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第十六話 ていうか、アクアマスターとの対談。通訳はアブドラ。

 滝の真竜(アクアマスター)は、私が見てきた真竜(マスタードラゴン)の中では、一番真竜(それ)っぽい姿をしている。

 20〜30mはあるであろう堂々たる体躯、どんな攻撃も跳ね返すであろう全身の翡翠の鱗、立ち塞がる愚か者を全て噛み砕くであろう純白の牙……まさに(ドラゴン)だ。

 その滝の真竜(アクアマスター)が私達の前に現れて、最初に言い放ったのは。


『……腹が減ったぞ』


 ……だったそうだ。(アブドラ談)



「……何よ、もう……こっちは臨戦態勢で待ち構えてたのに、最初の一言が『腹減った』って……」


 そう言うと、滝の真竜(アクアマスター)はギロリと睨んで唸った。


「な、何よ……何て言ってんのよ……」


 戸惑う様子を見て、言葉が通じないことを思い出したらしく、アブドラを睨んで唸った。


『ひ!? わ、わかりました』


「何て言ってるのよ? お願いだから通訳してくれない? 危ないドラゴンさん」


『だから危ないドラゴンではない! アブドラは名であって、短縮してあるわけではない!』


 アブドラが名前か……じゃあ……。


「あんたの姓はブッチャとか?」


『違うわああああ!!』


「あ、間に『THE』がいるのか」


『いらぬわああああ! 貴様、どれだけ私を愚弄すれば……!』


 その瞬間にアブドラは、滝の真竜(アクアマスター)の水流を食らった。


『ぶべはぁ!?』


 滝の真竜(アクアマスター)が機嫌悪そうに唸る。たぶんあれは『真面目にやれ』というつっこみだと思う。


『ゲホゲホ! ……も、申し訳ありません』


 滝の真竜(アクアマスター)が頷く。これでやっと会話ができそうね。


『おほん! ……では通訳させていただきます。其処にいる娘は、我が見初めし者の連れではないのか? と仰っておられます』


「そうよ。あんたが見初めた相手は、私がリーダーをしてるパーティの一員なのよ……はい、通訳!」


 アブドラが滝の真竜(アクアマスター)に向いて、グワグワギャアギャアと唸る。あれがドラゴン語なのかしら?

 アブドラの唸りに滝の真竜(アクアマスター)が唸り返して、私を睨む。


『お前がリーダーか。ならば話が早い。私が見初めし者を引き渡してもらおう。従わなければ、近くの人間の町もろとも滅ぼしてくれるわ……と仰っておられます』


「ふざけんじゃないわよ! エイミアは私達の大切な仲間なんだから、ホイホイとあげたりするわけないでしょ! もしダウロを滅ぼそうってのなら、あんたを口から裂いて蒲焼きにしてやるわ! はい、通訳して」


『そのまま伝えていいのか?』


「いいわけないでしょ! そのぐらい自分で判断して翻訳してよ!」


『……何故私がこのような雑用を……ぎぃああ!』


 いいタイミングで滝の真竜(アクアマスター)水流(つっこみ)がはいる。


『わ、わかりました! ちゃんと誠心誠意、通訳させていただきます!』


 ……念話で会話してるからよくわかるんだけど、アブドラの痛々しい心の傷がバシバシ伝わってくる。ちょっと扱いが雑だったかな……。


『……早く牛女を出せ、露出狂と仰っておられます』


「…………」


 無言でアブドラに深爪した。


『んぎゃあああああああ! 爪が爪が爪があああ!』


「……よく聞こえなかったわ。滝の真竜(アクアマスター)は何て言ったのかしら?」


『わかった! ちゃんと通訳する! だから深爪は勘弁してくれえええ!!』


「……つまり、露出狂って言ったのは滝の真竜(アクアマスター)ではなく、あんた自身ってことね?」


『わ、悪かった。許してくれぎぃえええええ! 爪が爪が爪があああ!』



 アブドラを間に挟んでの会話だったので、時間がかかること、かかること……。


「……結構時間が経ったのに……結局、平行線か……」


 まあ、時間は相当稼げたから……エイミアの治療も済んでると思うけど。


「ヴィー、どう?」


「治療は万全なんですけど……気が付く度に滝の真竜(アクアマスター)が目に入って、また気絶する……の繰り返しです」


「はあ……やっぱりそうなってるのね……」


 エイミアが正気の状態じゃないと、どうしようもならないし……。


「ヴィー、聖術でちっちゃい氷作れる?」


「え? つ、作れますけど……?」


「じゃあ指先くらいのを、二つ作って」


「わかりました。≪聖氷弾≫ホーリー・アイスバレット、弱」


 ヴィーの右手から、注文通りの大きさの氷が落ちてきた。それを持ってエイミアの身体を起こし、まずは胸の谷間に放り込む。


「…………っ!? 冷たい!?」


 エイミアが目を覚ました。よし、チャンス!

 止めに背中に投入。


「んにゃ? ……きいあああああああああ!!」


 よし、完全に覚醒したわね。


「はい、エイミア! すぐに角笛を出す!」


「え? あ、は、はい!」


「よーし、じゃあおもいっっきり吹き鳴らしなさい!」


「はい!」


 ぷすーっ


「ぷすーっじゃねえよ! 何で肝心なときにミスるのよ、あんたは!!」


「いひゃい! いひゃい!」


「今度こそ気合い入れていきなさいよー!」


 引っ張っていたエイミアの頬っぺたを離すと、「ぴちんっ」と音を立てて戻った。ゴムかっつーの。


「……じゃあ……行きます! 滝の真竜(アクアマスター)よ、力を貸して……!」



【擬音では表現不可能な爆音が響き渡る】



「あきゃあああああ!」


 み、耳がああ!


「き、きーんってなりました! きーんって……」


「……やーまのおてらの……かねがなりすぎぃ……」


 あ、耳がいいリルは目を回した。

 それにしても……! 耳の中に爆竹を放り込んだくらいの音が……!


「エイミア! 極端すぎるのよ!」


「へ? どういう事ですか?」


「……あんた、耳は大丈夫なの?」


「??」


「……もういいわ」


 角笛を吹いてる本人には、何も影響がないみたいね……。


「サ、サーチ姉! 大変! あれあれあれ!」


「な、何よリジー……ぎゃあああ!」


 振り返ると、大口を開けた滝の真竜(アクアマスター)が!


「食われるぅぅぅっ!」

「ぎぃああああああ!」

「私を食うと呪われる……」

「サーチ! 最後の時は一緒にぃぃ!」


 ………。

 ………。

 ………。

 ……あれ?


「……滝の真竜(アクアマスター)の口、どこいった?」


「……あれ? 私達……食べられてない?」


「……呪い殺せた?」


 それはない。


「それとヴィー。さっきの妄言については、きっちりと事情聴取しますからね?」


「え? 私、何か言いました?」


「……あとから二人でよーく話しましょう」


「! はい、二人っきりで! うふふ……」


 いかん。喜ばせてどうする。


「あ、あの……滝の真竜(アクアマスター)は何処へ……?」


 あ、忘れてた。


「……あんなでっかいのが、一瞬で消えたわね……」


「エイミア姉の角笛に驚いて、逃げたとか?」


「まさか……」


『そうだ。我が逃げるはずがなかろう』


 ……ん!?


「誰!?」


『我は滝の真竜(アクアマスター)なり』


「サーチ、上です!」


 ヴィーの言葉に反応して、上を見ると。


「…………は?」


 ……小デブが浮かんでいた。

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