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第二十話 ていうか、最弱のマスタードラゴン。

『……こひゅー……こひゅー……』


「……おい……完全に虫の息だぞ……」


「大丈夫よ。まさか真竜(マスタードラゴン)が、これくらいで死ぬわけないじゃない」


「「「真竜(マスタードラゴン)!?」」」


 この自称守護神(ガーディアン)は、最初から決定的におかしい点があったのだ。


「ねえ、みんな。おかしいと思わない? こいつがホントに守護神(ガーディアン)だったとして……何も感じないなんて(・・・・・・・・・)変じゃない」


「何も感じないって……?」


 リルはクンクン匂いを嗅いでるけど……それじゃない。


「今までの守護神(ガーディアン)戦だったら、戦う前に肌で感じなかった?」


 私のヒントで気づいたらしく、ヴィーが口を開いた。


「……魔力」


 ヴィーの一言で、リルとリジーもハッとなった。


「そうなのよ。守護神(ガーディアン)クラスのモンスターなら、当然感じられるはずの強大な魔力。こいつからは欠片も感じられないでしょ?」


 私はまだ虫の息で転がる自称守護神(ガーディアン)を見やる。


「考えられるとしたら二つ。ホントに魔力が感じられないほど弱いか、わざと隠しているか(・・・・・・・・・)。そうよね? 真竜(マスタードラゴン)さん?」


『……こひゅー……こひゅー……』


「ちょっと、いつまで演技してんのよ」


『……こひゅー……こひゅー……』


「……いい加減にしなさいっての!」


 ぽかっ!


『こひゅ!? ……ぐふっ』


 え? ぐふって……気になって脈をとる。


「……あれ? 脈がないんだけど……」


「……サーチ。まさかとは思いますが……先程の『ぽかっ!』が止めになったのでは……?」


 げえっ!


「ヴィー、≪回復≫(リカバリー)をお願い! 何とか助けてくださあい!」


「わかりました……≪完全回復≫(フルリカバリー)


 ま、まさかホントに虫の息だったなんて……。てことは真竜(マスタードラゴン)じゃなかったのね。


「……………おい、サーチ?」


「あ、あははははは………」


「ちゃんと相手が耐えられる攻撃(つっこみ)しような?」


 す、すみません……。



『お、お前達は私を殺す気か!?』


 すいません、殺す気はなかったんですけど、殺しかけました。


「……つーかよ、お前は一体何者なんだよ? どう考えたって、お前が守護神(ガーディアン)ってことはねえよな? 弱いし」


『よ、弱くて悪かったの!! そうじゃよ、私は守護神(ガーディアン)ではない』


「……じゃあ何なのよ?」


『……私は……氷属性を司る真竜(マスタードラゴン)じゃぶごお!?』


「だ〜か〜ら〜! そういう見え見えのウソは止めなさいっての!」


『……こひゅー……こひゅー……』


「げ!? また虫の息に…………ヴィー……」


「わかりましたよ、≪回復≫(リカバリー)……これで貸しが二つですね。デートが良いかな……うふふ」


「だから言ったろ。攻撃(つっこみ)は加減を考えろって」


「……面目ない……」



『弱い! 確かに私は弱い! じゃが真竜(マスタードラゴン)なのじゃ!』


「…………証拠は?」


『ほれ、見てみい。ちゃんと真竜(マスタードラゴン)と書いてあるじゃろ』


「名刺なんか、いくらでも偽造できるでしょ!」


『うぬぅ……ならばほれ。ギルドカードに書いてある』


真竜(マスタードラゴン)がギルドに入ってるわけないでしょ!?」


『うぬぬ……! ならば、住民票に健康保険証に免許証! これだけ公的機関の証明があればぐぼげぇ!』


「この世界に住民票やら健康保険証やらがあってたまるかあああああっ!」


『……こひゅー……ぐふっ』


 し、しまったあああ!


「…………ヴィー」


「わかりましたわかりました。≪回復≫(リカバリー)……でもサーチ、いい加減にして下さいね?」


「ごごごめんなさい……」


 ヴィー、怖いっす……。


「……今度の休みにデートですね」


 ……はい。



 結局ソレイユに問い合わせて、ようやくこの自称真竜(マスタードラゴン)が本物だとわかった。


『じゃから言うたろう!? これだから最近の若い者は……』


「「「「あなたが一番、見た目()若いですから!」」」」


『「は」が余分じゃ、「は」が!』


 ていうか、何でこんな弱っちいのが真竜(マスタードラゴン)をやってるわけ!?


『……何じゃ、私が真竜(マスタードラゴン)なのが不満なのか?』


「いえ。ただ真竜(マスタードラゴン)の割には弱いなあ……と思って」


『ふん。攻撃に優れるだけが真竜(マスタードラゴン)に必要な資質ではないわ。お前、サーチとか言うたな?』


「そうよ」


そこから動けるか(・・・・・・・・)?』


 …………は?


「そこから動けるかって……私をバカにしてるの!?」


『なら動くがよい。私がお前に近付く前にな』


 ふざけんじゃないわよ! できないわけな……あれ? えい、えい!

 ……ウソでしょ……。


「サーチ? どうしたんですか?」


「……マジで動かない」


「はあ? 何を寝ぼけたこと言ってんだよ?」


「マジなのよ、マジ! ちょっと助けてよリル!」


「……マジか? わかった、助けてや……あれ?」


 え? まさか!?


「ウソだろ!? 身体が動かねえ!」


『邪魔されては困るからの。全員≪不動≫(フリーズ)させてもらった』


≪不動≫(フリーズ)ですって!?」


「ヴィー、≪不動≫(フリーズ)を知ってるの?」


「はい、氷属性の状態異常系魔術です。文字通り相手を動けなくする効果がありますが……」


 ……が?


「対象に直接触れていないと、発動しない魔術のはず……なのにどうして!?」


『じゃから言うたろうが。真竜(マスタードラゴン)は攻撃力が全てではない、とな』


 対象への接触が発動条件の魔術を、触れることなくかけたの!? しかも同時に複数に……!


『さて。あと数歩でお前に到達できるが……。先程の余裕は何処へいったのじゃ?』


「……く……!」


 何をしても……身体が動かない……!


「ヴィー! 聖術は使えない!?」


「だ、駄目です! 使えません!」


 くっ! 魔力にも作用してるみたいね……!


『さて、着いたぞい』


 さわっ


「ひっ! な、何すんのよ!」


『なあに、あのような大口を叩いた罰じゃよ』


 さわさわっ


「ちょっ……! どこ触ってんのよ、この変態!」


『ん? 悔しいか? ならば動いてみよ……んふふふ』


 ひうっ! 内側に手を……!


「ちょっと! 私の(・・)サーチに何をするのですか!」


 ちょっとヴィー! 何を口走ってるのかな!?

 ん? 口走って……? しゃべれるってことは、舌も口も動いてるのよね……。

 もごもご……あ、できる。


「……ねえ、真竜(マスタードラゴン)さん」


『はむはむ……何じゃ?』


「ブーーーッ!」


『うわ、汚な……ぎゃああああああ! 目が、目がああああ!』


 口内は動かせたから≪毒生成≫はできたのよね。


『の、喉が! 喉がああああ! い、息が! 息がああああ……うぐぐ……ぐふっ』


「……わっとと……う、動けた!」


「魔術使用者が意識を失うと、≪不動≫(フリーズ)の効果も消えますから……」


「ふう、動けないのって窮屈なもんだな……でも助かったぜサーチ」


「サーチ姉、痺れ薬でも吹いたの?」


 いやいや、直接手を入れてくるような変態には、痺れ薬なんて生易しい。


「えーと……フグでしょ、ヤドクガエルでしょ、ヒョウモンダコでしょ、アンボイナガイでしょ、キロネックスでしょ……」


「ヴィー、今すぐ≪完全回復≫(フルリカバリー)を!」


「え〜……もう疲れたんですけど……」



 一時間後、真竜(マスタードラゴン)はどうにか命を取り止めた。

 ……ちっ。

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