第九話 ていうか、むかーしむかし、どピンクの城は空に浮かんでいました。
「…………違った意味で目がチカチカする…………」
『ひどーーい!』
……私の目の前で怒る空の真竜のシロちゃんも、全身ピンク。
天井、床、テーブル、椅子……果てはコーヒーカップまで……マジで勘弁してくれ。
これでコーヒーまでピンクだったら発狂するぞ……。
「……ってクッキーまでピンクかよ!」
お茶うけに出されていたチョコレートクッキーは、わざわざイチゴ味だった。
『何故怒るんですか!? イチゴ味、美味しいじゃないですか!』
「美味しいことは否定しないわよ! わざわざどピンクの空間にイチゴ味のチョコレートクッキーを出すなっつってんのよ!」
『っっひどい! ひどいわぁ!』
そう言って床に倒れ臥せた。
「「「「泣ーかした、泣ーかしたーー♪」」」」
「ぃやっかましいいいっ! ていうか、ヴィーまで加わってるし!」
「あ、いえ、これは……つい」
「ついじゃないわよ、たく……ていうか、あんたもいつまで泣いてるのよ! さっさと立ちなさい!」
あんたみたいな合法ロリ姿の娘が「ひどい! ひどいわぁ!」とかやったら、マジで周りの目が痛いのよ! それやっていいのは、熊によく間違えられる人だからね!?
『よいしょっと……それで私に聞きたい事とは何ですか? マイマスター』
マスターじゃねえよ。
「七冠の魔狼はわかるわね?」
『当然知ってますよ。先日まで滞在していらっしゃいましたし』
「あ、そうなの、滞在ねえ……ていうか、ここに!?」
『はい。とても喜んでみえましたよ。目が〜目が〜って唸ってましたけど』
……七冠の魔狼の目でもダメだったか。
『ギガよりは容量は不足してましたね』
「そのメガじゃねえよ!」
『は?』
「……何でもないです」
私、天然由来のつっこみ属性なのかしら……?
「……それはともかく。やっぱり力は渡したの?」
『ええ。拒否する理由もありませんし』
「……なら……『七つの美徳』の象徴はどこにあるの?」
『………………は?』
……知らないか。
『象徴とは何の事ですか? 具体的に言っていただかないと、流石に特定は難しいかと……』
「具体的って言われても……氷河の城壁にあったのは小手だった、くらいしかわからないし……」
『小手……ですか。そうなると防具でしょうか……もしかして……』
「……心当たりがあるの?」
『あ、はい。心当たりと言うよりは……この城の宝物庫に、防具は腐る程ありますので……そのどれか、かと……』
……腐るほど……あるんですか……。
……マジで腐るほどあった。
「鎧、盾、兜……鎧、盾、兜……頭痛くなるな……」
「リジー、ここで何か感じない?」
「全く。欠片も。微塵も。ナノ程も」
これだけ興味を示さないってことは、呪われアイテムがなかったのか……。
「ヴィー、聖術で反応は?」
「……いえ。私も何も感じられません」
……ここは、ハズレかな。ていうか、ハズレであってほしい。これだけの数の防具を調べるなんて、マジで御免だ。
「ここは違うみたいね。他を調べようか…………ん? エイミアどしたの?」
姿が見えなかったエイミアが、部屋の真ん中で土下座をしていた。
「……ちょっと待ってください」
「?? ……何に謝ってるの?」
「…………謝ってません」
「じゃあ何やってんだよ? おでこを直接地面に着けるなんて、土下座以外ないんじゃねえか?」
「……違います」
「……じゃあ何してるの? 詳しい説明を求める」
「………後から話します」
あ、エイミアがキレそう。少し離れよ。
「何で? 何で? 凄く興味津々」
バリ……バリバリ……
「……おい、リジー。いい加減にしねえともがっ!?」
「シー。黙ってて。リジーは痛い目に会わないと学習しないタイプだから、放っておきましょ」
「もがががっ! ぶはあっ……わ、わかったよ」
私とリルは廊下の影に隠れた。
「ね? ね? エイミア姉?」
「…………」
あ、こめかみに血管が。
「……リジー……」
「何?」
「うるさい」
ずっどおおおおんんっ!!
「いみゃあああああああああああっ!!」
……文字通り、雷が落ちた。
ヴィーが黒焦げになったリジーを治療している間、まだ続けるエイミアに話しかけた。無論、邪魔にならない程度に。
「……もしかして、下に何かある?」
「…………はい。この真下にせいでんきを吸収するポイントがあります」
「吸収する? ……金属でできたモノじゃないわね」
「うーん……一体何なのか……駄目です、わかりません」
おでこに付いた砂を払いながら、エイミアが立ち上がる。
「それにしても……何でおでこを地面に?」
「最近気付いたんですけど、せいでんきを一番敏感に感じられるのは、おでこなんです」
……命名、おでこレーダー。
「脳に近いから、なのかな……それより、この真下なのね?」
「はい、間違いないです」
「わかったわ……シロちゃん! シロちゃんいる!?」
『……はいはい。何でしょう、マイマスター』
「だからマスターじゃないって……私達がいる部屋の真下って何かある?」
『そこは物置ですね。どうしようもないガラクタが詰め込まれてます』
「そこへ行くから案内して!」
『え? 物置にですか?』
「そこに『七つの美徳』関連のモノがあるかもしれないの!」
『!! ……わ、わかりました! こちらです!』
蜘蛛の巣だらけの階段を抜け、真っ暗な通路を突き進む。
「もうちょっとキレイにしときなさいよ!」
『す、すみません……地下室は完全に放置してましたので』
わぶっ! また蜘蛛の巣が……!
「あーもー! この城、お風呂はあるんでしょうね!?」
『はい、天然温泉が』
……マスターになろうかしら。
「よし、さっさと終わらせて温泉三昧よ!」
「……サーチがマスターになるなら……この城が新居ですか。悪くないかもしれません」
「ヴィー、何か言った?」
「いえ。何でもありません」
……聞き流しておこう。
『この部屋です』
シロちゃんの声に導かれて着いたのは、いかにも……という感じの古い扉だった。
「開けて」
声をかけると、扉が勝手に開いた。便利ね。
「……うわあ……ホントに物置ね……」
……ていうか、粗大ゴミの山ね……。
「エイミア、どこにあるの?」
「ちょっと待ってください………………あの棚の後ろから感じます」
げっ! あの蜘蛛の巣とカビにまみれた棚の!?
「はあ……≪偽物≫」
できるだけ長く作ったハンマーを振り回す。
どげ! ぐしゃあ!
「ケホケホ! スゴいホコリね……」
「少しお待ち下さい。私の蛇を伸ばしてみます」
ホコリが舞って視界が悪い室内を、ヴィーの蛇が前進していく。さすがヴィーの蛇。
がぶぅ!
「いったああい! な、何……?」
「あら? 何でサーチのお尻に噛みついたの?」
……私の心の声は、蛇にまで筒抜けなのか。
「あ、何かありました。今持ってきます」
蛇が戻ってくるのと同時に「ズルズル」と重いモノを引き摺る音がした。
そして、ホコリの中から現れたモノは……。
「丸くて……筒状になってて……上が+で下が-で……ていうか電池かよ!」
『……これは以前に、城が空に浮いていた時の動力源だったモノです』
動力源!?
この城、電池で動くのかよ!!
『誰かその容器の蓋を開けて頂けませんか?』
フタ?
これ開くの?
「ちょっと待ってろ……お、簡単に開いたぞ」
電池の中にあったのは……ティアラ?
『そのティアラに嵌め込まれている宝石には、電気を溜め込む力があります』
マジで電池だったのかよ!
「リジー、これ嫌い?」
「大嫌い」
うん、間違いないわ。
「これがそうだわ。貰っていくわね」
『それがお探しの品だったのですか!? すっかり電気もなくなってしまったので捨てたのですが……』
うん、そうね。電池は使い捨てだからね。
こうして、『七つの美徳』の象徴の一つ……えっと……。
「シロちゃん、あんたは『七つの大罪』の何?」
『私は「傲慢」です』
……傲慢の反対だから……謙譲のティアラを手に入れた。