第二十六話 ていうか、まだ窪地の中で対話♪
『先程からマーシャン等と気軽に呼んでおるが……お前達は妻とはどのような関わりがあるのだ?』
「……私達のパーティの一員だけど……」
『そうかそうか、妻がお前達とパーティを………………何ぃ!?』
おお、三冠の魔狼がノリつっこみをなされた。
『な、まさか!? 妻がパーティを組むような甲斐性があるはずが……いや、それよりも圧倒的に人望が足りぬはず……もしやパーティメンバー全員が特殊な性癖持ちなのか!?』
「……とことん失礼なヤツね。何よ、特殊性癖ってのは!」
『む? ……獣とか、同性とか、束縛やスカ』
「それ以上言ったらマジで頭減らしてやるわよ」
『……す、すまぬ』
「すげえ、三冠の魔狼を黙らせたぜ……サーチはやっぱ最恐か……」
「リル? あんたはヒゲを減らせばいいかしら?」
「すんませんでした!」
……たく。一言多いっていう自覚を持ってほしいわね。
「ちなみに特殊性癖なのはサーチ姉とヴィー姉のみひぁーーっ」
あ、リジーがヴィーの頭の蛇に丸飲みされてる。
「ちょっとヴィー、つっこみにしては激しすぎない?」
「大丈夫ですよ。少し消化するだけですから」
少しって……あ、ヴィーの目が据わってる。これ以上は止めよう。
「……ま、ほどほどにね」
「わかりました、程々に」
……リジー、成仏しなさいよ。
『お前達が妻と同じパーティだったとは……やはり何かしらの縁があるようだな』
……かもね。
『それにしてもサーチの好みは妻だったのか? てっきり蛇の女王か、現在の勇者殿かと』
「余計なこと言わなくていいの……で? 何で勇者から三冠の魔狼に転職したわけ?」
『転職ではないのだが……まあ良い。簡単だ、我は三冠の魔狼に食われたのだ』
「「……は?」」
『我は三冠の魔狼に戦いを挑んで負けた。そして食われたのだ』
……食われて……三冠の魔狼になる?? 意味がわからん……。
「成程、≪生命交換≫ですね」
リジーを丸飲み中のヴィーが、口を挟んできた。
「ヴィー、知ってるの?」
「はい、≪生命交換≫はハイエルフ系の魔術の最終奥義と言われています。効果は名前の通り、命の交換です」
あ、そういうことか!
「……自分が殺されそうなときに、その魔術を使えば……一気に形勢逆転だもんね」
「……つまりマーシャンの旦那さんは、食われたときにその魔術を使ったわけか……。じゃあ実際の三冠の魔狼の魂は……」
……マーシャンの旦那さんの身体と一緒に、消化されたわけか。
『その時に三冠の魔狼の身体を動かしていたのは「憤怒」だった。その後釜を我が受け継ぐ形になった』
なるほどねえ……。
「じゃあ三冠の魔狼……じゃなくて七冠の魔狼の頭にはそれぞれ命があるわけ?」
『おそらく。他の頭と対話する事はなかった故、推測の域を出ぬが』
……対話がないのなら、頭同士で統制がとれていない可能性が高いか……。そこにつけ入る隙がありそうね。
「じゃあ、あんた以外では、身体を動かしてた頭はいない?」
『我が寝ている間の事は知らぬ』
「……一日どれくらい寝てた?」
『普通に七八時間だな』
めっちゃ健康的な睡眠時間ね!
「それだけの時間では、あまり為せる事はなさそうですね」
「そうね……ヴィー、リジーは大丈夫なの?」
ちょうど丸飲みが完了したらしく、蛇のお腹の中でリジーがもがいている。
「大丈夫です。まだ消化は始めていませんから」
「ちょっ! 消化しちゃダメだからね!」
「脅しているだけです。消化してもちょっとだけですから」
……まだ目が据わってる。相当お怒りみたいね……。
「じゃあ、最後の質問ね。七冠の魔狼を倒す事はできると思う?」
『出来る出来ない以前の問題だ。倒してはならぬ』
「……やっぱり……世界も滅ぶ?」
『そうだ。七冠の魔狼とこの世界は、表裏一体の存在だと考えた方が良い。倒す事よりも、制する事を考えるべきだな』
制することを、か……。
ん!? 制すること!?
「ちょっと待って! 制するってことは……封印するってこと?」
『うむ、封印と言って差し支えないだろう。要は地獄門へ戻せばよいのだ』
「地獄門へ……?」
『地獄門は現世と冥府を繋ぐ唯一の門。其処ならば七冠の魔狼の力を冥府へと追いやる事が出来る』
「……そういえば七冠の魔狼って、元々は冥府に存在してたんだっけ」
『そうだ。七冠の魔狼の力は、現世では異質過ぎる。反発する力によって門から弾き出されよう』
「えーっと、つまり……。何らかの手によって七冠の魔狼を地獄門近くまで誘導できれば、勝手に力を削がれていくってことね?」
『最終的に力を失った七冠の魔狼も冥府へ弾き出される事になる』
……対抗する手段は見つかった。あとは……。
「……どうやって地獄門まで誘導するのよ……」
私がため息まじりで呟くと、三冠の魔狼は勝ち誇ったかのように嘲笑った。
『我が何の考えも無しに、このような提案をすると思っていたか?』
「……手は……あるのね」
『無論。七冠の魔狼と対を成す者を揃え、引き合う力を利用して誘き出せばよい』
対をなすって……まさか。
「七つの美徳のこと?」
七つの美徳とは、大罪と対をなす善行のことを言う。
つまり、暴食には節制、色欲には純潔、強欲には救恤、憤怒には慈悲、怠惰には勤勉、嫉妬には忍耐、そして傲慢には謙譲……だったかな。
『その通りだ。流石に調べていたか』
「まさかこんなのが、役に立つとは思ってなかったけどね……」
一応町の図書館やギルドで、調べてはいたのだ。前世にもあった「七つの大罪」に共通点が多かったので、興味半分で「七つの美徳」も調べてたんだけど……。
「でもさ。七つの美徳って、どんな形で存在してるの?」
『七つの大罪と同じだ』
「は? 同じって?」
『〝八つの絶望〟に存在する』
はああああああっ!?
この章、まだ少しだけ続きます。