第十七話 ていうか、邪魔な氷のダンジョンは無事に撤去終了!
ビュウウウウウ……
翌日の朝。
全ての準備を終えた私達は、氷河の城壁の前にいた。
「……何て巨大なダンジョンなんだよ……規模だけなら、旋風の荒野を上回ってるじゃねえか……」
「例の本には、過去最大の大きさになってる……て書いてあったわ。しかもいまだに成長し続けてるってオマケつき……」
あまりにも大きくなりすぎて、グラツをも飲み込もうとしているのだ。
そして、地下水脈にまで影響を及ぼし……温泉を……温泉を!
「絶対に許さない……! 粉々のバッラバラにしてやる……!」
「何故かサーチが怖いんですけど……!」
「エイミア姉、サーチ姉が怖いのはいつもの事あきゃひいっ!!」
余計なお世話だっつーの!
「それじゃあヴィー。打ち合わせ通りにお願いね」
「わかりました。お任せ下さい」
ヴィーはニット帽を脱いで蛇を広げている。
「じゃあ皆! 一匹一本ずつ咥えて!」
「「「シャーシャ!」」」
あ、たぶん「イーヤ!」って言ってたわね。
「……寝てる間もニット帽を被りますよ?」
「「「シャシャシャ!」」」
たぶん「さーせんっ!」て言ってる。
かぷかぷかぷ
蛇達が一斉に筒を噛む。あの筒には引火性の液体が入っている。
「それじゃあ準備はいいわね……って、何をやってんのよ、エイミア?」
「ガクガクブルブル……へ、蛇がああ……」
……そういや忘れてたけど……エイミアって蛇が苦手なんだっけ。
「ていうか、ヴィーが加入してずいぶん経ったけど……今さらよね」
「ふ、普段の状態なら見えませんから……」
ヴィーの蛇は、普段は例の帽子で冬眠している。なので帽子を取らない、蛇は見えないだろう。
そう言えば、蛇達はお互いに絡み合って、融合することもできる。ヴィーの話だと、やろうと思えば蛇全部を融合させて、一匹の蛇にしちゃうことも可能だそうだ。まあ……頭から一匹のアナコンダが這えてるのを想像すればいいかと。
「頼むわよ、エイミア。あんたも作戦に参加してるんだからね?」
「は、はひ……」
……大丈夫かしら。
「じゃあヴィー! やっちゃってーーーーーっ!!」
「はい!」
ぶおん
ヴィーは筒を咥えたままの蛇を振り回し始める。
ぶおん! ぶおん! ぶおん!
……あ、歌舞伎の連獅子っぽい。
ぶおん! ぶおん! ぶんぶんぶんぶん!
勢いよーし! 風向きもバッチリ!
「ヴィー! 発射!!」
ヴィーの蛇が一斉に筒を離す!
ひゅううぅぅ……
がちゃあん! パリンパリン!
よっし! キレイに着弾!
「次! 全員炸裂弾を持った!?」
「「「いえっさー!」」」
……つっこむのは後にしよう。
「じゃあ……投げちゃえええっ!!」
びゅん! ぶんぶん!
「伏せて!」
全員が伏せた瞬間!
……ずどおおおおん!
爆発した!
「どう!?」
「……1/3くらい……崩れて溶け出してる」
「さ、作戦成功ーーーっ!」
バタッ
「え? バタッって……ヴィー!?」
私は倒れたヴィーに急いで駆け寄った。
「ヴィー! しっかりして! 一体どうしたのよ!」
「……目」
目?
「目が……回って……」
……ああ、なるほど。
あんだけ頭をぶん回したんだから……当然か。
しかも蛇の視覚は全て本体に直結してるんだから、目の回る量もハンパないわね……。
「ぐ、ぐるぐる〜……ぐるぐる〜……」
…………可愛いな、おい。
「おいサーチ、お姫様のお目覚めには、王子様の熱いキぶごへぇ!?」
「だからあんたは余計なことを言うなっつーの! ヴィーが回復したらもう一回いくわよ! それまでに準備しちゃうから手伝って!」
「「はーい」」
そして。
準備した焼夷弾と炸裂弾を、全て使い果たし。
ヴィーが完全にノックアウトした頃には、氷河の城壁の氷のダンジョンは、完全に粉々になった。あとはコツコツとリジーが残った氷を溶かしてくれた。お疲れさん。
「ぐ、ぐるぐる〜……」
「まだ治らないの?」
「はいい……ま、まだ蛇達の一部が……」
蛇がいっぱいいるぶん、目もいっぱいあるわけか。御愁傷様です。
「でも……あれだけの爆発があっても、この氷壁だけは崩れなかったわね……」
残ったのは、氷河の城壁の名前の由来ともなった、ダンジョンコア前の氷の壁。
「……エイミア、一発ドカンとやってみて」
「はい! ……≪充力≫! そして……≪鬼殺≫! えいやああああっ!」
がいいいんっ!
「んきゃああああ! 手が! 手がああ!」
あ、手首からポッキリいってる。
「びびびヴィー! ≪回復≫お願いしまあああす!」
「は、は、はいい……ぐるぐる〜……≪回復≫」
「ヴィー姉、それ≪聖火弾≫」
ボッ!
「あっつ! あちあちあちいいいっ!」
……何か面白いことになってるけど、とりあえず放置。
「こりゃあ相当な固さだな。正義の棍棒の一撃でも、ヒビ一つねえし……」
反対にエイミアの手首が折れるくらいだしねぇ……。
「魔術的な要素があるのかしら」
だけど専門家が絶不調だから調べようがないわね。
……適当に削ってみるか。
「≪偽物≫」
小さいハンマーを作って、壁を軽く叩いていく。
コンコン……コンコン……
奥に空洞はあるみたいね。だったら強度は大したことはないと思うんだけど……。
「……そういやサーチの銅のナイフも、壊れないんだったよな。それで叩いてみたらどうだ?」
あのナイフ? 確かに≪壊れず≫がかかってるから、まず壊れな……あ!
「そうよ! ≪壊れず≫よ! この氷の壁全体に、≪壊れず≫がかけてあるんだわ!」
「全体にか! ならエイミアの攻撃でもビクともしねぇわな……」
「こんなに広範囲にわたって≪壊れず≫をかけるなんて……相当な術者よね……ん?」
当然、このダンジョンを作ったのはソレイユよね……。
「ヴィー! ソレイユって≪壊れず≫使える?」
まだぐるぐるらしいヴィーだけど、一生懸命首をガクガクしていた。どうやら「使えます」と言いたいらしい。
じゃあソレイユは、ここを壊されることを想定してない……ってことよね?
なら旋風の荒野と同じかも。
コンコン
「失礼しまーす」
ギイイイィィィ……
「「あ、開いた……」」
ソレイユって……意外と礼儀にうるさいのね……。