第二十二話 ていうか、ついに明かされた七冠の魔狼の謎!
『結局、私達は七冠の魔狼が乱した魔力の流れを調整せねばならなくなり……』
「……それが今まで続いていると?」
氷の真竜は頷いた。
確かにねえ……生み出してもらった恩はあるにせよ、ろくに面倒もみてくれずに放置されて、しかも生みの親の尻を拭いてやるような事を延々とやらされて……これで「親を敬え」って言っても説得力ないわな。
「でも、もし七冠の魔狼が現れたら、力を渡しちゃうんでしょ?」
『それしかないの。恨み事の一つも言ってやりたいが、あまり刺激するわけにもいかぬ故』
でしょうね〜……爆発寸前の核兵器に足が生えて、歩き回ってるようなもんだし……。
「大体の事情はわかったわ。ていうか、何で変態骸骨は何も教えてくれなかったのかしら……」
『変態骸骨とな? 地の真竜か?』
「そうよ。変態骸骨なんて、あの大魔導くらいしか当てはまらないでしょ?」
『確かにな。じゃが地の真竜を責めないでやってくれ。あれは何も知らぬ』
「え? 何でよ?」
『私は七冠の魔狼の本体にもっとも近い位置にあった頭じゃ。他の者よりも余分に知識は流れ込んでおったのでな』
「は? 本体って?」
『七冠の魔狼の奥底に眠る、失われた大罪………「虚栄」』
虚栄……?
『一番詳しいはずの私でも、はっきりとは掴めておらぬ……。覚えておけ、本体の罪は……「虚栄」じゃ』
……確か前世にあった七つの大罪は、いろんな解釈がなされていた。その中には「罪は七つではなく、八つだ」と定義した説もあった。その失われた大罪が……「虚栄」だったはず。妙なとこで前世と繋がりがあったわね……。
「……虚栄が大罪の一つ? ようわからんな……」
「ん〜……虚栄はある意味『傲慢』や『怠惰』にも含まれる要素がありますしね……。敢えて言うなら『虚しさ』になるのでしょうか……」
『ほう……そこのメドゥーサは中々に博識じゃな。そうじゃ、虚栄とは「虚しさ」と同じ。全てに「虚しさ」を感じるしかない、悲しき大罪』
全てに「虚しさ」をって……。
「それって『絶望』に繋がるだけじゃないの!」
『その通りじゃ。本体が普段、私達の内側に閉じ籠っていた理由がそれじゃよ。世の中の全てに絶望したのじゃ』
世の中の……全てに……絶望した。
「『絶望』の果てにたどり着くのは……『破壊』ということ?」
『……それが……七冠の魔狼を突き動かす理由なのじゃよ』
……あはは……七冠の魔狼の方が、よっぽど魔王っぽいわね……。
「全てを『破壊』して『無』に帰る……。七冠の魔狼は、正に魔王ですね」
「ヴィー? あんたいつから読心術が使えるようになったの?」
「へ? 使えませんよ……あ! も、もしかしてサーチは私と同じことを考えたのですか!? うふふ……以心伝心……うふふ」
まーたヴィーがトリップしてるよ……。
『……思慮深いメドゥーサかと思うたが……勘違いじゃったかのう?』
「いえ、ホントにマジメで頼りになるんですよ。たまにトリップするだけで」
「うふ……うふふ……うふふ」
「でもさ、その割にはウブなんだよ……おいヴィー! サーチが今夜一緒に寝ようってよ!」
それを聞いたヴィーは、頭の蛇の先まで真っ赤になった。
「え!? そそんな、サーチから積極的になるなんて……! わ、私にも心の準備が……ひあああああっ!」
あ、逃げた。
「……自分から迫ることは平気なクセに、攻め込まれるのには滅法弱いんだよな。やっぱウブだぜ」
「……そうね……」
リルの背後に回ると、スカートをめくり上げた。
「あ、熊さんパンツ。なかなか可愛いヤツを履いてるわね」
リルはヴィーと同じように、猫耳の先まで真っ赤になった。
「きいいいああああああああっ!」
あ、逃げた。
「……ウブさ加減じゃ、二人ともいい勝負だと思うけど……」
とりあえず、親指を立てて喜んでる氷の真竜は、張り倒しておいた。
『何で私が殴られるんじゃ!?』
「女の子の下着を覗いた時点で死刑確定よ! 張り倒されただけなら軽いわよ!」
『な、なんと理不尽な! ならばお前らも全員死刑にしてやる! 私の下着を覗くがいいわ!』
「「誰も見たくないわああああ!」」
『ぶごぉ!?』
私の右ストレートと、リジーの左フックがキレイに決まった。
『……こひゅー……こひゅー……ぐふっ』
「サーチ姉、また天に召され始めた」
『おお、神よ……今こそお側に……』
「放っときなさい! もう聞きたいことは聞けたからどうでもいいわ!」
「……でも、そうなると七冠の魔狼が……」
ぐぁ! そうだった!
「なら……ちらっ」
少ーしだけ、ブラをずらす。
『ぬぅ! 天にまします我らが神よ! もう少し地上にいますのじゃ!』
「ていうか、めっちゃ元気じゃないのよ!」
『死ねぬ! 逝けぬ! 殺されぬ!』
何を名言っぽく言ってんのよ!
ホントに用事は済んだので、そろそろ失礼することにした。それで挨拶したら……。
『もう殺されかけるのは御免じゃ! 用事が済んだのなら、さっさと失せい!』
……ホントに殺してやろうかしら。
「……まあいいわ。リル、ヴィー。ダンジョンから出るわよ」
「「もうお嫁に行けないです……」」
「……リルはともかく、ヴィーはそうかもね……」
「えっ!? サーチ酷いです!」
「あ、そうだな。ヴィーにはもうサーむぐぐぐ」
余計なこと言うな!
「え!? ええ!? えええ!? や、やだ〜〜もう〜〜!」
「……ほら〜……トリップしちゃったじゃない……」
「むぐぐぐ……ぶはあ! いきなり何だよ!」
「あのね、実際の結婚生活で、毎度毎度あんなトリップされたら……生活成り立たないわよ……」
「あ? ……ああ、そういうことか……妙に現実的な答えが返ってきたから……期待外れというか、何というか……」
何を期待してたのかは聞かないけど……悪かったわね。
「だけど大丈夫よ。ちゃんと期待に応えてくれる娘がきたから……総員退避!」
私の号令に反応して、全員逃げ出した。
「何だ? 何が起きるんだよ?」
「わかんない?」
「……? クンクン……あ、エイミアだ」
「エイミア姉、完全に怒髪天」
あらら。完全に超エイミアになっちゃったわね。
バリバリバリずどおおおおおん!!
「……おい、すっっげえ轟音がしたけど……!」
「さすがにヤバいか……ヴィー、また≪回復≫お願いね!」
「やっだあ、サーチったら! もう〜……」
何をクネクネしてるのやら。
「いい加減に正気に戻らないと、頭の蛇を全部蒲焼きにするわよ!」
「ひえええっ! ごめんなさいいいっ!」
……やれやれ。
七つの大罪の解釈は、私のかなり適当なオリジナルです。気にしないでください。