表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
332/1883

第十二話 ていうか、最初から違う人が登場するんですけど……あっっという間に退場しちゃうんです。

 我が名は怪盗ヘヴン!

 強きを挫き、弱きを助ける義賊なり!

 我は今、村の年貢を誤魔化して、私腹を肥やしていた悪徳庄屋を懲らしめる為に、大量の金貨を盗んできたところだ!


「「「御用だ! 御用だ!」」」


 ふ……来たか、木っ端役人が。しかし我が神速に追いつけるモノなどいない!


「「御用だ! 御用だ!」」

「く……速い……!」

「誰か、追いつけないのか! また逃げられてしまうぞ!」

「ちくしょう……怪盗ヘヴンめ……!」


「わははははははは! さらばだ!」


 ふ……ふふふ……! 何人たりとも、我の速さには追いつけないのだ! 我が捕まる事など、絶対にあり得ないのだあああああっ!


「はははははははは……ん?」


 我に並走するように走る雪車がいるな。あれは……木っ端役人のモノではない。ほお……なかなかの粒揃いだな。さては我のファンが追いかけてきているのか……モテる義賊は辛いな……ふふ。


『あ、彼処にいます』

『距離的には……無問題』

『何故笑いながら逃げてるんでしょうか……』

『さっさと殺っちまえよ、サーチ』


 ……? 一体何を言っているのだ?


『いっくわよ〜〜……えいっ!』


 ぶうんっ!


 何か……投げたのか?


 ……ィィィイイイイン!!

 ずどむっ!


「ぶほおっ!!」


 ……此処で我の意識は暗転した……無念。



「どうも、ご協力ありがとうございました!」


 警備隊の皆さんがそろって敬礼した。


「いえいえ、私達の雪車に並走して走るヘンタイがいましたので、撃退しただけですから」


 ……急に林の中から現れて雪車に近づいてきたかと思うと……このヘンタイ、なんとヴィーに向かって下卑た視線を送ってきやがったのよ!


「やっと捕まえる事ができました。義賊と称して金持ちの家から金貨を盗むだけに飽き足らず、女性が入浴しているところを覗いていた疑いもありまして……」


「えっ!? こいつってまさか覗き魔(・・・)ヘヴン!?」


「そうです。よくご存知で………あの? 一応札付きの変態ですから、近づかない方が」

 どごおっ!

「んぎゃひぃぃぃぃっ!」


「ちょっと!? いきなり何を……」


「こんな女性の敵の遺伝子はね、ここで潰しておいたほうがいいのよっ!」

 げしげしげしっ!

「ぎゃあ! げひっ! ぐぼへぇ!」


「お、おい! 止めろ! 止めるんだ!」


「「「「殺っちゃえ殺っちゃえ! そらいけサーチ!」」」」


「あなた達も応援してないで止めてくださいよ!!」


 ごすごすごすっ!

「ぎえっ! ぐはあ! びゅえっ! お、おかあちゃあああああん!!」


「こら、止めろっての! う、うう……同じ男として頼む! 止めてあげてよおおおっ!」



 この日。

 一人の自称怪盗の覗き魔と、一人の男の遺伝子がこの世から消え去った……。



「……ちぇ。一応お訪ね者だったのに……これっぽっちしかくれないのか」


「サーチがやり過ぎたんだろが。ヘタしたら私達が捕まってたぞ」


「何よ。あんただって『もっと殺れ!』って煽ってたじゃないの!」


「うぐっ! そ、そりゃそうなんだけどさ……流石に『おかあちゃあああああん!』なんてのを聞くと、ちょっと可哀想で……」


「あ、そうだった! 私の左足が穢れてるんだったわ……ヴィー、ちょっと≪浄化≫(ピュリファイ)してくれない?」


「あ、はい。≪浄化≫(ピュリファイ)


「……私も変態に少し同情」


「……そうですね。蹴るだけ蹴られて、さらに穢れ扱いは……」


 な、何よ何よ!


「あんな女性の敵、あれでも軽い処罰よ!!」


「いや、いつぞやの筋肉ホテルで一生タダ働きでいいんだよ」

「百人のデブが詰まった空間に一週間監禁」

「十年以上洗ってない男性の下着を強制的に着用させるとか」


 ……あんた達のほうがよっぽどヒドいわよ……。


「……はい。終わりましたよ」


「あ、ありがとヴィー」


「いえいえ。私の為に怒ってくれたんですから……うふふ」


 ……そういうわけじゃないんだけど……ま、いいか。


「それよりも、見えてきたぜ。グラツが……」


 え!? ホントに……………んん?


「……ねえ、リル。私には雪山(・・)があるようにしか見えないんだけど……」


「……いんや、間違いねえ。地図の位置からしても、方角を考えても、あれがグラツだ」


 ……あれがっ!?


「……門どころか、教会の鐘すら見えませんね……」


「じゃあ……埋まってるという事でおk?」


「お、桶ですか? 多分埋まってると思いますが……?」


「リジー、マジメなヴィーにはその系のボケは通用しないわよ」


「ボケじゃない、大真面目に言った!」


 あら、そうなの? ごめんごめん。


「クンクン、クンクン……でも人の匂いはぷんぷんする。間違いなくあそこがグラツだ」


「硫黄の匂いはしない?」


「いおう?」


「んーとね……卵が腐ったような匂い」


「あー、よく火山で匂うヤツか……いや、しねえな」


 ……やっぱりグラツも温泉が渇れている?


「皆さん、そんな事を言ってる間に着きましたよ」


 ヴィーに声をかけられて見上げると。


「……やっぱ単なる雪山よね……」


「埋もれてるとしたら、町の中は全滅だよな……でも人の匂いはするんだよな……」


「とりあえず溶かすしかないわね。ヴィー、リジー。お願い」


「わかりました……≪聖火弾≫ホーリー・ファイアバレット!」

「さーいえっさー! ≪火炎放射≫(ファイアブレス)!」


 ヴィーとリジーの炎が雪山に炸裂する!


 ゴオオオオオオッ!

 じゅううぅぅ……


「……これだけの火力を集中してるのに……まだ建物が見えません」


「どれだけ積もってんのよ……ごめん、とりあえずストップね!」


 ≪偽物≫(イミテーション)でかんじきを作ってから、雪山の上へ飛び降りる。


 ドンッ


 ん? ドンッ?

 音がした部分に、≪偽物≫(イミテーション)で作った棒を突き刺す。


 こんこんっ


 硬い! この先は雪じゃないわ! 棒をスコップに作り変え、雪を掘り起こす。


「サーチ、何かあったんですか?」


「何か硬いモノがある! みんな手伝って!」


「「「はーい!」」」


 操縦を担当しているヴィーを残して、全員飛び降りる。それぞれが自分の武器を取り出して、軽く叩き始めた。


「お、何かあるな」

「石や屋根ではなく、ガラスっぽい手応え」


 あ、そうだ! ガラスを叩いてるような感触だ!

 けどこれだけの負荷がかかっても割れたりしないとなると……。


「ヴィー! これって魔術結界じゃない?」


「……そうだと思います。この辺り全体から、強い魔力を感じますので」


「なら一気に雪を散らしちゃいましょう! ≪充力≫(パワーチャージ)! からの……≪鬼殺≫(バーサーク)!!」


 え!? そこまでしなくても……!


 どっごおおおおん!!

 ブワアアアアッ!


 ス、スッゴい威力!

 衝撃だけで雪が完全に散ったわ……!


「あ……下が見えてきました!」


 やっぱり。

 もう雪を溶かすだけじゃ防ぎきれないから、町全体を結界で覆ったんだわ……!


「凄ーい! 足元に町があります! 人がいっぱい集まってますね」


「お、ホントだ! 何か空飛んでる気分だな! 全員見上げてるぜ!」


 ……あ。

 空飛んでるってことは……そういうことか。


「ヴィーは来ちゃダメよ。リジーとリルは問題ないわ。……エイミアは……手遅れだわ」


「へ!? 何で私だけ手遅れなんですか!」


「あんたとヴィーだけよ……スカートは(・・・・・)


 ヴィーは船の上だからセーフ。

 一方、エイミアの足元は透明。つまり……。


「い……いやあああああああああっ!」


 ……こうして、エイミアの名はグラツに知れ渡ることになった。



『『『……ピンクだ』』』


「見ないでぇぇぇっ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ