第十一話 ていうか、次は獄炎谷!
「ソレイユ〜? 聞こえる〜?」
『……ツーッ、ツーッ……』
……話中のつもり?
「何を口でつーつー言ってるのよ? 仕事よ、仕事。次は獄炎谷だからね」
『……この番号は、現在使われておりません。お確かめの上』
「ヴィー、≪染色≫で城の壁を全部ソレイユのフルヌードに」
『ぎゃああああ! 行く! 今から行くから待ってなさい!』
プツン! ツーッ、ツーッ……
「……サーチ……知りませんよ」
大丈夫でしょ。
「……サーチ……あんた、魔王を脅迫するなんていい度胸ね……」
だいじょばなかった!
「え、え〜〜っと……あいつが黒幕です!」
「ニャッ!?」
指差されたリルは固まった。
「……にゃんこ先生だろうと、許しませんよ〜〜?」
「わ、私は無実だよ! サーチてめえ……!」
「きゃ〜〜、リーリアドさんがご乱心よ〜〜!」
「な……! てめえ、ぶっ殺す!」
リルの全身の毛が怒りで逆立った瞬間、ソレイユが静かに放った≪聖火波≫が炸裂!
「ギニャアアアアアアアアアアッぶニャ! ……がくっ」
そのまま吹っ飛ばされて壁に激突したリルは、そのままずり落ちていった。あ、白目剥いてる。
「……リル、成仏してね……」
がしぃ
「きゃっ! な、何よ、ソレイユ」
「……実行犯も……同罪よね?」
「え? ちょっと待って! ストップストップいみゃああああああ!」
……私の意識も暗転した。がくっ。
……目が覚めると。頭上には蛇がいっぱい……ってうわあ!
ごんっっ!
「「いったああああい!」……ってあれ?」
起きようとしたら、頭と蛇がごっつんこ……ていうか蛇ってヴィーじゃない!!
「ご、ごめんなさい! 大丈夫?」
「イタタ……だ、大丈夫です」
少し赤くなったおでこを擦りながら、涙目で笑うヴィー。可愛いな、おい。
「……ていうか……何で私、膝枕されてるわけ?」
やけに柔らかくて気持ち良かったわけだ。
「サーチが魔王様にフルボッコされて、気絶したのは……覚えてませんよね?」
……ソレイユにフルボッコにされたのか、私。でも傷が残ってないみたいだから、ヴィーが治してくれたのね。
「その後に、獄炎谷へ転送してもらいました」
「そっか……回復ありがとね、ヴィー。ていうか、他のみんなは?」
「エイミアとリジーは偵察に。リルは居残りです」
「へ? リルだけ?」
「お風呂の壁を見られてしまいまして……」
げっ!
「リルが現在進行形で壁をゴシゴシしてます」
……やべえ……戻ったらリルがブチギレるな……。
「魔王様が『主犯は厳罰よ!』と仰って……。リルは『濡れ衣だあ!』とか『サーチぶっ殺す!』とか叫んでましたよ」
ブチギレも現在進行形だったー! 仕方ない……戻ったときに、食べ物か何かで誤魔化そう。
「まずは二人と合流して、それから獄炎谷へ行きましょ」
「え? もう獄炎谷へ行くんですか? 近くの町でちゃんと準備した方が……」
「大丈夫よ。獄炎谷はもう陥落してるし。何より……」
「……何より?」
「観光地だし」
「……はい?」
ワイワイ、ガヤガヤ
……大盛況ね。
「な、何故〝八つの絶望〟に沢山の観光客が!?」
「ここ、スーパー銭湯になったのよ」
「す、すーぱー? 戦闘?」
あ、わかんないか。
「えっとね……温泉以外にもいろいろ楽しめる施設が集まってるの」
「……成程……色々楽しめる……うふふ」
「……何を想像したのかは聞かないけど、いかがわしい施設じゃないからね?」
「そ、そんな……いかがわしい事なんて考えてませんよ。……あはははは……はああぁぁ」
……考えてなかったのなら、なんでため息をつくのかな。
「サーチ姉、呪いではないと思うけど……MPが吸い取られてる気がする」
え? MPが? ……あ、そうだった。
「リジー、そのことは内緒でね。詳しいことは後から説明するから」
「ん、わかった」
まずは支配人を探しますか。
「じゃあ中に入るわよ」
「「「はーい」」」
ウィィーン
あ、自動ドア。
「「「いらっしゃいませ」」」
人魚族のイケメンが勢揃いでお出迎え。
「……な、何故……全員金魚鉢を被ってるのですか?」
「人魚族はエラ呼吸だから、地上では息ができないのよ」
「サーチ姉、この人達は何故下半身が魚?」
「……人魚だから、としか言い様が……」
私達が人魚のイケメンについて意見を交わしていると、支配人を探しに行っていたエイミアが戻ってきた。
「連れてきましたよ〜」
「エイミアさん! 速い、速いですってば! 私は着物姿なんですから、速くは歩けません!」
あ、久々の支配人だ。
「ごめんね、忙しいところを」
「お久しぶりです、サーチさん! それに……えっと……どなた?」
あ、知らないか。
「初めまして。最近加入しました、へヴィーナと申します。ヴィーとお呼び下さい」
「あ、これはこれはご丁寧に……。私は獄炎谷の元守護神で、現在は『スーパー銭湯・ふれいむの湯』支配人のモトーシャと申します」
……モトーシャ?
「あんた名前あったの?」
「……あなたが『元オシャチ』と私を呼び続けたじゃないですか。それが浸透して……次第に縮まって『モトーシャ』になりました」
……そういえばそうだったわ。私、ずっと「元オシャチ」って呼んでたわね。
「何か……ごめん」
「いえ。おかげで名前の利便性を学習できました」
……ならいいけど。
「で? 何か御用でしたか?」
「あ、そうだった。あんたの経営してる旅館……」
「はいはい! とっても良い泉質なんですよ! 肌はスベスベになるのはもちろん、古傷や関節の痛み等にも効能が」
「…………は!? つい足が温泉の方向へ……」
「あ、あの。サーチさん?」
「ごめんごめん。でさ、あんたの経営してる旅館に」
「そうなんです! 最近サウナと岩盤浴も始めまして」
「…………は!? ついビキニアーマーを脱ぎ始めちゃった……」
「あ、あの。サーチさん?」
「ごめんごめん。でさ、あんたの経営してる旅館に炎の真竜が」
「そうなんです! 最近は炎の真竜様が、大層打たせ湯に嵌まっておられまして……って、あれ? サーチさん?」
「サーチったら……ビキニアーマーを脱ぎ捨てながら、温泉に向かっちゃいましたよ」
「やっぱりサーチは、温泉の誘惑に勝てる訳がありませんね」
「……私の呪われアイテム熱を超える情熱……見習うべし」
ザアアア……
「はああ……打たせ湯最高……」
『うむ。若い娘ながら、打たせ湯の良さがわかっておるのう』
「……ん? その声は……」
『……ん? そなたは……』
「……あ! 炎の真竜!?」
ホントにいたよ!