第六話 ていうか、ついに変態巨人と対決!
「まずは秘密の村まで行ってみましょうか?」
「そうですね。ここからでしたら割と近いですし」
次の日の朝。
ご飯を手早く済ませて出発。足取りが重い三人のせいで、遅々として進まなかったけど。
「あんた達さぁ……シャキッとしなさいよ! これじゃあ今日中に秘密の村に着かないわよ!?」
「ムチャいうなよ! 私達はちょっと前まで正座させられてたん……」
「させられてた……のですか?」
出た、ヴィーの蛇睨み。
「あ、いや、そういうわけでは……」
「まだ反省が足りないのでしょうか……」
「しました! 目一杯しました! 大変申し訳ありませんでした!」
立ったまま腹筋運動を黙々とこなすリル。最近うまくなってきた気がする。
「うう、足が痺れて……歩けません……」
エイミア……自分のスキルを忘れてない?
「エイミア、≪蓄電池≫の応用で治癒できるんじゃないの?」
エイミアは呆気にとられた顔をしてから「……忘れてました……」と口を動かし。
「≪蓄電池≫!」
ばちばちっ!
「よし、もう大丈夫です!」
無事に回復したようだ。
「……エイミア姉、ズルい。私も治して」
「リジー、ごめんなさい。治癒できるのは自分だけなんです」
……リジーも忘れてるわね。
「リジー、あんた呪剣士でしょ? 呪いの反転で治癒できるんじゃないの?」
リジーも呆気にとられた顔をしてから「……不覚、忘却……」と口を動かし。
自分の無限の小箱から血染めの革鎧を取り出し、装備した。
「装着者を即死させる呪いを反転。一気に回復」
無事に回復したようだ。
あとはリルだけど……。
「あんたは回復する手段は……ないわね」
「うるっせえ!! サーチだって同じだろが!」
「あら〜? それ以前の問題なんですけど〜?」
「な、何だよ……」
「私、足が痺れることありませんから」
「うっわ、きったねえええ!!」
「というわけだから。あんただけ我慢して歩きなさい……行くわよ〜〜」
「「「は〜い」」」
「ちょっと待て! こら! 歩くの早いんだよ! ちょっと! 待てっつってんだよおおお!」
……だだっ広い荒野に、リルの悲痛な叫び声が、虚しく響く……こともなく風に流されていった……。
「この辺りです」
三時間ほど歩いた先で、ヴィーは立ち止まる。
「この辺りって……結構アバウトな……」
「半径10m圏内でしたら、何処からでも村に入れるのです。何せ目印もありませんから……」
「……半径10m以内だとしても、よく場所がわかるわね」
「私達は入口からの歩数を数えてますし、太陽の位置で方角を確認してますから」
歩数と方角で毎回割り出してるわけ!? 用心深いと言うか、手間と言うか……。
「あとはリルだけか……。まだ足が痺れてるのかしら」
いくら何でも、もう治ってるよね?
「……? サーチ、リルが何か叫んでますよ?」
「……リル姉、叫んでる……と言うよりは悲鳴に近いような……」
悲鳴? リルが?
「ゴキブリでもいたのかしら……あ、飛び上がった」
スゲえジャンプ力だな!
「ジャンプ……にしては高いですね」
「滞空時間も長いと思われ」
……ジャンプじゃないわ!
「変態透明人間に捕まったのよ! みんな、戦闘準備! リルを助けるわよ!」
「「了解!」」
「らじゃ」
「ばっかやろおおおっ! 離せ! 離しやがれ………た、高いニャ! やっぱ離しちゃダメニャアア!」
何かおもしろいけと口走ってるけど、今は決定的なチャンス!
「ヴィー! 手筈通りお願いね!」
「はい………サーチ、リルも巻き込んでしまいますが……?」
尊き犠牲でOK!
「構わないわ、やっちゃいなさい!」
「……責任の所在はサーチにありますので。≪染色≫!」
ヴィーの放った聖術が変態透明人間……長いから変態巨人でいいや……を包み込む。無論、リルを巻き込んで。
「うわ、何だこりゃ!? うわっぷ! 冷た!? 一体ニャンニャンニャ!?」
何もないはずの空間が、次第に赤色に染まっていく……ついでにリルも。
「……うわ、大きい……!」
エイミアが驚くのもムリはない。変態巨人の全長は……えーっと……ビルの五階くらいかな。
え? 正確な高さを教えろって? 自分よりデカいヤツのなんか、すぐにわかるかっつーの!
「……あんなモノに私は弄ばれたのですか……!」
ヴィーが詠唱を始めた。結構ハデな聖術を見舞うつもりみたいね。
「ヴィーの術が完成するまで援護するわよ! エイミアとリジーは遠距離攻撃! 私はリルを助けるわ!」
「わかりました!」
「うぃ!」
エイミアが電撃を放ち、リジーが炎を吐く。
ギィアアアアッ!!
変態巨人は苦悶の声をあげる。
「……意思がないのかしら? 野性丸出しの叫び声……」
エイミアとリジーの攻撃を避けようとはするけど、反撃をする素振りは見せない。ただ暴れ回るだけだ。
「おかげで接近は……しやすいけどね!」
変態巨人の足元に着いてすぐ、≪偽物≫の短剣でアキレス腱を斬る。
ギィイエ!?
アキレス腱を斬られて、変態巨人はバランスを崩す。
「た、倒れる倒れる地面が迫るニャアアアアア!!」
あーうるさい。
「わかったわかった! 助けてあげるから待ってなさいよ!!」
短剣を針に作り変えて、変態巨人の手の甲へ。リルを摘まんでいる指の爪に……!
ぶっすぅぅぅっ!
イギャアアアアアアアアア!!
「見たか! リルお得意の深爪攻撃!」
「元祖はサーチだろが! けど脱出できたぜ!」
リルが離れたのを見計らって、私も離脱する。
「今よ、ヴィー! 強力なヤツぶち込んでえええっ!」
奇跡の閃光が煌めき、変態巨人は跡形もなく消滅……。
「そ、そんなあ! まだ詠唱終わってませんよ!」
……しなかった。
「じ、時間稼ぎぃぃぃ! 何でもいいから攻撃攻撃ぃ!」
「え? え? ……とりあえず≪鬼殺≫!」
どごおっ!
「舞い狂え、血塗られた梯子」
がごおっ!
「こうなりゃヤケよ! 未完の秘剣〝竹蜻蛉〟!」
ずば! どす! ざくぅ!
「わ、私もか!? ……≪獣化≫引っ掻き!」
バリバリ!
「お、お待たせしました! 術が完成しま……した…………けど」
「どうしたの!? 早くぶっ放して!」
「…………あの…………生きてます?」
へ?
「あ、小さくなってる」
「息……してません」
「脈も……なっしんぐ」
……ヴィーに手を合わせて。
「お願い。回復してやって」
ヴィーは完成した術を空に放って。
「……凄く消化不良です……」
……ごめんなさい。
「それよりさ、私に付いた赤、落ちるのか?」
……さあ?
リルはヴィーの機嫌が直るまで、赤いままだった。