第八話 ていうか、ソレイユの城は金ピカの城だった!?
ヴィーに案内されて着いたのは、ぽっかりと口を開けた洞窟だった。
「……ここが?」
「はい。先程元長老が言っていた通り、魔王様の城は地下にあります」
「何でわざわざ地下に城を作ったんだ? 外から見えねえ城なんて、まるで意味がないじゃねえか」
リルの言う通りだ。城は権力の象徴なのだから、地下に埋没しているようじゃ、城がある意味がない。
「……この城は、元から魔王様の城だった訳ではありません」
そう言って洞窟へ足を踏み入れるヴィー。私達もそれに続いた。
「……おかしいとは思ってたんだ……ソレイユが華美なお城を作らせて喜ぶタイプには思えなかったのよ……」
「その通りです。魔王様にそんな下卑た願望がある訳がないです」
……崇拝されてるわねぇ、ソレイユ……。
「この城は元々は上空に浮かんでいたそうです」
「「「「上空!?」」」」
ラ○ュタかよ!
「だけど〝知識の創成〟との戦役の後に、魔王様によってこの地に封印されたそうです」
……ん? 〝知識の創成〟との戦役の後? 封印?
……はは〜ん……なるほどね。
「……城は……元々は〝知識の創成〟のだったとか?」
ヴィーはため息をついてから。
「……そうです。あの忌まわしき似非神の城です」
……と呟いた。
「……魔王様と同じで……出来れば来たくないんです、ここには……」
狭い洞窟を抜けると、広ーい地下空間が広がり……。
「……うっわあああ……」
「ハデだな、おい……」
「……私には〝知識の創成〟の好みが理解できません……」
「……悪趣味」
……最後のリジーの一言が、全てを物語ってるわ……。
白亜の城、って言い方があるように、白で統一されてるなら……荘厳とかいう言い方もできる。
けど……。
「すっげえ金ピカ……」
壁、屋根、窓の枠、ドアに至るまで、全て金、金、金。秀吉の黄金の茶室が可愛く見えるくらいだ。
「……ソレイユが嫌がる理由もわかるわ……」
ヴィーがこくこくと頷く。
「これ売ったら、めっちゃ儲かるんじゃねえか?」
「本物ではありませんよ。多分魔術で……あ、聖術かな? で、外見だけ金に見せてるだけじゃないかな?」
「そ、そうなのか?」
「本物ならここまでピカピカ光りません」
さすが元貴族。金も見慣れてるってわけか。
「その通りです。〝知識の創成〟自ら≪染色≫と≪壊れず≫を施したそうです」
「……≪染色≫で金で染めて、それが落ちないように≪壊れず≫で保護したってこと? 厳重なことね」
「ええ。〝知識の創成〟は余程暇だったのでしょうね」
ヴィーにしては珍しい毒舌。ホントに〝知識の創成〟が嫌いなのね。
「ここに空の真竜がいるんですか? 何故こんな城に……?」
エイミアの疑問はごもっとも。誰でもこんな悪趣味な城に住みたくないだろう。
「その理由は……空の真竜が城自身だからなんです」
……はい?
金ピカの扉が開くと、中は……金ピカだった。
「……目が痛い……」
「……チカチカします」
「……中もかよ……」
リル、エイミア、リジーの三人がうんざりしながら呟く。
「……よく我慢してるわね、空の真竜……。例えが変だけど、私が金ピカのビキニアーマー着せられてるのと一緒よね」
想像しただけでも気が滅入る。
「……ヴィー姉、泣き声が聞こえるんだけど」
リジーの一言で我に帰った。
「な、泣き声?」
「うん、微かに聞こえる」
「……ああ、わかった。聞こえる聞こえる。けどよ……相当耳が良くないと聞こえねえぞ、こんなちっちぇ声」
「あ、それが空の真竜です。多分何処かで泣いているんです」
……泣く?
「城が?」
「本体は人間を象ってますから、泣く事が出来ます」
……本体?
「……ますますわかんなくなってきたから、とりあえずヴィーが言う本体に会いましょうか?」
「わかりました……今何処にいらっしゃいますかー?」
『……いま使用人の寝室です……』
「……だそうです。行きましょう」
「「「「…………」」」」
……つっこみたい……。
「あ、いましたよ」
ヴィーが言った使用人の寝室を一つ一つ調べていると、三つ目で見つけた。
『……ぐすん、ぐすん』
ホントに泣いてるし。
「シロちゃん、此処にいたのですね」
シロちゃん!?
『ぐすん、ぐすん……あ、へヴィーナさん』
ヴィーは知り合いなのかよ!
「ちょっとヴィー! あんたシロちゃんと仲良いの?」
「ええ。よく村に遊びに来てましたから」
……よく遊びに来た?
「ごめん。何かつっこみたい気持ちが満載なんだけど……」
「説明不足でした。簡単に言いますと、空の真竜は元々は〝知識の創成〟の城の管理者だったんです」
……ああ、そういうことか。
「管理者も一応モンスターだもんね……」
管理者は古い城や大きな屋敷に、いつの間にか住み着くモンスターだ。住んでる人の代わりに掃除や修繕をしてくれる、お得なモンスターです。
「あれ? でも住人がいなくなった場合は、管理者の身体の一部になるんじゃなかったっけ?」
まさに管理者の思うがまま、ただし建物内のみ! って感じになるはずじゃ……? だから建物を支配しちゃった管理者の討伐は、非常に難しい依頼にランクされるのだ。
『そう……ですね』
「なら自分の城の色ぐらい、何とでもできるんじゃないの?」
『ぐすん、ぐすん……だって……≪壊れず≫をかけられちゃってるから……どうしようもできないんです……』
「……ヴィー、そうなの?」
「〝知識の創成〟自らかけた≪壊れず≫ですから……。魔王様でも解除出来ないみたいです」
なるほど、自分でどうにもできないのか。そりゃ泣きたくもなるわね……。
「……解除方法は?」
「ありません。〝知識の創成〟自身が解除しない限りは……」
げっ! 不可能じゃん!
「あるいは、同じ≪壊れず≫がかかったモノ同士をぶつけ会えば……」
同じ≪壊れず≫同士を? いつぞや貰った≪壊れず≫のかかった銅のナイフを取り出す。
「これ……≪壊れず≫がかかってるんだけど……」
『そ、それは!? 見せてください!』
求められるがまま、管理者にナイフを渡す。
『……この波動は……間違いありません! 〝知識の創成〟の≪壊れず≫です!』
マジか!?
『これ、頂けませんか?』
「どうぞどうぞどうぞ」
〝知識の創成〟製なんかいらないわよ!
……一時間後。
『ありがとうございました! おかげさまで≪染色≫を解く事が出来ました!』
……さいですか。
しかし……〝知識の創成〟が染めた理由が……わかった気がする。
「……これが元々の色なの……」
『はい。この城は特殊な浮遊石で造られてまして、その石の色がピンクなんです』
……まさか……どピンクの城だったとは。
『あなたは恩人です! ぜひ私の城の御主人になってください!』
いえ、結構です。
金ピカの城か、どピンクの城か。
あなたはどちらを選ぶ?