第五話 ていうか、ヴィーとお風呂で作戦会議。
私の大好きな入浴回!
夜。
あれからヴィーの身体を撫で回した変態を捜索したけど、全く手掛かりはなし。捜索に時間を食われて辺りは真っ暗、秘密の村へ行くこともできなくり、この場で野営することになった。
パチパチ……
焚き火で干し肉を炙りながら、簡単な野菜スープの味付けをする。そんな私の周りを、リル、エイミア、リジーの三人が囲っていた。
「……やりにくいんだけど……」
「腹へった」
「お腹すきました」
「……ライフが0」
「だったら肉でもかじってなさいよ。そろそろ焼き上がるでしょ?」
「……スープが飲みたいんだよ」
「……スープが飲みたいんです」
「……以下同文」
ウザい。
「……ヴィーに頼んで、石化正座をもう一時間追加」
「「「素直に肉かじります!」」」
……たく。
「あんた達、昼間の正座で懲りなかったわけ?」
「……お前……どの口がそれを言うか?」
「私は謝った。あんた達はゴネた。その差だと思うけど?」
「ゴネてねえよ?」
「似たようなもんじゃない。私が謝った後でも、ちゃんと謝ればヴィーは許してくれたわよ」
「……それはサーチ姉だから通用する理屈くけぇ!」
「……昼間にも言ったけど、あんたはいい加減に学習しなさい」
脛を蹴られてのたうち回るリジーに、ため息まじりに注意した。
それにしても「くけぇ!」って一体……。
「おい、焦げ臭いぞ」
「あ、いい感じで焼けたわね。もうすぐスープもできるから、先に食べてて」
「いよっしゃああ! 一番デカいのもらったあ!」
「あ、リル!? ズルいですよ!」
「へっへーん♪ 早い者勝ちだよ……いただきまーす!!」
「ちょっと、猫舌のあんたには熱す「あぢゃああああああ!!」……言わんこっちゃない……」
脛を押さえてのたうち回るリジーの横に、口を押さえてのたうち回るリルが加わった。ホコリが発つから、止めてくんないかな?
「ハフハフ……それにしへもビーはおほいでふね……」
「食べながら話さないの。でも遅いのは確かね。いつもならカラスの行水なのに」
今ヴィーは、近くの窪地に人造温泉を作って入浴中……のはず。
スープもできたし……様子を見てくるか。
「エイミア、スープできてるから、適当にみんなの分を盛っておいて」
「わかりました」
少し離れた場所に、猛烈な勢いで湯気がつむじってるのが見えた。あそこか。
音もなく忍び寄ると、ヴィーが湯船……もとい岩に腰かけて、夜空を見上げているのが見えた。
いたずら心が疼いたので、≪忍び足≫と≪気配遮断≫をフル活用して背後に回り……。
「…………ふぅ〜」
もみっ
耳と胸へのダブル攻撃を仕掛けた。
すると。
「【R18に抵触】っ!」
……異様に艶っぽい声をあげて、湯船に落っこちた。
「がぼぼぼ……ぶはあっ!? 何事ですか……ってサーチですか!」
「ぶくく……あはははははは! ナイスリアクション! あの声は艶っぽかったわよ〜〜♪ ぶぷぷ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
「……≪聖水弾≫」
「ひゃひゃひゃ『ばっしゃああああん!』ひぃあ〜〜〜〜!!」
冷た冷た冷た冷た冷たいいいいっ!!
「そーれぃ」
「わぶっ!?」
ざばあんっ!
湯船に引き摺りこまれがぼぼぼっ!
「ブクブク……ばはあ! な、何すんのよ!」
「あはははは! 笑った仕返しです!」
「全くもう……ビキニアーマーがびしょ濡れじゃない……」
まだ全身が温まってないので、湯船の中でビキニアーマーを脱ぐ。
「よいしょよいしょ……」
「……サーチ、胸が少し大きくなりました?」
「え!? ホントに!?」
「だって、この辺りがほら……」
「ちょ、ちょっと。んあ……ってどこ触ってんのよ!?」
ごいんっ!
「いったあああい!」
全く! 油断も隙もありゃしない!
「な、何で叩くのですか!?」
「やかましい! あんたの触った場所は、胸でも何でもないじゃないの!」
「……つまりサーチはそこが弱いのですね……」
ぎくっ。
「誰だって弱いに決まってるでしょ! 下らないこと言ってないで、さっさと風呂から出なさい! もう夕ご飯よ」
「あ、忘れてました」
よし、誤魔化せた。
「リル達はお風呂に入らないのでしょうか」
「今ご飯食べてるから、少し休んでから入らせるわ」
「……ふふ。まるでお母さんですね」
「言わないで。自覚はしてるから」
ご飯の準備が終わったら「さっさと食べてよー」だし、お風呂になかなか入らないと「後が詰まってんだから、さっさと入って!」だし、夜遅くまで騒がしいと「さっさと寝なさい!」だし……。
やべえ。これに「勉強しなさい!」が加われば、立派にお母さんだよ。
「良いじゃないですか。それだけサーチを頼りにしているのですよ」
……頼られて嬉しいような、悲しいような……。
「そうだ、ヴィー。昼間の巨大な変態なんだけどさ」
「……折角忘れていたのですが……何でしょうか?」
ごめんね。
「あんたを摘まみ上げたのって……何も見えなかったじゃない?」
「はい」
「何も見えない変態……ってのに、すっごく心当たりがあるんだけど……」
「何も見えない変態……ですか? 何も見えない変態……何も見えない……変態……あっ!」
ヴィーもその人物が浮かんだらしく、湯船から立ち上がった。私よりデカい胸がぶるんと揺れる。
……ちくせう。
「長老ですか……!」
そう。
ヴィーが住んでいた村の長老だ。この世界でも珍しい透明人間で、変態。村の女性は全員セクハラ被害を受けていたそうだ。
私達と村の女性全員にフルボッコにされ、村を叩き出されたはずなんだけど……。
「でも透明人間が≪巨大化≫を使えるなんて、聞いた事がありません……」
≪巨大化≫?
「何それ? マジで巨大化するの?」
「あ、はい。確か小人族の種族スキルです。人間の大きさになれる、とは聞いた事があります」
小人族の種族スキルってことは……。
「……他の種族は使えないわよね……なら、あり得るとすれば……」
「おそらく……七冠の魔狼の影響かと」
七冠の魔狼の影響って……?
「……正直よくわからないです……。けど、タイミング的にそれしか有り得ないかと思います」
「まあ……原因を考えるのはいつでもできるか。とりあえずは、巨大透明人間を何とかしないとね」
「以前にサーチが使った手でいけませんか?」
「それが一番手っ取り早いわね。ヴィー、聖術で何とかできる?」
「ありますよ。変態が出てきたら、すぐにかけますね」
よし、なら対策はバッチリね。
「はあ、すっかり温まったわ。そろそろ上がって夕ご飯食べようか?」
「わかりました。ビキニアーマーは聖術で乾燥させますね」
をを! 便利屋!
「……サーチ、何か疚しい事を考えてませんか?」
じょ、冗談よ……。
「さてさて、夕ご飯〜♪ 夕ご飯〜♪ ……ってあれ? 肉は? スープは?」
……何もないんですけど……。
「サーチ、石化しておきました」
こっそり逃げようとしていた三人は、いち早くヴィーの≪石化魔眼≫で足止めされていた。
「……あんた達……全部食べたわね……」
「「「ご、ごめんなさい……」」」
「ヴィー、どうする?」
「石化正座の刑、一晩中で」
「「「ぎゃああああっ!!」」」
「はい、ヴィーの分ね」
「ありがとうございます。しかしドラゴンのお肉は美味しいですね」
「でしょ? 私のとっておきのお肉なんだから」
「……いい匂い……」
「お、美味しそう……」
「……じゅるり」
「あんた達は腹一杯食べたでしょ? かったい干し肉を。私達の分までね」
「そうです。これは私達の分なんですから……そこで反省してて下さい」
「「「そ、そんな〜〜……」」」
「はいサーチ、あ〜ん」
しないわよ!