第十九話 ていうか、クイズをくぐり抜けた先にあったモノは……!
『それでは最終問題! 史上最悪の呪われアイテムと言われた〝死神の大鎌〟……製作者は誰だ!』
「はい! ソレイユです!」
どばしゃあああん!
「ひやあああああああ……!」
『馬鹿者! 魔王様を呼び捨てにするなど不届き千万! 貴様のような輩は氷水風呂の刑なり!』
バクンッ!
自称守護神がそう言うと、エイミアの足元の床が開き。
「あれぇぇぇぇ……」
……エイミアが落ちていった。
「ちょっと! いくら何でも危害を加えるようなことはしないでよ! 一応私達はソレイユと友達で、呼び捨ての許可をもらってるんだから!」
『そ、そうなのか? しかし今回は神聖なる戦いの最中なり! 公式な場ではご遠慮願うなり!』
「……神聖な戦いとは思えないけど……。わかったわ」
『命にかかわるような責め苦を与えるつもりはないなり!』
『なり』をムリヤリ付けないでほしいんだけど……。
「……はいなり」
「リジーもムリヤリ『なり』を文末に付けるの止めて!」
「……なりはい」
「最初に付けるのも止めなさいっ!!」
「冗談冗談」
や、やべえ……一瞬リジーに殺意が……!
「それより、答えていい?」
『む? 構わぬぞ? どんどん答えるが良いな「ギロッ」……り……たくーこー』
……誤魔化すくらいなら、最初から言うなっつーの。
「〝繁茂〟」
『当たりな……りたさん! お見事な……りんぼーだんす! これでお前達の力は示されたな……りおでじゃねいろ!』
「だああああっ! 妙な誤魔化しするのなら、普通に『なり』を言え! 余計にうっとおしいわ!」
『そ、そうか……では最後の扉を開けるなりなりなりなりぐほぉ!』
「誰が『なり』を連呼しろって言ったのよ!? 普通にしゃべれっつってんのよ!」
『うぐぐ……私の普通は「なり」を十回言うなり……』
普通が普通じゃないのかよ!
「……なら一回で」
『はいなり』
……無しにできないのかな……。
自称守護神の言葉が映し出されていた画面が真っ二つに分かれ、観音開きで壁が動く。その先には、ずっと続く通路があった。
『この先にダンジョンコアがある。後はあなた方の好きにするが良いなり』
「……ていうか……私達、意地になって問題解いてたけど……ダンジョンコアに用があるんじゃなかったわ」
「あ、そういえばそうでしたね。私達は真竜に用事があるんでしたね」
『な、何ぃぃぃ!?』
「あんたにも一応聞いとくけど……ここに七冠の魔狼が来なかった?」
『……七冠の魔狼……だと……』
……? 様子が変ね。
「何か知ってるのかしら……?」
『お前達……どこで七冠の魔狼の名を?』
「どこでって……ソレイユからだけど?」
『……魔王様から?』
「ええ。リルやヴィーに私が見た夢の相談をしたら」
『夢だと!? お前が見たのか!』
「ええ。私、ちょっと縁があって三冠の魔狼からこれを……」
そう言って三冠の魔狼の刺青を見せる。
『そ、それは……暫し待て』
あれ? そういえば自称守護神の語尾に『なり』が付かなくなったわね……どうでもいいことだけど。
「な、何だ? 一体どういう話になってんだ?」
「私の夢の話を聞いたら、急に引っ込んだわね……」
「サーチ、その三冠の魔狼の刺青は、あまり他人には見せない方がいいと思います」
「え? そうなの?」
「七冠の魔狼の事もあるから、三冠の魔狼はあまり良く思われてない。サーチ姉が誤解される可能性もある」
……そう言われれば……確かにそうね。
「わかったわ、ヴィーとリジーの言う通りにしとく」
余計なトラブルは私だってイヤだしね。
……なんて会話をしていると。
『……待たせてすまぬ』
という言葉と共に、通路の奥から光の玉みたいなモノが現れた。
光の玉は高速で私達に迫り、徐々に形を変えてゆく。
『……今こそ名乗ろうぞ。私こそ……「「「「か、可愛い〜〜♪」」」」 な、何じゃ!?』
な、何なの、この愛らしい子は!? まるで動くこけしじゃん!
「おかっぱ頭が凄く似合ってますね。少しお化粧すれば更に……」
『うわっぷ!? 何をする! か、顔に白粉を塗るでない!』
「ちょっと眉が太いのが気になるな……。ちょっとだけ抜くと、もっと良くなるぜ……」
『痛! 痛い痛い! 何故眉毛を抜くのじゃ!』
「ふ〜ん、元々唇が赤いのね……ていうか何で歯が黒いのよ! 歯みがき歯みがき!」
『お歯黒を知らんのかワシャワシャワシャ! ぶ、ぶくぶくがしがしがし! や、止めい! 止めんかワシャワシャワシャ!』
「仕上げに、この簪。身に付けると、妙にイラッとする程度の不幸が続く……という曰く付きの簪。その名も〝不幸の簪〟」
『な、何を頭に付けよった? ……う、うぬ! ちょうど手の届かない箇所が痒い……! ぎゃあ、小指をぶつけた……! あ、小銭入れを落とした……! (中略) うぎゃあああ! 何なんじゃ、この絶妙な苛々感の連鎖はあああっ!?』
不幸の簪にさんざん泣かされたこけし娘は、地面に「の」の字を書いて拗ねていた。
『せっかく七冠の魔狼の事を教えてやろうと思うたのに……』
「すみませんでした。拗ねないで下さい、ね?」
『あ、頭を撫でるでない! 私は子供ではない!』
「うわ〜〜、この反応がまた……可愛いな〜おい!」
『だから……頭を……!』
「そう怒らないの! ほら、ギューッとしてあげるから! ギューッと!」
何かたまらない可愛さに負けた私は、思わず抱きしめてしまった。
『む、むぐ……おほ♪』
ん? 胸の谷間に顔がきたときの反応が……?
「……何だろ、変な違和感が……?」
……そういえば……あのクイズ対決のとき……。リルが椅子に腰かけたのを異様に喜んでたよね……。
うちのパーティの美尻No.1はリルだわ……。そして今のこいつの反応……まさか!?
「ねえ……」
『はむはむ……ん?』
はむはむって……何やってんのあんた!?
「……男?」
『うむ、そうじゃが』
どごっ!
『うごっ!』
めこっ! べきっ! どがあ! ごすっ!
『ぎゃ! や、止め……ぎゃああ!』
めきめきめき! ぐきぼきめきゃあ!
『だ、誰か助けてええ!!』
「「「………」」」
『こら! 見て見ぬ振りをするでない! ぎゃ、ぎいあああああああ!!』
その頃。
「は、は、はくし! ……ガタガタガタ……」
忘れられたエイミアは、一人で氷水風呂で震えていた。
「こ、こ、この恨み……末代まで痺れさせてやるぅ……!」
実際、自称守護神は黒焦げにされるんだけど……それは次回。