第十三話 ていうか、まずはリルのご機嫌とり。
「「「「すいません、ごちそうさまでしたー♪」」」」
『なあに。また何時でも奢ってやるわい……ワーーッハッハッハッハ!!』
次の日。
私達はモトーシャの旅館の前で、炎の真竜と別れた。
その際に『餞別じゃ、持っていけい』と渡された革袋……これって?
「結局何だったのですか?」
「……さあ……」
貰った袋は、普通の魔法の袋だった。無限の小箱を持ってる私達には、もういらないモノなんだけどなあ……。
「まさか中に大量の金貨が!?」
「……ないわね」
「まさか大量の呪われアイテムが!?」
「間違いなく、それはないわね」
空っぽだし。
「……まあ、何かの役に立つ時があるかもしれません。一応保存しておいては?」
「そうね。無限の小箱に入れておけば、邪魔になることはないし……」
こうして炎の真竜に貰った魔法の袋は、無限の小箱の中で永く忘れ去られることになった。
ただ、これが後に大変役に立つ超便利アイテムだと発覚するのだが……それはしばらく先の話。
ソレイユの転移聖術によって城に戻った私達が、最初に見たのは。
「……待〜ち〜か〜ね〜た〜ぞ〜……サーチよ……」
怒りを通り越して、瘴気を纏うに至ったリルが鎮座していた。やべえ。
「は、はろはろ〜♪」
「……殺されるか、死ぬか、逝くか。好きなモノを選べ」
「全部ノーサンキューで。ていうか全部一緒じゃないのよ!?」
「……お前に選択をする権利は……ない」
やべえ。マジやべえ。
ソレイユは……向こうでティータイムしてやがる。助ける気は0だな。
「覚悟は……いいか」
普段の倍は長くなった爪をギラつかせる。マ、マジで殺されそうなんですけど……。
「石化しましょうか?」
おお、ヴィーが援軍を!
「少ーし痺れさせますね」
おおお、エイミアも味方についた!
「……長いモノには巻かれるのが吉。私もサーチ姉に加勢する」
おおおお! リジーも加わった! おっしゃあ!
「な、何だよ! 私には加勢なしかよ!」
あ、リルが涙目で叫んだ。すると、三人の返答が。
「「「人望の差です!」」」
……哀れなリルに止めを刺して、さらにえぐった。
「……ニャ……ニ゛ャアアアアアアアアア!!」
……やべ。マジ泣きしちゃった……。
「「「「泣〜かせた、泣〜かせた〜〜」」」♪」
「あんたらも共犯でしょうが! ていうか語尾に『♪』 付けてたのソレイユでしょ!」
「あはは、楽しそうだったから、つい」
「あんたは関係ないでしょうがあああ!」
……リルは二時間ほど泣き止まなかった。
「ぢ、ぢぐじょう……グレてやる……」
目を真っ赤にしたリルは、完全に拗ねてしまった。
「ごめんね、リル〜〜」
「もう知らニャいニャ! 勝手にするといいニャ!」
あちゃ〜……これは重症ね。
「リル姉」
「ニャんだよ!?」
パタパタパタパタパタ
「!!」
パタパタパタパタパタ
「…………」
パタパタパタパタパタ
「……っ……」
パタパタパタパタパタ
「……ニャ〜ン」
チョロいな!
猫じゃらしであっさりと陥落しやがった!
パタパタパタパタパタ
「ニャンニャンニャ〜ン♪」
……なら……。
「リル、許してくれないかな?」
「ニャ? ニャ! サーチはダメニャ!」
……よし、最終兵器。
「……この間、山の中で見つけたマタタビ」
「今回は特別に許してやっていいかな、うん」
マジでチョロいな!
「……マタタビを焼酎で漬けるのもいいよね」
「ニャ!? マ、マタタビはニャまのほうが……」
たぶん「生」と言いたかったんだと思う。
「え? 私なら焼酎漬けがいいかな〜……って話をしてただけよ? 何でリルが話に入ってくるのかな〜?」
「ニャ!? …………マタタビ欲しいニャ、欲しいニャ……」
あ、何か可愛い。
もうからかうのは止めときますか。
「……わかったわよ。あげるから……はい」
「ニャ! ありがとニャ〜!」
「大事に食べるのよ……ちょっと! 頬擦りしてこないの! くすぐったい!」
「ニャンニャ〜♪」
リルは私を頬擦りしたあと、マタタビを咥えてどこかへ走っていった。
「……リルは元に戻るのでしょうか……」
あの状態が続くのは、いろいろと危険だ。早く元に戻ってもらわないと……。
「まあ、戻ったら戻ったで大変でしょうけとね……」
私の予言通りになった。
「……忘れろ」
「マタタビ美味しかったにゃ?」
「サーチ、てめぇ……」
あの衝撃的なリルを忘れるなんて、できるわけないじゃない。
「で? マタタビは食べちゃったの?」
「………………もうないのか?」
「は? まさか……もう食べちゃったの!?」
確か、五十個近くあったはずなのに!
「私はマタタビくらいじゃ酔わねえよ」
「酔わないからって五十個全部食べないわよ、普通は!?」
「……う、うん」
「……もうないからね」
「そ、そうか……がく」
……よっぽど好きなのね……。
「な、なあ。どこにこんな良質なマタタビがあったんだ?」
良質なマタタビだったんだ。
「スパミーネ山よ」
「スパミーネ山って言えば……ダウロの近くか?」
「そうよ。パーティを結成してから、初めて竜殺ししたじゃない。あそこよ」
「い、いつの間に採集したんだよ……」
「え? ドラゴンから逃げてるときに」
「すげえな、お前!」
ていうか、走って逃げてる間にマタタビの群生があって。そこを駆け抜けたら勝手に魔法の袋に入ってただけなのよね……。
「……これこそが、秘剣〝竹蜻蛉〟の極意なのよ……」
「ふーん……ってウソつくな! お前まだ〝竹竿〟と会う前の話だろ!?」
ちっ。からかい甲斐がない……。
「それじゃ、次はダウロですか?」
ダウロ……堕つる滝か。
「堕つる滝か……てことは滝の真竜よね……」
私はエイミアを見た。
「大丈夫?」
「……何がですか?」
忘れてるのか。
「……滝の真竜は『七つの大罪』の一つ、暴食よ?」
「暴食……ですか?」
「暴食よ」
「暴食……暴食………………あ」
思い出した?
「あ……あ……あああっ! 私を食べるって言ってたドラゴンですかああ!?」
「……あたーりー……」
「嫌です! 絶対に行きたくありません!」
「ソレイユ、もうイケる?」
「オーケー、魔力溜まったよ〜〜」
「嫌ですって!」
「じゃあ、みんな行くよ〜」
「「「はーい」」」
「いやああああああああっ!!」
エイミアの叫び声と共に、私達は転移した。