったわね?」
『エイミア様に何があったのだ!』
「へ?」
『先程からエイミア様の悲鳴じみた念話が届いておる!』
あ、そういうことか。
「エイミアがヴィーを怒らせちゃったのよ」
『エイミア様がヴィー殿を?』
「そ。ジャレ合いみたいなモノだから気にしないで」
『……しかし、尋常ではない叫び声だが……』
……確かに【いやん】だの【ばかん】だの聞こえてくるけど……ヴィー、何をしてるの?
「…………まあ、私が何とかするから。まかせてよ、ね?」
『う、うむ……サーチ殿がそう言うなら……』
アブドラが不承不承ながらも、再び飛び立っていった。
……全ての下着を没収されたエイミアが半泣きで出てきたのは、二時間後だった。ヴィー、マジで何をしてんのよ……。