第五話 ていうか、ドラゴンキラー?
「はあはあはあ……」
「はあはあはあ……」
「はあはあはあ……」
……逃げきれた……かな?
「はあはあ……もう……大丈夫……ですよね?」
「はあはあ……疑問系で……言わないで……」
「はあはあ……おい、現在進行形だぞ」
そう言ってリルが指差す先に。
でっかい目があった。
この状態を繰り返すこと、すでに三回。私もずいぶん『体力』が上がったんだなー、と実感する。
リルは……。
「だー、しつこい! いつまで追ってくるんだよ!」
……さすが獣人。『体力』は高いわねー。
エイミアは……。
「はひー、はひー……ひゅーひゅー……」
わ! 何か死にかかってない!?
「ひゅ……ふー、ひー。はあはあ……はあ〜、疲れました……」
……さすがエイミア。ケタ違いの回復力。このメンツだと……私って最弱になりえるのね。努力と≪前世の記憶≫に感謝、感謝。
「うわ! また見つかった!」
「はあはあ……サ、サーチ! 後ろがすっごく静かなる雷でワサワサします!」
ワサワサがわかんないけど、たぶんドラゴンがブレスを吐こうとしてるのね。
「右に回避ー!」
全員右側に飛ぶ。
……。
……。
……何も起きないじゃない!
「エイミア! 何よワサワサって!」
走りながらエイミアは小首を傾げる。器用なことするわねー。
「……何でしょ?」
「あのねー……」
すると。
爆風がエイミアを吹き飛ばした。
「きゃーーっ!」
「何! ブレス!?」
後ろを見るとドラゴンが鼻水を垂らしていた。手? 前足? で鼻をモゾモゾしている。これは……。
「……くしゃみね」
「……くしゃみだな」
いまのうちに距離を稼ごう。そう思って走りだすと。
「ひ〜ん。酷い目に遭いました……なんかベトベトする〜……」
……ベトベト?
エイミアを見ると……。
…………。
リルと視線があう。
「鼻水ね……」
「鼻水だな……」
「……え、えぇぇ!?」
エイミアがムンクの叫びになる。うーん……慰めの言葉が浮かばない。
すると。
「エイミアよかったな! ドラゴンは貴重な素材の塊だから鼻水でも高値になるぞ!」
リルが叫んだ。
そうなの!? ……でもなんかヤダなあ……鼻水から何ができるのかしら……?
エイミアはきょとんとしながらも少し持ち直した。
「ちょっとリル。ドラゴンの鼻水が素材になるなんて聞いたことがないんだけど?」
「いや、さすがに鼻水が素材になることはないだろ」
リルが苦笑い。
「……知らないわよ」
「仕方ないだろ。エイミアが気落ちしてペースが遅くなるよりはマシだろ」
そうだけどさ……。
それ以前の問題なのよ。
「……横、見なさい」
リルは私の反対側をみる。
「……げっ!」
そこには半泣きで睨みながら走るエイミアがいた。……聞こえてた見たいね。
「リルぅ……後でヒドイんだからね!」
リル……成仏しなよ。
「てめ! 両手あわせるんじゃねえ!」
……それより! 後ろのアレ何とかしないと!
「冷静に考えるわよ!」
「必死に走りながら言われてもなあ……っつっても何とかしないとな!」
まずは攻撃手段の確認。
最初にリル。私が知る限りは格闘術と弓術。格闘術は間違いなく通用しないから……残るは≪身体弓術≫というリルのスキルか。
そしてエイミア。やはり≪蓄電池≫ね。いくらドラゴンに耐性があるとはいえ、ダメージがないわけではない。威力を上げればあるいは……。
あと私。“不殺の黒剣”は問題外。となると≪偽物≫で作る針……くらいか。ドラゴンに通じるかはわからないけど……。
……うーん……。
「リル。あなたの≪身体弓術≫ってドラゴンにダメージ与えられる?」
リルは少し考えこむ。
「……時間がかかる。それなりに準備できれば……」
……よし。なら……!
「リル、エイミア。私が時間を稼ぐからその間に準備して」
「え? 準備!?」
「エイミアは最大威力の≪蓄電池≫をドラゴンに当てて。上手くいけばドラゴンに『痺れ』の効果がでる」
「その間に……私の≪身体弓術≫をぶちこめってか……? 相当無茶だが……それしかないか」
「そういうこと。じゃあ、頼んだわよ!」
そう言って私はドラゴンに斬りかかった。
「おい……」
ゴシゴシゴシゴシ
「何ですか?」
ゴシゴシゴシゴシ
「……ほんとに……こんなことやるだけで雷が溜まるのか?」
ゴシゴシゴシゴシ
「そうです。布等を擦り合わせる際に起きる静かなる雷。それが私の≪蓄電池≫の源です」
ゴシゴシゴシゴシ
「……わかったけど……」
ゴシゴシゴシゴシ
「……なんだかなあ……」
「はあっ!」
サクッ
ちっ! やっぱり傷もつかないか!
ゴオウッ
私が居た場所をドラゴンの尻尾が薙ぎ払う。はは……直撃したら一発で死ねるわね。
ブウンッ
危な! 今度は爪か。
『素早さ』極振りじゃなければ今ので殺られてた。
「これでもくらえ!」
今度は≪偽物≫で作った長針をドラゴンの手? に突きたてる!
ズブッ
ドラゴンが聞こえない悲鳴をあげる。
「貫通した!」
そのまま地面に縫いつける!
「エイミア、今よ!」
静電気を全身に纏ったエイミアに叫ぶ。
「でも……! サーチが……!」
「構わないわ!『俺ごと刈れ!』よ!」
一瞬「は?」という反応をしたエイミア。でもリルに何か言われ。
「……ごめんなさい!」
涙ぐみながらエイミアは溜めに溜めた静電気を放つ!
強大な静電気が。
「きゃああああああああっ!」
……私ごと絡めとる!