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第十一話 ていうか、温泉! 温泉! 温泉んんん!!

 次の日の宿。


「申し訳ありません、温泉が渇れてしまい……」


 ここも!?

 じゃあ次の旅館!


「ごめんなさいねえ、うちの温泉もなんだよ……」


 うっがあああああっ!


「何でどこもかしこも、温泉が渇れてるのよおおおおおっ!!」

「サーチ、落ち着いて下さい! まだ旅館はありますから!」

「そうだぜ! ここでリーダーのお前がとち狂ってる場合じゃねえだろ!」

「うっるっさあああああい! 温泉温泉おんせえええええんっ!」

「きゃあああ! サーチが巨大化したああ!」

「ぎゃあああ! サーチが口から火を吐いたあ!」


 ごおおおっ!

 ずしん! ずしん!

 

 逃げ惑う人々。

 街を焼き尽くす炎。

 そして……その向こう側で、止めに入る仲間やギルドの冒険者を物ともせず、暴れ狂うサーチ……。



「……っていうところで目が覚めたんですぅ……」


 …………。


「………ぶっ! ぎゃははははははははははは!! な、何だよそれ! あはははははははは、ケホケホ!! は、腹が痛い……! うひひひひひひ……」

 がしいっ! めきごきばきぃ!

「ぎいああああああ! ごめんなさいごめんなさいンニ゛ャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 こきっ

「……がくっ」


 ………。


「サ、サーチ? 何か目が怖いんですけど……?」


「……そんな夢を見られたら、誰だって機嫌も悪くなるわああああっ!!」


「え!? ちょっ、待ってくだんきいあああああああああっ!!」


 ……部屋の隅で、リジーがタンスを抱きしめながらブルってた。



「……落ち着きましたか? サーチ」


 そう言って紅茶の入ったカップを私に差し出すヴィー。


「あ、ありがと……」


 お礼を言って一口啜る。

 ていうか、甘あああい! ヴィーどんだけ砂糖入れてるのよ!? 自分用の紅茶を置くと、角砂糖を……一個、二個、三個……って多いな!? 一口飲んで首を捻って……ってまだ入れるの!?


「ん〜♪ 美味し……何ですか、サーチ? まるで珍獣を見るような目で?」


 ……イヤ、まさに珍獣を見てます……。



 朝ご飯のときの、エイミアの余計な一言から始まった惨劇。

 エイミアの関節をかなり(・・・)外した辺りで、ヴィーが止めに入ってくれたのだ。


「うう……骨が……関節があ……」

「……『こきっ』とか『ぐきぃ』とか鳴るんですよ……」


 当の二人はヴィーによって治療はされたけど、いまだに目が覚めない。どうやら二人の心の関節も外しちゃったらしい。


「サーチ、反省して下さいね」


 ……はい。


「サーチ姉!」


 そのとき、朝ご飯を食べてから外へ行っていたリジーが戻ってきた。


「大変! ちょっと外に来て!」


 リジーの様子に、ただならぬモノを感じ。


「……ヴィー、リルとエイミアを起こしといてもらえる?」

「わかりました」


 私はリジーに付いて、外へと向かった。

 ……そこは……「トンネルを抜けると、そこは雪国だった」ならぬ、「ドアを開けると、そこは雪壁だった」……って何それ。



「……一晩で降ったぁ!?」


 この雪の壁全部!?


氷河の城壁(アイスキャッスル)の近くに住んでいると、たま〜にある事でして」


 たま〜にある事が……私達が来たときに起きないでほしいな……。


「……これじゃあ、移動することもできないじゃない。まさか……暖かくなるまで待つしかないんですか!?」


「……いつもでしたら温泉を利用して溶かすんですが……」


 温泉で? うわあ、贅沢な除雪方法だ。


「それだけ温泉が豊富に湧いていたんです。まさか渇れてしまうなんて、夢にも思わなんだよ……」


 ……温泉で溶かす、か。


「……リジー、ちょっとお試しで≪火炎放射≫(ファイアブレス)お願い」


「……お試しって言われると何か嫌だけど……わかった」


 そういうとリジーは雪の壁に炎を放った。


 ごおおおっ!


 お、結構溶けるわね。

 けど……。


「……これじゃあ……ヌカに釘もいいとこよね……」


「一日中≪火炎放射≫(ファイアブレス)し続ければ、道くらいにはなるかも」


「……できる?」


「無理無理無理」


 ……だよね。


「スノードラゴン倒したときのエイミア姉みたいに、滑っていけば楽なのに」


 ……あ。


「……その手があったか」



「雪車ですか? たぶん道具屋に置いてありますが……」


 民宿の人に聞いてみたら村で売っているとのことなので、早速道具屋に向かう。≪偽物≫(イミテーション)でアルミ製のかんじきを作って雪道を走破。外で雪掻きをしていた道具屋の主人を捕まえ、雪車を売ってもらう。


「風で進むタイプなんてあるの?」


 犬が引っ張るヤツしか想像してなかった。


「この辺は年中風が強いからな。動物が引っ張るタイプよりも扱いやすいんだよ」


 何せエサがいらないからな……と笑っていた道具屋さんの言葉に納得し、風で進むタイプを購入した。

 道具屋さんの魔法の袋(マジックバッグ)から出てきた雪車を見た感想は「……ヨット?」だった。


「まあ原理は同じだからな。ただ風をうまく読めないと操縦は難しいが……大丈夫か?」


 無問題。私がいれば風を読むのはわけない。それに……私達には便利屋(ヴィー)がいるから。



「……これに乗っていくのですか?」


「海じゃないのに舟がある。変な感じ」


 早速ヴィー達を連れてきて、出発の準備を始める。


「食糧も物資もまだ余裕があるから大丈夫ね」


「少し灯り用の油が足りないかもしれませんね」


「リジー、たぶん民宿の人に言えばわけてくれるから、もらってきて」


「あいあいさー」


「リルとエイミアは?」


 ヴィーは半目になって私を睨む。


「まだ魘されてますよ。やり過ぎです」


 面目ない。


「なら仕方ないわね。私達だけで操船しましょ」


「風を捕らえて進むのですよね? スタートはどのように?」


「そうね。無風状態だとスタートもできないから、馬とかに引っ張ってもらうのが普通かな」


「馬……ですか」


 ヴィーが難しい顔をする。この村には馬はいないのだ。


「大丈夫よ。今回もヴィーにがんばってもらうんだから♪」


「頑張ってって……私が引っ張るんですか!?」


 違うわよ!



「……大丈夫、サーチ姉。スムーズに進んでる」


 OK。予定通りだわ。


「ヴィー、MPは問題ない?」


「はい、当分の間は。風を捕らえるまでは十分持ちます」


 そう。なら大丈夫か。


「聖術の風で進むとは……思いつきませんでした」


「……私はヴィーが引っ張るっていう発想はなかったわね……」


「そ、それは言わないで下さい……もう!」


 ヴィーが拗ねちゃった。いかんいかん。便利屋(ヴィー)にはもっとがんばってもらわないと……!


「サーチ!? 今何を考えてました!?」


 な、何でもありません…。


「サーチ姉。何でそんなに先を急ぐの?」


「リジー、それは愚問です。サーチの事ですから、温泉絡みに決まってるじゃないですか」


 ……よくおわかりで。

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