第十五話 ていうか「ぎいああああああああ!」
「……ねえ、サーチ」
「ん〜? 何よヴィー」
堕つる滝に向かうため、食糧等の点検をしていたとき、ヴィーが話しかけてきた。
「……本当に鎧はいらないのですか?」
「いらないいらない。今までのビキニアーマーだって、あってないようなモノだったでしょ?」
「そ、そうなんですけど……」
ヴィーは「……用心の為に……」と言って、臨時で革鎧を薦めてくれているのだ。けど……今はダメだ。
「もう少しで〝竹蜻蛉〟の何かが掴めそうな気がするの。だから……ごめんね」
「……そこまで言うのでしたら……」
諦めたらしく、ヴィーは干し肉のチェックを再開した。それを見てから私も武器のチェックに戻る。
「……チッ。あの武器屋、ろくなモノ売りつけてきたわね……投げナイフ、半分以上欠けちゃってるじゃない」
あとで文句言ってやる、と心に決めたとき。
「……〜〜っ! ああ、やっぱり駄目です!」
「? ……どうしたの、ヴィー」
「やっぱり目に毒です! 危険です! 私の衝動を抑えきれません!」
しょ、衝動……?
「やはり下着は着けてください! ニプレスをしてれば良いという問題ではありません!」
「…………あ、そういうことか。ごめんごめん……ていうか、抑えきれない衝動って……」
「え? あ、あの、それは……深い意味はありません!」
「……最初から深くもないし、むしろ浅いと言うか、丸わかりというか……」
「はぅ!? わわわわ忘れて下さい!」
……はい、消去しまーす。ていうか……可愛いな、おい。
ヴィーの抗議を受けて、仕方ないので下着を着けた。そしたら。
「……黒は止めろよ、もろに透けてるぞ」
……いちいちうるさいなあ……早くビキニアーマーを手に入れたい、と切実に思うわ。
「それはさておき……明日には堕つる滝へ向かおうと思うんだけど……エイミア、逃げちゃダメよ」
こっそりと脱け出そうとしていたエイミアが、ビクッと反応して止まる。
「だ、だって! 暴食ですよ! 暴食なんですよ! 暴食しちゃうんですよ!」
言いたいことはわかる。だから落ち着け。
「大丈夫だって。確かにあんたは歯応えが良さそうだけど」
「ぎいああああああああ!」
「お、おい落ち着けエイミア! サーチ、余計なこと言ってエイミアを錯乱させんじゃねえよ!」
ごめんごめん。おもしろそうだったから、つい。
「サーチが大丈夫だ、と言う根拠は何ですか?」
「簡単よ。エイミアは≪竜の絆≫があるんだから、角笛を一回吹いてスキルを発動させれば、食われることはないわよ」
「……そうでしたね。角笛がありましたね……エメラふぐっ!?」
「……それ以上は言っちゃダメよ。自爆系魔術並みにヤバいからね?」
「ふぐぶぐ……は、はい! わかりました! わかりましたから、密着しないで下さあああい!」
顔を真っ先にして鼻を摘まんだヴィーは、ダッシュで部屋から飛び出していった。なぜ?
「サーチ姉、シャツと下着の状態での密着は、ビキニアーマーより強烈かと」
……あ、なるほど。
しばらくして戻ってきたヴィーが、鼻にティッシュ(っぽいヤツ)を詰め込んで戻ってきた。何があったのよ……?
さっきの≪竜の絆≫と角笛の説明をし、やっとエイミアは大人しくなった。
「本当に大丈夫ですよね? 食べられませんよね!?」
「大丈夫だって」
……たぶん。
「ぎいああああああああ!」
「落ち着け! 落ち着けっての、エイミア! サーチ、一体何をしやがった!?」
「何にもしてないわよ!」
ていうか私の考えたことが、何でエイミアに伝わるのよ!
「サーチ姉、口が動いてた」
……はい?
「口パクではっきりとわかった」
「へ? そうなの?」
「……お前、かなりの確率で口パクしてるぞ」
マジで!?
「「「マジでって言ってましたよね?」」」
「うぐ……気、気をつけます……」
口パクか……これが私の心の声がよくバレてた原因か。
「……それだけではないんですが……」
「何か言った? ヴィー」
「いえ、何でもありません」
……まあいいわ。このことは、きっっちり問い詰めてやるんだから。
「……話を戻すけど、エイミアには≪竜の絆≫を結ぶきっかけになった、ワイバーンの知り合いがいるわよね?」
「ぎいああああ……あ? あ、はい。アブドラさんですね」
「そのアブドラ達に力を借りましょ。いくら真竜でも、同じドラゴン相手なら苦戦もするでしょ」
「あ、そ、そうですね! 早速連絡してみます!」
まだ堕つる滝に行ってないのに……気が早いわね。
「それだけの恐怖なのでしょう。私も恐怖の対象はありますから」
ヴィーにも?
「……ナメクジ?」
「何故ですか!? まあ、生理的には受け付けませんが……」
じゃあ何だろ? マングースかな?
「…………ゴキブリです…………」
……納得。
「もしもし? もしもーし?」
「あれ? エイミア、アブドラさんと繋がらないの?」
「いえ、一度繋がったんです……だけど滝の真竜の話をした途端に、『この番号は現在使われていません』とか言って、切れました」
……………逃げたわね。
「エイミア、遠慮なく角笛を吹き鳴らしなさい」
「は、はい」
エイミアは角笛を取り出すと、息をおもいっきり吸い込んだ。
町の外れで待っていると、スゴスゴとアブドラが現れた。
『お、お久しぶりでございます、エイミア様……』
「ねえ、危ないドラゴンさん」
『危ないドラゴンではない! 何度も言うが、アブドラは危ないドラゴンの略ではない!』
「そりゃ失敬。で、聞きたいんだけどさ……何でエイミアの呼び掛けをブッチしたわけ?」
『あ、いやその……』
「……ちゃんと答えてくださいね!」
エイミアの言葉には逆らえないみたいで、あっさりと吐いた。
『……滝の真竜様に、エイミア様を献上するように言われてまして……』
「け、献上って……」
『…………そろそろ脂が乗ってきた頃だろうと』
「ぎいああああああああ!」
やっぱり暴食だったー!
「落ち着けって! 何でみんなでエイミアを脅すんだっつーの!」
いや、今回のは私は悪くないけど……。
「た、た、大変ですぅぅ!」
そんなときに、ヴィーが血相を変えて話に割り込んできた。
「ど、どうしたのよ!」
「あ、あれを……!」
ヴィーが指差す先には。身体をくねくねと捻らせながら飛んでくる、長ーいヤツが……って!
「あ、あれは滝の真竜!?」
「ぎいああああああああ……がくっ」
「あーあ、気絶しちゃった……知らねぇぞ、もう」