第十四話 ていうか、ダウロに転移したんですけど……。
どっぼおおおん!
「がーぼ!? がぼがぼ!」
い、いきなり水!?
川の上に転移したのかしら……相変わらず不安定な転移ね!
「ぶはあ! ……みんな、大丈夫!?」
「は、はい! 私は大丈夫です」
隣にエイミアがいる。
「大丈夫い」
リジーもいる。最後の「い」が気になるけど。
「あとは……リルは!?」
泳げないリルがいないってのは、かなり深刻なんですけど……!
「……アニャアアア! 泳げニャいニャ! 足がつかニャいニャ!」
あ、上流からリルの叫び声が。良かった。
「サーチ、エイミア、リジー! 掴まって下さい!」
岸からヴィーが蛇を伸ばしてくれたので、それに掴まる。
「ヴィーも無事だったのね!」
「私は運良く岸に転移しましたので! リルはいないのですか!?」
「上流から流れてくるわ! どうにか掴まえてもらえる?」
「わかりました! やってみます!」
そう言うと、一回り太い蛇を伸ばして待機させた。
しばらくすると……。
「お、泳げニャいニャ! 足がつかニャいニャ! 助けてニャーー!」
……上流から溺れたリルが、ニャンぶらこ、ニャンぶらこと流れてきた。
「リル、掴まって下さーい!」
絶妙なタイミングで伸びた蛇が、見事にリルの身体を絡めとる!
「ニャニャ!? ギニャアアアアアア!! アニャコンダだニャアア!」
アニャコンダ?
「……多分、アナコンダの事を言っていると思われ」
……こっちの世界にも、アナコンダっているのね。
「リル、アナコンダじゃありません! 本物のアナコンダなら、これの十倍はあります!」
さすがモンスター。規模が違うわ。
「ア゛ニャア゛ア゛! 食われるニャアア!」
さらにパニクったリルは、蛇を振りほどいて私にしがみついた。
「ち、ちょうどいいわ! 私がリルを掴まえとくから、このまま引っ張りあげて!」
「わかりました……!」
「私も手伝います!」
「同じく奮闘!」
先に岸に上がったエイミアとリジーが、ヴィーと私を繋いでいる蛇を掴んで、綱引きの要領で引っ張りだす。
「そーれぃ!」
「おーえす!」
「痛い! イタタタタタ! あまり強く握らないで下さい……!」
蛇を掴まれる痛みに文句を言いながらも、半泣きで私を引っ張るヴィー。可愛いな、おい。
「あ、足がつかニャいつかニャいつかニャいニャ!」
あーうるさい。
「ちゃんと掴まってなさいよ!」
むぎゅぅ
「はぎゃ! あ、あんたどこを掴んでるのよ!?」
「はニャさないで! はニャさないで!」
ちょ! 暴れるな!
ずるっ
ウソ!? 中に手が……!
「いい加減に……しなさい!」
どぐぉ!
「ぐふぅ! ……がくっ」
あまりの暴れ具合に手を焼いた私は、リルの鳩尾をど突いて気絶させる。
ぶち! びりびりぃ!
「あ゛ーーーーーーーっ!!」
その拍子に、リルの爪に何かが引っ掛かり、外れる。
「ビキニアーマーが!? ビキニアーマーがああああああっ!!」
……私の胸は支えていたモノを失い、重力に身を委ねた……。
「リル殺す! ぶっ殺す!」
「わ、悪かった! 不可抗力だったんだよ」
「ならその不可抗力でぶっ殺してやる!」
「意味わかんねえええっ!!」
ビキニアーマーのトップを失い、上半身のみ素っ裸という状態でリルに食ってかかる。背後からヴィーがガッチリと羽交い締めしてるから、身動きが全くとれないけど。
「サーチ、落ち着いてください! 何でしたら私のビキニアーマーをあげますから!」
「……へ?」
……そういえば……ヴィーもビキニアーマー持ってるんだっけ。
「そ、そういうことなら……まあ……」
落ち着いた私は、ヴィーが出したビキニアーマーを受け取って身につける。
わあ、胸の部分がぶっかぶか〜〜……むか。
「うっがあああああああ! やっぱりリルをぶっ殺す!」
「しまったああ! 火に油を注いでしまいました……」
「誰かサーチを止めてくれええぐげっ! あがっ! おごっ! ニ゛ャアアアアアアア!!」
ボロ雑巾になったリルを尻目に、普段着のシャツで代用する。裾結びすれば……よし、完成。
「……結局、ヘソは出すんですね……」
「へ? 当たり前じゃない」
私が「当然じゃん?」という顔をしていると、エイミアとリジーはため息をついた。
「私は良いと思います!」
……ただ、ヴィーだけは私に賛同した。下心見え見えだけど。
「それじゃ……先にダウロに行きましょうか」
「サーチ! 待ってくださいサーチ!!」
「何よ、エイミア」
「せめて下着は着けてください! くっきり見えますよ!」
あらあら、お目汚しを。
私達はダウロに到着すると、真っ先に温泉に向かった。
なぜかって? 川に落っこちたんだから、気持ち悪いに決まってるじゃない!
ざっぱああん!
「はあああ……気持ちいい〜〜!!」
「これがダウロの美肌の湯ですか……とても滑らかな湯ですね」
「川に落ちた時は、どうしようかと思いましたけど……ダウロが近くて良かったです」
「……リル姉が沈んだ」
「……ぶくぶくぶく……」
「リジー、それは『沈んだ』じゃなくて『潜った』よ」
「え? でもリルは大怪我をしていたのでは?」
あ。
「ヤバいヤバい! 早く引っ張りあげて!」
……リルは口から噴水をあげることになった。
「危ない危ない……もう少しでリルが土左衛門になるとこだったわ」
「サーチ姉、これ面白い」
リルのお腹を押してお湯を吐かせてるリジー。リルの見事な噴水がツボらしい。
「遊ばないで、ちゃんと吐かせてよ」
「……元々リルを無理矢理、温泉に放り込んだのばサーチでは……」
細かいことは気にしない、気にしない。
「それより……ビキニアーマーが……」
川に流されたビキニアーマーのトップは、当然見つかるはずもなかった。
「……サーチ……明日は誰にでも来ますよ」
「ヘタな慰めは止めて。ヴィーのビキニアーマーで、さらにえぐられたんだから……」
……まさか、あれだけのカップの差があるとは……。
「す、すみません……私の胸がサーチより大きいせいで………」
「ヴィー姉、更に抉ってる」
……ち……ちくしょー!
「よっし、決めた! さらに上等なビキニアーマーを作ってやる! んでもって、絶対にヴィーを追い越してやるんだから!」
こうして私は、新たな決意を胸に、ビキニアーマーの構想を練るのだった。
「…………あの…………『七つの美徳』は?」
……あ、それが先か。
「……仕方ない。しばらくはシャツで過ごすとして……必ず最高のビキニアーマーを手に入れてやるんだからーー!」
私は湯船から飛び出すと、ヴィー達に振り返り。
「行くわよ、みんな! 次は炭酸泉よ!」
「「「温泉が優先かよ!」」」
「当たり前じゃない! 私はブレないわ!」
「世界の危機なんですから、そこはブレて下さい!」