第九話 ていうか、雪だ雪だあああ!
「いやっほおおういっ!! 寒くない! 寒くないわよおおおっ!」
鬼才道具屋で簡易護符を買ったあと、私達はすぐに出発した。
一週間ほど乗合馬車に揺られてたどり着いた場所は……。
「ゆ、雪だあああっ!」
こっちの世界で初めて見る雪だった。
「うわあ、すごいです! 初めて見ました……ひゃ」
エイミアは雪を触ってみて、あまりの冷たさに手を引っ込め。
「雪弾、それそれそれ」
「おま、ちょっと待っぶっ! リジー、不意討ちは卑怯だぶほっ」
早速雪玉を大量に作ったリジーは、寒さにブルっていたリルを標的にする。
「雪連射、それそれそれ〜ぶふぁっ!?」
「リジー、≪聖雪弾≫というからには、これくらいの威力は必要ですよ」
リジーが冗談で叫んでいた「雪弾」を、≪聖雪弾≫と勘違いしたヴィーがマジメな威力でリジーに撃ち込んでいた。
で、私はというと……ビキニアーマーで肌を晒しまくっているのに、まったく寒くない! ……という夢のような状態に歓喜して、バク転やら、側転やら、ムーンサルトやら、モリスエやら、シライやらを連続で決めていた。
しばらくはしゃいでから、「しまった! 今までのイタいシーン、全部馬車の乗客に見られてた!」という事実に気づき、急いで振り返ると。
「「「おお〜〜〜!! パチパチパチパチ」」」
……すっかり観客と化した馬車の乗客が、盛大な声援と拍手を送ってくれた。どうやらサーカスか何かだと勘違いされたらしく、結構な量のおひねりをいただきました。あざっす。
「ほらほら、お嬢さんにもやるよ! がんばりなよ!」
「え? え?」
……なぜかおひねり獲得数No.1を記録したのが、エイミアだったことが腑に落ちない。座って雪をすくってただけよ? あの娘……。
「……寒くはないですけど……一応外套か何かは羽織りませんか? 流石に薄着でウロウロするのは目立ちます」
ヴィーの提案で、一応防寒着を着ることにした。
とはいえ外套一枚上に引っ掛けてれば、それらしくは見えるので問題ない。あとはマフラーやら手袋やらの小物で誤魔化せば……。
「……うん。大丈夫ですね」
ヴィーの審査を無事にパスし、私達は再び歩き始めた。
が……。
「……あ、暑い!」
「汗でベタベタです……」
「身体から湯気が……」
「ベトベトして気持ち悪い……」
「……人目が気にならない場所は、脱ぎましょうか……」
簡易護符の効果は、思いの外絶大だった。
これじゃあ、真夏に冬服を着て歩いてるようなモノよ……。
「そうね、こんなことで体力消耗してたら意味がないわ。みんな、脱いじゃいましょ」
「……ヴィー姉が羨ましい。身体が汚れても脱皮しちゃえば綺麗になるぶきゃっ!!」
「脱皮なんてできませんっ!!」
……ヴィーのメガトン級のつっこみによって、リジーは数時間引き摺られての移動となった。
「雪の上は歩き難いですね……」
「這って進めばうぶぉっ!?」
「這って進んだりなんかできませんっ!!」
雪の道をザクザクと進みながら、ヴィーとリジーのコントが開催される。
命懸けでボケをがんばるリジーと、ただただ巻き込まれてるだけのヴィー。回数が増すごとにつっこみが激しくなっていく。
「……リジー、あんたいい加減にしないと……頭砕かれるわよ? うわっと!」
「砕けませんっ!」
「あんたのフルパワーなら間違いなく砕けるわよ! ていうか、私にまでつっこみ入れなくていいから!」
危ない……! あと数㎝右側だったら、私の頭がバーンだったわよ!
「そこまで激しい突っ込みはしてませんよ!」
「いや、十分に激しいぜ? 向こう側の林の雪、全部落ちたぞ」
……あ、ホントだ。
「ていうか……それだけの威力のつっこみを受けて、よく無事だったわね、リジー……」
「ですから! 私の突っ込みが原因で、雪が落ちたわけじゃありませんから!」
「でもタイミングばっちりだったじゃない?」
「違います! 上空を旋回しているスノードラゴンの影響です!」
「あ、そうなの? ていうか、スノードラゴンとは珍しいわね……………はあっ!? スノードラゴン!?」
「あ、今度はサーチ姉の一人ボケつっこみで雪が落ちた」
違うっ!
「スノードラゴンの魔力に反応して落ちてんのよ! 全員隠れるわよ!」
スノードラゴン相手なんて冗談じゃない!
「……つーかよ。まっすぐ向かってきてねえか?」
……へ?
……キイイイン……
「……どう見ても私達が標的みたいね……」
ドラゴンに標的にされた以上、逃げるのはムリか……!
「全員、戦闘準備! 簡易護符の出力を最大にして!」
ヴィーとリジーに視線を移す。
「二人は火系の攻撃に専念! スノードラゴンを倒すんじゃなくて、近寄らせないことに集中して!」
「わかりました!」
「りょーかい」
「エイミアと私は前衛! とにかくリルを守り抜くわ!」
「リルを……?」
「……私の一撃でカタをつけるつもりか?」
「……たぶん……今の私達には、これが最善の策だと思う」
リルは無限の小箱から、竜のヒゲと短槍を取り出す。
「仕方ねえ……私の新技、試すとするか」
……ドラゴンの羽音が近づいてきた。
私はリジーに手信号で「スタンバイ!」とサインを送る。
リジーはそれに応えて頷き、ヴィーに声をかけた。
片手をあげたままエイミアを見る。≪電糸網≫を広げたエイミアは、目を閉じて集中。
……………エイミアが私を見て頷く! 今だ!
私はあげていた手を振り下ろす!
「≪聖火球≫!!」
「≪火炎放射≫!」
ごおおおおっ!
グェアアアアアア!?
タイミングばっちりで火系の攻撃をされたスノードラゴンは、面食らって減速した。
「今よエイミア!」
「はいっ!」
その隙を狙って私とエイミアが斬りかかった。
「まだ未完成だけど……秘剣竹蜻蛉!」
「≪充力≫からの……≪鬼殺≫!」
お互いの最大の攻撃を、スノードラゴンの両翼に叩き込む!
ずばんっ! ガシャアッ!
グアアアア!!
見事にスノードラゴンの翼を叩き落とした! ガラスのように粉々に割れる! そのままスノードラゴンは地面に落ちて転がった……チャンスよ、リル!
「……ぅぅぅぐおおおっ! アニャアアアア!!」
≪獣化≫したリルは、両足に竜のヒゲを括りつけている。両足を弓として、竜のヒゲを弦として。リルの≪全身弓術≫と≪獣化≫が相乗効果を生んで……。
「……っくらええっ!」
バシュンッ!
………ィィィイイイズドムッ!!
グガ! ガ……ッ……
ズズン……
一撃でドラゴンを葬った。