第十八話 ていうか、ドラゴン達が出発して私達は待機。そんなときに、リジーに異変が起きる?
ギャアギャアギャア!
「……すっげえ数……流石はエイミアのお友達……」
「お友達じゃありません!」
エイミアがそう言い返したとき。
ギャ!? ギャギャ!?
音竜が一斉にエイミアをガン見した。みんな一様に哀しげな顔をしてるのは、気のせいじゃないと思う。
「エイミア……ちゃんと友達宣言しないと、協力してくれないかもよ?」
「え゛……」
絶句するエイミア。そのエイミアを注視する音竜。
「……う……み、皆、友達ぃぃーーーー! 協力してくれるかなあああああ?」
ギャギャギャー!
音竜は飛びながらも器用に方翼を突き上げた。何と返答したかは、言う間でもないかと。
ドラゴンにも広めよう、友達の輪。
音竜達が「乗せてってくれるそうです(エイミア談)」とのことなので、お言葉に甘えることにした。
「それじゃあアブドラが陣頭指揮を取ってくれるのね?」
『はい。及ばずながら我らワイバーンも、エイミア様をお助け出来れば、と』
私はアブドラの背中に乗って、堕つる滝内の探索の打ち合わせをしている。
他のみんなは、というと……。
「た、た、高いニャアア! 下ろしてニャ! 助けてニャ!」
……最近、さらに高い所が苦手になったリル。背中で騒がれるのがうるさいらしく、乗せてくれてるワイバーンがめっちゃ迷惑そうにしている。
『どうだ? 我は乗り心地も最高であろう?』
「は、はい……ありがとうございます……」
エイミアは滝の真竜に騎乗中……いや、騎乗ではないか。なぜかといえば……。
「あ、あの……普通に背中に乗せてもらえませんか……?」
『断る。古代より女性を抱く作法は、これに限ると伝えられておる』
ウソつけぇ!
お姫様抱っこが作法のわけないでしょ!
「√∪_〜>¥@∀〆∞%〇!」
ギャ! ギャギャギャア!
そして我がパーティの不思議系担当、リジー。なぜか音竜と通ずる何かがあったらしく、ずっと談笑していた。ていうか言葉がよくわかるな。
「……くぅ〜〜……アブドラ許すまじ! サーチとは私が同乗するはずだったのに……」
最後にヴィー。何かぶつぶつと言いながら、ずっとアブドラを蛇睨みしている。ヴィーを乗せてる音竜は気味が悪いらしく、ずっと視線を逸らしていた。
『わかりました。ではそのような手筈で』
「よろしく、危ないドラゴンさん」
『だから……! む、見えてきましたぞ! 堕つる滝です!』
私達の視線の先には、大量の煙を思わせる水蒸気が立ち上っていた。
『では、我らは探索に行って参ります……全員、エイミア様に敬礼!』
ワイバーンだけではなく音竜も、ビシッと敬礼を決めた。ただ敬礼のせいで、バランスを崩して墜ちていく音竜がいたけど……ま、大丈夫でしょ。
『我はダンジョンコアの様子を見てくる』
滝の真竜もそう言い残して飛び立っていった。
「…………」
ていうか……私達は、何をしてればいいの?
「……とりあえず……ドラゴン達が戻ってくるまで、ここで待機してるしかありませんね……」
……しかないか。
「まずはベースキャンプの設営ね」
「ベースキャンプ? そこまで長丁場になるのか?」
「……たぶん、ね」
私はいつもの簡易テントではなく、長期滞在用の頑丈なテントを取り出した。
いつもの野営みたく、一二日で終わるようなモノじゃなさそうだし……。
「ヴィーとリルは聖杭を打ち込んできて。私とリジーとでテントの設営。エイミアはいつでもドラゴンと交信できるように待機。ついでに辺りの警戒もお願い」
「「「「はーい」」」」
さて……テントを設営してから、夕ご飯の準備を始めますか。
私は気づかなかった。このときから、リジーに異変が起きていたことを。
私とリジーのコンビで、順調にテントの設営を進めていた。
「サーチ姉、そっち持って」
「いくわよ〜……はい!」
グイイ……
「……OK! 次のテント行くわよ〜」
「痛い!」
「? ……まあいいか。リジー、準備はいい?」
「少し待って……よいしょ、よいしょ」
「痛い!」
「?? ……何か騒がしいわね……」
「サーチ姉、いいよ!」
「あ、はいはい……せーの!」
びいんっ!
「強すぎ強すぎ! 少し緩めて!」
ええ!? さっきより弱いくらいだけど……?
「これくらい……?」
「強すぎ強すぎ強すぎ!」
「はあ!? 私引っ張ってないわよ!」
「!? でもどんどん引っ張られてる……あれ? 蛇?」
「痛いって言ってるじゃないですか!」
……ヴィーの蛇?
「……何で私達はヴィーの蛇を引っ張ってたの?」
「わ、私が聞きたいですよ! 急に引っ張られたかと思ったら……」
ヴィーの言葉を聞いて辺りを見ると……へっ!?
「ちょっと! さっき設営したテントは!?」
「!? ない! テントが無くなってる!」
できあがってたはずのテントは、袋に入ったまま置かれていた……何で!?
「一体何が……? まるで狐につままれたような……」
リルの一言でハッとなった。
「リジー! あんた何かしたの!?」
「わ、私!? 何もしていない!」
「ウソつくな! どう見てもあんたの≪化かし騙し≫でしょうが!?」
「痛い痛い痛い! 頬っぺた引っ張らないで!」
「あんたもエイミアみたいに、限界を越えてみる!?」
「ちょっと待って下さい! 痛い痛い痛い! 痛いですよサーチ!」
この! この! ってあれ? リジーの顔がボヤけていく……?
「……あ、あれ? 何で私ヴィーの頬っぺた引っ張ってるの?」
「わ、私が聞きたいです! さっきから何なんですか、もう!」
プンスカ怒り出すヴィー。可愛いな、おい……じゃなくて!
「ちょっとリジー! 一体何がしたいのよ!」
どこにいるかわからなくなったリジーに呼び掛ける。何か周りの景色すら歪んできてるし。
「うー、わからない。何故か≪化かし騙し≫が暴走してる」
スキルが勝手に暴走って……んなバカな!
「……ああ、なるほどな。そういうことか」
リジーを含めて全員パニクってるなか、意外や意外、冷静な声を発したのは……リルだった。
「リル? どういうことかわかるの?」
「ああ。これは≪獣化≫を修得する前の暴走だな」
「≪獣化≫!? リジーが?」
「ああ。リジーは一応は狐獣人だからな。≪獣化≫を覚えられるさ」
「……そうなんだ」
「≪獣化≫は特殊なスキルでさ。修得するより、慣れるほうのが大変なのさ」
「わ、私、どうすれば……」
「ん〜……仕方ねえな……自分じゃどうしようもねえんだろ?」
「う、うん」
「……ごめん」
どがっ!
「くは……がくっ」
リジーが息を吐く音がしたと思うと、歪んでいた景色は急速に元に戻っていった。
すると、白目を剥いて気絶しているリジーを抱えたリルが現れた。
「こうなっちまうと、術者が気絶しない限り解除できないからな。ちょっとぶん殴った」
ちょっとって……めっちゃデカいたんこぶ、できてるけど……。
「慣れるのに難しいスキルか……どうすればコントロールできるようになるの?」
「う〜……これは身体で覚えるしかないからな……私がマンツーマンで教えるしかないか」
「リルが?」
「ああ……暴走するとシャレになんねーからな」
……確かに。
「サーチ、悪いけど堕つる滝はお前らだけで行ってくれ。私とリジーはしばらく離れるわ」
……了解。