第六話 ていうか、スゴいことしちゃった。
「きゃああああああああっ!」
全身に激しい痛みと痺れが走る。うわ、これはヤバいわ……い、意識が……持ってかれる…………≪偽物≫で作った長針が薄れていく……。
すると。
聞こえないはずのないドラゴンの更なる悲鳴が聞こえた、気がした。
「そ、そうか。針、から、直接、体内に……」
高い耐性を誇るドラゴンの皮膚。しかし、皮膚から下の層にまで耐性があるわけじゃないんだ……。
「ぐ……ぐぅっ!」
だったらここで意識を失うわけにはいかない。ドラゴンに『痺れ』のバッドステータスが出るまでは……耐えてやる!
じゅううう……
「う……ああああぁぁっ!!」
熱! 熱い! あああちちち! 針が……熱を持ち始めて……手が……焼ける……!
「サーチぃ! もういいから! 離れて!」
エイミアが泣きながら叫んでいる。でも……離さない!
こんなの……こんなの……!
「組織への反逆に比べたら屁みたいなものよ!!」
そう言ってまだまだ耐える!
すると。
「サーチ! よく耐えた!」
リルの絶叫が響き。
「あとは任せろぉ!!」
凄まじい勢いで何かが飛んできて!
ドスゥッ!!
ドラゴンの眉間を貫通した。
……。
そこで私の意識は途切れた。
「サーチ! サーチぃぃ!」
エイミアが倒れたサーチに駆け寄ろうとする。
「待て! まだドラゴンが死んだわけじゃないぞ!」
そう言われたエイミアが涙目で睨んでくる。
「そんなこと言ってる場合しゃない! サーチが死んじゃう!」
結局そのまま走っていった。……私は念のためにもう一度射る準備をして待機する。
「サーチ! 大丈夫!?」
倒れているサーチを抱き起こしましたが、反応がありません。
「ああ……! こんなに火傷して……!! ごめんね、サーチ……!」
ビキニアーマーに被われていない素肌のあちこちに火傷があって、特に手のひらは焼け爛れてひどい状態です。
「でも……でも……びえええええええっ!!」
生きてた〜……良かった〜……。
「待ってて……いま治してあげるから……」
そう言って私は自分の荷物を探って……探って……あれ? 無い……無い……。
「確か、持ってきたはず……」
……あった!
私が家を飛び出した時に盗……持ち出してきたエリクサーが……。
……って、あれ?
『エリクサー(百倍希釈)』
え? 間違えた?
うー……まあ、でも……効果はあるはず!
「確か……傷に直接かけると即効性があるはず……」
一番酷い手のひらの火傷に垂ら……。
「ちょっと待て! それ」
何故かリルに止められましたけど、さくっと無視。サーチ、待たせてごめんね。
ばしゃっ
かけた途端に、白い湯気がたち始める。
「ひぎゃああああああ!」
あ。
サーチが飛び起きた。
「痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱いぃぎゃあああ!」
「そのエリクサー……めちゃくちゃ沁みるんだよ……」
リルが呟きました。
「えっ」
ごごごごめんなさい、サーチ、知らなかったんですうううっ。
「はあはあはあ……」
な、何なのよ……。
電気の痺れと痛みから解放されたと思ったら、傷がなんか異常に沁みるわ、火傷だらけであちこち痛いわ……。
「エイミア……」
「サーチ……よかった」
なぜか急に抱きついてくるエイミア!
「いいい痛いっての!」
「良かったです、良かっぐふぉう!?」
あ。つい手加減なく腹パンしちゃった。
「ご、ごめんエイミア……あ、あれ?」
き、気絶してる。
ど、どうしよ……。
「サーチ。この薬を使いな」
リルがガラス瓶を持ってきた。何故か悪い笑顔で。
「これ、よ〜く効くみたいよ。その手みたいに」
それを聞いて私も。
ニヤリッ
「エイミア〜。ど・う・ぞ」
ばしゃっ
「…………んぎいいいいい!!?」
……お腹を抑えてエイミアは飛び起きた。
「ひどいです! サーチ!」
「あんたの方がひどいわよ!」
私の火傷の治療が終わってから死んだドラゴンのもとへと向かう。
「それにしても……ホントにドラゴンキラーしちゃったのね……」
ドラゴンの亡骸を見上げて、改めて自分たちがしたことを自覚する。
竜殺し。
その名のとおり、ドラゴンを倒した者に与えられる称号。普通はAランクパーティが数組集まってようやく、というレベルのものだ。ドラゴンキラーの称号があるだけで尊敬の対象なんだけど……。
まさかデビューすらしてない新米パーティが達成しちゃうとはね……。
「まあ、生きてたから良かったわ」
「ギリギリだったけどな」
「本当……みんな無事で良かったです」
「フフ……」「アハハ……」「アハハハハ」
「「「アハハハハハハハハハ」」」
これが。
私達のパーティ、竜の牙折りの名前の由来になった。