第十話 ていうか、どピンクの城で温泉とサウナを堪能しながらの作戦会議♪
うーん。
全く落ち着かない。
「……いくら何でも、温泉の壁の色までピンクなのは……」
シロちゃんが自慢してたソレイユ城(命名、私)名物の天然温泉は、ホントに気持ちいいんだけど……。
「……何かフラミンゴになった気分だわ……」
「ふらみんご?」
何でもありません。
「ふらみんご……ふらみんごっと……」
「メモるなよ! ていうか、そのメモまだ続けてたの!?」
リルが持っているメモ帳の表紙には、「リルの古代語手帳vol.5」と書いてある。ていうか、もう五冊目!?
「リル……そのメモ帳は、お風呂にまで持ち込んでいるのですか?」
「いつでもどこでも取り出せるように、無限の小箱にショートカットしてあるぜ!」
バカでしょ、あんた。無限の小箱の貴重なショートカットを、そんなムダなことに使うなっつーの。
説明してなかったので補足。ショートカットは無限の小箱が最近バージョンアップされた際に追加された新機能だ。読んで字の如くの機能なんだけど、武器等のアイテムをすぐに取り出せるように、五つまでショートカット欄に登録できるのだ。あとはアイテムをイメージするだけで手元に現れる、という超便利機能。
ただ……バージョンアップの案内の声が、明らかにソレイユだったのが気になる。鼻を摘まんでしゃべってたけど丸わかりだ。魔王様が何をしてるのやら……。
「ねえ、ヴィー。お風呂だけでも≪染色≫で色を変えられない?」
「お風呂だけですか? このくらいの広さでしたら大丈夫ですよ」
「マジで!? シロちゃん、壁の色を変えちゃってもいいかしら?」
『大丈夫ですよ〜。ご自由にどうぞ〜〜』
「色はどうしますか?」
「んー、ヴィーに任せるわ」
「……任せる、というのが一番困るのですが……」
……確かに。
「なら、自分が落ち着ける空間をイメージして、それを絵にしてみるとか?」
「自分が落ち着ける空間……わかりました。なら簡単です」
一分ほどイメージしてから、ヴィーは≪染色≫を発動させた。すると……。
「あ、壁にサーチ姉の寝顔が」
「こっちは水着でポーズしてますね」
「こっちは手ブラでウィンクしてるぜ」
ぎいゃあああああああああああっ!!
「あ、あんた、何てことしてくれんのよ!?」
「え? だって、サーチが言ったんじゃないですか?」
「私が言ったのは『ヴィー自身が落ち着ける空間』って言ったのよ!」
「ええ、ですから……私の落ち着ける空間ですよ」
……はい?
「………………マジで?」
「もの凄く本気です」
「…………お願いだから、第二候補に差し替えて…………」
「何故ですか? 最高の癒し空間ですよ?」
「私が落ち着かないのよ!!」
結局、ヴィーはブツブツ言いながらも第二候補に差し替えた。
……今度の壁紙はソレイユだった。もうスルーしよう。
リラックスのカケラもないバスタイムを終えた私達は、ソレイユ城のサウナで次の場所を決めることにした。
「……暑いです」
そりゃサウナだしね。
「ねえヴィー。せっかくの故郷なんだから、二三日秘密の村に滞在していってもいいわよ?」
「いえ、大丈夫です。そのお心遣いだけで十分ですよ。ありがとうございます」
「ホントにいいの? 時間はあるわよ?」
「いえ……あの二人の漫才に散々付き合わされましたので……もういいです……」
……ああ、あの笑えないお笑いコンビね。
「……おもしろかった?」
「面白くなると思いますか? あの二人が?」
……ムリね。
「なら家族に会わなくていいの?」
「私は孤児です。魔王様に保護していただきまして」
「へ? ヴィーも孤児だったんだ……」
「え?」
「私も孤児院の出身なのよ」
「そ、そうなんですか!?」
「ていうか、みんな家庭事情は複雑よ。リジーは出生が特殊だから、両親なんていないし。エイミアはお母さんが亡くなられてるし、親父さんとは絶縁中。まともに両親がいるのはリルくらいかな?」
「そうなんですか……皆、苦労しているのですね……リル以外は」
「ニャ!? わ、私だって苦労してるさ! 父ちゃんは足臭いし、母ちゃんは人使い荒いし……」
「はいはい、わかったわかった……で、次はどこにする?」
「ちょっ!? 無視するなよ!」
「はい! 私は闇深き森が良いと思います!」
「はい! 私は堕つる滝がいいでーす!」
「はい。私は獄炎谷がいいと思われ」
「無視するなって言ってんだろおおおおおおっ!!」
リルの絶叫をさらっと流し、私自身の考えを言う。
「……私も闇深き森に行こうと思うんだけど」
「え? 私に賛同してくださるのですか!? うふ、うふふ……」
「う〜〜〜! 何でヴィーの意見を採用するんですか!!」
トリップし始めるヴィーに、なぜか不機嫌になるエイミア。
「……サーチ姉、面倒な事になるだけだから、再考した方が」
……ホントにめんどくさいわね……仕方ない。
「わかったわ。なら獄炎谷で」
あ。ヴィーがムンクの叫びになってる。
あ。エイミアがモナリザっぽい笑みを。
「どうしてサーチ姉は闇深き森推し? というよりヴィー姉推し?」
別に押してない。アイドルじゃないんだから。
「別にヴィーの意見だから賛同したわけじゃないわ」
あ。ヴィーのムンクから膨大な涙が……。
あ。エイミアのモナリザの笑みが最高潮に。
「ちょっとね……マーシャンに用事があったのよ。私の交友関係だと『七つの美徳』の事を知ってそうなのは、マーシャンかな……と思って」
「あ、そういう事ですか……」
ヴィーは安心したらしく、いつもの笑みが戻った。
……と思ったら、エイミアに般若の顔を向けた。
「ひえっ!?」
「エイミア……先程……笑ってましたよね? 何故笑ったのですか?」
「へ!? わわ笑ってましぇん!」
完全に動揺してるし。
「エイミア。あんたの笑み、真っ黒だったわよ」
「エイミア姉、あれは悪意を感じた」
「サーチ!? リジー!?」
「……エイミア……隣の部屋でゆっくり話しましょう」
「え、ちょっと待ってください飲み込まないでひぃあああああ」
……頭の蛇に半分くらい飲み込まれた状態で、エイミアは連れていかれた。
……合掌。礼拝。
「……リジー、あれってホントに消化されるの?」
「……ちょっとだけ」
マジで消化されてたのかよ! ていうか、よく生きてたな!
結局、次の目的地は獄炎谷になった。