第七話 ていうか、元透明人間となった元長老のゾンビから事情聴取。
「……駄目です。手の施しようがありません」
「…………へ?」
「お亡くなりになられました」
「………………リル、あんたが止めを刺しちゃったみたいね」
「はあ!? 何で私のせいになるんだよ! エイミアの≪鬼殺≫が強力過ぎたんだよ! 頭半分にぶっ潰してただろ!!」
「わ、私ですかぁ!? それよりも、お腹を突き破ったリジーの梯子の方が……」
「五体バラバラになっても更に斬り刻んだ、サーチ姉が原因と思われ」
「……それ以前にそこまでやっちゃえば、普通は生きてませんよ」
「「「「ヴィーの聖術も、明らかにオーバーキルの威力じゃなかった?」」」」
「そ、それは……サーチ以外に触られた屈辱がゴニョゴニョ……」
……まあ何はともあれ。
殺っちゃったことは仕方がない。
「とりあえず……合掌……礼拝」
……こういうときだけ、一致団結するのよね……。
ちーん。
「う、うぐぐ……ごほ! ぜぇぜぇぜぇ……わ、わしは何を……?」
一時間後。
変態巨人……じゃなくなった透明人間は、秘密の村の死霊魔術士によって無事に生き返った。
ただし、ゾンビだけど。
「わしは何を……じゃありません。あなたは何をしていたのですか、元長老」
「ム? ……げえ!? へヴィーナではないか?」
「やっほ〜〜お久〜〜」
「な、何でお前まで!? わしが何をしたというんじゃああ!」
ゾンビになったため、透明人間じゃなくなった元長老は、意外とナイスミドルな顔だった。ただし、今は涙と鼻水まみれなため、台無しだけど。
「あんた、この辺りで巨大化して、暴れ回ってたのは覚えてないの?」
「な、何……? 巨大化じゃと……?」
覚えてないのね、なら……。
「……もしかして……七冠の魔狼と何かあった?」
「な、何故知っておるのじゃ!?」
……やっぱりか……。
元長老の話によると、村を追放されてからは、この辺りで暮らしていたらしい。
「たまに来る行商や冒険者が寝入ってる隙に、食糧を頂戴……もとい調達しておった」
……透明人間様々の生活ね。
「たまーに着替え中の美女を覗いたり……おほ♪」
「なあ、サーチ。こいつもう一回死なせてもいいよな?」
「いいんじゃない? また死霊魔術士さんに、骨折ってもらうことになるけど……」
「構いませんよ。好きなだけどうぞ」
「許可も下りたので、殺りますか」
「待て待て待て! 冗談じゃ冗談おごぉ! ぐはあ! ま、待つのじゃぎいああああああ!」
……しばらくお待ちください……。
「……う、うぐぐ……ごほ! ぜぇぜぇぜぇ……す、すまなかった……許してくれぃ……」
「あんたの冗談は、冗談とは認めません。セクハラ発言した時点で有罪確定だからね?」
「…………はい」
「よろしい。で、話の続きは?」
「そ、そうじゃ! 先日、わしの前に七冠の魔狼が現れたのじゃ! 『お前に力を与えよう』と言うてから、わしに何かを放ちおった」
「……それで巨大化したと?」
「……そこから先は、全く記憶になくてのう……。すまなんだ。旋風の荒野を守るべき守護神のわしが不甲斐なかったわい」
「ちょい待ち。あんた守護神なの!?」
「うむ。わしは魔王様が不在の際に、旋風の荒野の城を護る役にある」
……もっとマシなのを選びなさいよ、ソレイユ……。
「じゃから村を追放されても、この地に留まったのじゃ」
「……なるほどね……。なら、旋風の荒野の真竜は知ってる?」
「空の真竜じゃろ? 魔王様の城に住んでおるよ」
さて、ここからが本題。
「……なら……『七つの美徳』って知ってる?」
「無論じゃ。『七つの大罪』の対じゃろが」
「このダンジョンのどこかに、その『七つの美徳』の象徴の一つがあるらしいんだけど……心当たりはない?」
「象徴……じゃと? まるで心当たりはないの」
「……死霊魔術士さん、こいつウソは言ってない?」
「勿論。私の支配下にいる以上、嘘なんて一切言えないよ」
なら……知ってそうな人……じゃなくてモンスターを紹介してもらうしかないか。
「『七つの美徳』の事が知りたいのなら、魔王様の城へ行くといい。空の真竜なら何か知っておるじゃろ」
紹介してもらう間もなかったわね。
「ていうか、その城はどこにあるの?」
ヴィーに視線を向ける……ん? ニコニコしながら下を指差してる?
「……下?」
「そうじゃ。魔王様の城は、我らの村の地下にあるんじゃよ」
元長老が案内を買って出たけど、丁重じゃなくお断りした。
「な、何故じゃ! 案内してやると言うに、何故半殺しにされなくちゃならんのじゃ!」
「あんたの企みは見え見えなのよ! どうせ案内しがてら、隙があればセクハラする気だったんでしょ!」
「……フーー♪ ヒュヒュー♪」
鳴らない口笛吹いて誤魔化すな!
「私達にはヴィーがいるから大丈夫なの!」
「ヴィー……へヴィーナの事か!? 何故お前達と一緒にいるのだ!?」
「あんたが追い出されたあとに、私達のパーティに加わったのよ」
「へヴィーナがか!? お前達と外の世界を旅しておるのか!」
「……そうですよ」
「そうか……あの引っ込み思案なへヴィーナが……」
……何か「孫を見守るお爺ちゃん」みたいな雰囲気を醸し出してるんですけど……。
「ねえ、ヴィー。あんたあの変態と交流があったの?」
「……風呂を覗かれたり、胸を揉まれたりするが交流なのでしょうか?」
違います。
断じて違います。
「それ以外で普通の交流は?」
「すれ違いの時の挨拶すらありませんでした」
まるっきり他人じゃん!
「じゃあ遠慮なく置いていきます。死霊魔術士さん、この変態の調教、よろしくお願いします」
「はい、勿論です」
ニッコリ、というよりはニヤリ、と笑って応えた。ていうか喜んでる?
手をワキワキしつつ「ウフフ……」と含み笑い。正直怖いです。
「ウフフ、ウフフ……楽しみです……」
……行こうか。
私達が頭を下げてから出発すると。
「待ってくれ! 置いていかないでくれえええ! この変態死霊魔術士からわしを救うてくれえええっ!」
……毒を以て毒を制す。一から鍛え直してもらいなさい。
後に元長老、この死霊魔術士の一番の下僕となる。
「嫌じゃ、嫌じゃあああああ!」