第四話 ていうか、旋風の荒野に戻りましたが……異変が起きたと思ったら、ヴィーが飛んだ?
「それじゃあ準備はいい?」
ソレイユが書き上げた魔方陣の真ん中で頷く。それを合図に、魔方陣から光が溢れ出し……。
……私の意識は暗転した。
「もがもがもがもがもががーー……ぶはあっ!」
意識が戻ったら、周りは土でした……って何でだよ! 必死にもがいて土の中から抜け出した。
「けほけほっ! 口に砂が……ていうか、髪まで土だらけじゃないの! もお〜〜」
ブツブツ言いながら髪から砂を落とす……ていうか、すり傷だらけじゃん。何があったのかしら?
「ビキニアーマーにまで砂噛んでるじゃない……ていうか、みんなは!?」
その時になって、初めて周りの惨状に気づいた。
「そ、そんな……エイミア、リル、リジー、ヴィー……!」
視線の先には、そそり立つ八本の足があった。
「……ソレイユ……座標間違えたわね……」
たぶん空中に転移しちゃったのだろう。だから、私を含めて全員でスケ○ヨしちゃったわけだ。
「……それにしても……エイミアはベージュ、リルはピンク……ヴィーは黒かあ……結構みんな大胆なヤツ履いてるのね……」
スカートのメンツにとっとは、ス○キヨ状態は非常に無防備なわけでして……。
「……撮っておこ」
最近ソレイユが念話水晶に、カメラの機能をつけてくれたので、それで撮っておくことにした。
カシャッカシャッ
……ムダにシャッター音まであるし、フラッシュも完備。ソレイユはスマホでも作るつもりなのかな?
「ゲホゲホ! く、苦しかったです……」
「ペロペロごしごし、ペロペロごしごし……」
「……サーチ姉じゃないけど、温泉入りたい……」
気持ちはすっごくわかる。けど耐えなさい。
え? ペロペロごしごしは何だって? リルが毛繕いしてるに決まってるじゃない。
「皆、一匹に融合して」
「「「シャシャシャ!」」」
ヴィーは髪……ていうか蛇の手入れをするでもなく、頭の蛇達に号令をかけている。捻れて絡まった蛇達は、やがて集束し……。
「ギシャアアアア!」
一匹のアナコンダになった……ってデカいな!
「凄い……ヴィー姉の頭から、一匹だけ巨大な蛇が生えてる……」
ヴィーの頭より太い蛇が、地面におりる。
「……では脱皮開始!」
ヴィーの号令を聞いた大蛇は、瞬時に脱皮を完了する……って早いな!
「よし脱皮終了! 各蛇は解散して下さい」
すると蛇はバラバラと裂けていき……いつものヴィーの頭に戻っていった。
「これで砂は全て除去完了です……サーチ、どうかしましたか?」
「……いえ……便利だな、と思って……」
「……便利ですけど、結構体力を消耗するのですよ」
あ、そうなの? なら毎回はムリか。
「ヴィー姉、洗髪料要らず? ……リアル・ウェーブフラットさん? ひぃぁーーー」
ヴィーの蛇に飲み込まれるリジー。しかしリアル・ウェーブフラットさんって……?
「今回は許しません! 完全に消化します!」
「おーたーすーけーー……」
ヴィーを止めながら、ようやく謎が解けた。
「あ、そうか……ウェーブフラットさんって、髪の毛一本だっけ……」
「……サーチ?」
何でもありませんごめんなさいごめんなさい。
旋風の荒野は、相変わらず何もない荒野だった。
「……少しだけ離れただけなのに、とても懐かしく感じます……」
……黄昏るヴィー。その足元で、頭を飲み込まれたリジーがもがいてなければ、絶対に絵になる光景だったと思う。
「ヴィー、もう許してあげたら?」
「だって! 酷いじゃないですか! ウェーブフラットさんなんて、女性に言う事じゃありませんよ!」
それは同意するわ。
「まあいいじゃない。特殊スキル≪怒声≫が修得できるかもよ〜……って冗談よ冗談!」
振り上げた杖を下ろしながらも、ヴィーは私を睨む。冗談が通じないことが多いのよね〜……マジメ故の弊害かな。
「……まあ、サーチが言うのなら……吐いていいですよ」
蛇は「シャ!」と答えると、食道辺りにいたリジーを「ペッ」と吐き出した。
「ぅひゃあっ! く、苦しかった……」
そりゃ苦しいでしょうよ!
「リジー……いい加減に学習しなさいね?」
カクカクと頷いた。あんたの辞書には「懲りる」っていう言葉がないのね……。
「それより、何か変わったことはあるのか?」
リルの言葉にハッとなったのか、リジーは辺りをキョロキョロ見回す。
「リルはどう? 何か匂いで感じない?」
「ムリだな。ただでさえ風の迷宮なんだから、匂いなんか残ってるわけねえだろ」
「そりゃそうか。エイミアは?」
「ん〜〜……駄目ですね。風の影響で静電気がうまく広げられません」
さすが旋風の荒野。〝八つの絶望〟最難関と言われてるのは伊達じゃないってわけか。
「ヴィー、私達じゃお手上げだわ。そっちはど……あれ?」
ヴィーがいない?
「ど、どこいったの? ヴィー? ヴィー!」
「サーチ姉! あそこ!」
リジーが指差すのは……空!?
ヴィーが飛べるわけ……ていうか飛んでるし!
「きゃああああ! 何なんですかこれ!?」
空に浮かんだままジタバタするヴィー。服の首筋の辺りを、猫を持つような感じで引っ張られてる。
「飛んでる……って感じじゃないわよね?」
「ああ。どっちかっつーと、見えない手で摘まみ上げられてるような……」
ヴィーは何とか脱出しようと、ジタバタを繰り返してるけど、どうも効果はなさそう。
「ヴィー! じたばたするのはいいけど、HPが低くないと威力出ないわよー?」
「何を意味のわからないこと言ってるんですか!? 助けて下さいよ!」
あ、そうね。失敬失敬。
「どうしようか、サーチ姉。撃ち落とす?」
「撃ち落としちゃダメよ! ていうかリジー、もしかして飲み込まれかけたことの仕返し!?」
「ま〜さか〜〜」
……完全に目が泳いでるんですけど……。
「んぎゃあああああああああああ!」
「うわびっくりした! どうしたのヴィー!?」
「きいああああああ! 触らないで! スケベ! 変態!!」
? ……触らないでって……?
「一体誰なのよおおおっ! 私に触っていいのはサーチだけなんです!」
「どさくさに紛れて、変なこと言わなくてよろしい!」
「つーかマジでどうすんだよ!」
「ああもう、仕方ない! 撃ち落としなさあい!」
「い、いいんでしょうか……」
「やっちゃえやっちゃえ」
まずはリジーが梯子を投じる。ていうか梯子も飛ぶのかよ!
「……恨むなよヴィー……ていっ!」
リルも矢を放ち。
「ご、ごめんなさい〜……せいでんきよ!」
エイミアも電撃を放つ。
が、その途端。
「ぅわっ!? ひぃああああああっ!!」
ヴィーが落っこちた。
三人が放った攻撃は、明後日の方角へ飛んでいった。
「ヴィー大丈夫!? って、うわ!?」
落ちたヴィーに駆け寄ったら、急に足が石化した。
「……サーチ……攻撃、許可しましたね?」
「あ、あはははは……」
やべえ。
「……後ろの三人も」
「「「あ、足が!」」」
全員捕まりました。
「……どうして攻撃したんですか?」
これは……白旗ね。
「ヴィー、ごめんなさい! お詫びにデートで!」
「………………十回分」
ぐぁ! 多い……けど仕方ない。
「……わかったわ」
「はい。じゃあサーチは許します」
「「「え、えええ!? サーチだけズルい」です!」ぞ!」
「大丈夫です。三人は絶対に許しませんから」
「「「ふ、不公平だああああ!」」」
結局、私以外は石化正座の刑となった。
……それにしても……ヴィーを吊り上げたモノは一体……?