第十話 ていうか、スノードラゴンの素材でウハウハ! 一気に財政が潤ったのに……?
警戒しながらスノードラゴンに近づく。
「≪聖火の加護≫!」
ヴィーが念のために、私に対氷属性の聖術をかけてくれた。
「ありがと、ヴィー」
ふざけて投げキッスしたら、ヴィーが卒倒した。何でやねん。
「……あれだけ血を流してれば……死んでるとは思うけど……」
1m近くまで近づいて、≪偽物≫で作れる限界の長さの棒を作り、つつく。
ツンツン、ツンツン
ビクビク! グェア……
「わたたたた」
ズザザザザ!
「どうしたんですか、サーチ!?」
「な、何でもない! 大丈夫大丈夫!」
まだ生きてたのね……! ていうか、スゴい生命力。
「……口から短槍をぶち込まれて、身体を串刺しにする感じで貫通したってのに……」
敵ながらあっぱれ。手を合わせてから、長い針でドラゴンの頭を突き通した。
これで死ななかったらゾンビよね……あ、瞳孔が開いてる。
「……OK! 間違いなく死んだわ! 全員来てもいいわよー!」
「本当に!? やりましたねわぶっ!」
エイミアが歓声をあげながら走ってきて……コケた。
ツツゥゥー……
そのままキレイに滑ってきて……私の前で止まった。
「……サーチぃ……痛くて冷たいです……」
「……エイミア、わざと? ウケ狙い?」
「わ、わざとじゃないですよ〜……びええええっ」
……あんたの場合は、わざとじゃなくても笑いをとれるしね……。
次にやってきたヴィーが、必死に笑いを堪えながらエイミアの擦り傷を治療していたのが、また笑えてしょうがなかった。
「リル、あんたの新技は確実に私達の中では、一番の破壊力よ」
「お、おう! これもダンジョンでサーチに相談にのってもらったおかげだ!」
以前の長〜いダンジョンの旅館で、私はリルから「≪獣化≫してから≪全身弓術≫をしたらどうだろう?」と相談をされたのだ。
だから「足を弓代わりにする感じで、両手で弦を引っ張ればスゴい威力になるんじゃない?」とアドバイスしたのだ。その後、矢を短槍に替えたりしてアレンジを加え、少し前に完成に至ったのだ。
「なるほど、それで最近はスパッツを履いていたのですね」
……両足を使って弓代わり……ということは、大股開きになるわけで……。
最初に私の前で披露したとき、私がつい「おぅふ。大胆な紫」と呟いたのがしっかり聞こえてしまい……リルはスカートの下にスパッツを履くようになった。ちえ。
「……とりあえず解体する? ドラゴンの素材だから、高く売れると思われ」
そ、そうだわ!
「こ、これで財政問題は一気に解決よ! 素材は当然高額で売れるし、討伐証明部位を持っていけばギルドからも報奨金がもらえるし……! うふ、うふふ……あはははははははは!!」
「おーし、さっさと解体始めるぞー」
「はーい。私は尻尾からいきまーす」
「私は爪を集める」
「私は角をやります……あ、サーチ。笑い終わったら頭をお願いしますね」
「ははは……へ? ……は、はい」
何げに、一番難しい頭を私にまわしたわね……。
それから三時間ほどかけて解体を行い、相当量のドラゴンの素材が手に入った。
流石にドラゴンの臭いがプンプンしてるような場所に、モンスターが寄ってくるわけもなく……平和な時間が過ぎていった。
「うわ〜、血でベトベト……すぐにでも風呂に入りたいわ……」
「まったくだな。ま、あと少しで小さい村があるから、そこで宿を探そうぜ」
「そんな小さな村に温泉があるんでしょうか?」
「ある。この辺りはどこを掘っても湧くって言われるくらい、温泉が豊富な場所」
「多分ですが近くに火山があるのでしょうね。火山の麓には、よく温泉が湧く……と聞いた事があります」
相変わらずいろんなことを知ってるわね……。
「その村へ向かいましょう。宿がなくても廃屋の一つくらい借りられれば、ずいぶんと楽だしね」
風呂に関してはヴィーに頑張ってもらえば何とかなるし。何せ雪は大量にあるのだ。水には事欠かない。
「……ちっ。なかなか簡単には行かせてくれそうにないな。敵だ」
「何がいるかわかる?」
「クンクン……たぶん狼だな。二三十匹くらいいるかな」
え〜……めんどくさいな。単なる狼だから経験値はもらえないし、多いから厄介だし……。
周辺を見渡す。少し離れた丘に雪の吹きだまりを見つけた。
「よし、あれを有効活用しよう」
炎熱石を利用して作った炸裂弾を取り出す。あの鬼才道具屋が作った簡易護符をヒントに、私が作ったのだ。えへん。
「全員下がっててよ〜……ちぇいっ!」
さっき見つけた吹きだまりに向かって投げる。
ひゅ〜〜ん……ぼふっ
よし! ナイスな場所にジャストミート!
「三……二……一……」
……どおおおん……
……ドドドドドドドドドドドドッ!!
「あ、雪崩が……」
ドドドドドド!!
あお〜〜ん……
きゃぅぅん……
ギャンギャンギャイーン……
「……よし、一掃できたわね」
「「「「…………」」」」
「……何よ、全員黙りこくって」
「……イヤな、つくづくサーチは血も涙もないヤツだな〜、と思って……」
なっ!?
「どういう意味よ!?」
「どういう意味も何も、そのまんまじゃねえか。正面切って戦ってもらえずに、雪崩に巻き込まれて死亡って……狼が不憫すぎる……」
全員がそろって頷く。エイミアなんかちょっぴり涙してるし。
「……ヴィーまで?」
「あ、え!? そ、その……深い意味は……」
「ああ、そうなんだ……ヴィーまで……ヴィーまで……」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私はやっぱりサーチに味方します!」
「はいはい、ありがと。じゃあ先に進むわよー」
「「「は〜い」」」
「え? ………み、皆グルなんですね!? 私をからかったんですね!? ちょっと! 答えて下さいよ!! ねえってば!」
……全員必死に笑いを堪えていた。
どうにか夕方には村に到着し、一軒しかない民宿に宿泊できた。
……ただ……。
「へ!? お、温泉がないっっ!?」
「すんませんなあ……。最近何故か、とんと湧かなくなっちまって……」
そ、そんな……。
「な、何で急に……?」
「それがねえ……氷河の城壁が急にデカくなってきてから」
「ア……氷河の城壁が原因だとおおおっ!?」
私はヴィーとリジーに、キッ! と視線を送る。
「今から出陣よ! 氷河の城壁を完膚なきまでに溶かしてやる!!」
「サーチ、流石にそれは……」
「一晩どころか一ヶ月くらい添い寝してあげるから!」
「リジー、行きますよ!」
「ヴィー姉!?」
「さあ、氷河の城壁に行って、生きて活きてイキまくりますよ! でも逝っては駄目です、氷を煎ってやりましょう!」
「ヴィー姉が壊れた!?」
一時間くらいで諦めました……。
だけど氷河の城壁許すまじ……!