第七話 ていうか……ヴィー……あんた、ついにやってくれたわね……!
『……もっしもーし……』
………くぅ。
『起きなさいよ〜……』
………くぅ。
『あと五秒で起きないと、強制的にビリビリいっちゃいまーす』
………くぅ。
『……五……四……三……』
………ううん……。
『あ、起きたかな?』
………くぅ。
『…………中略どーーん』
バリバリバリずどおおおんっ!!
「んきゃああああああああああっ!!」
朝……滅多にできない朝寝を、うつらうつらと楽しんでいると。
「……痛いし熱いし痺れるし……何て起こし方をしてくれんのよ……」
……ソレイユの≪聖電弾≫が降ってきた。
『サーチがそれを言うかな!? 昨日のうちに連絡するように頼んだじゃないの!』
…………忘れてた。
『やっぱり忘れてたんだ……それよりも! 魔王様の前にその格好で出てくるなんて、不届き者じゃないかしらー!!』
その格好……?
「……私が寝るときは素っ裸だってことくらい、かなり前にわかってたと思ってたんだけど……」
『わかってたわよ! だけどね、親しき仲にも礼儀有りだよ! さっさと服を着なさい!!』
はいはい……あんまり口やかましいと小ジワが増えるわよ。
『……サーチ……熱いか、冷たいか、もう一回痺れるか。どれがいい?』
どれもイヤです。ごめんなさい。
これ以上怒らせると本気で三つのどれかをされそうなので、脱ぎ捨ててあったビキニアーマーを手探りで……あれ?
ふにっ
? ……何、この感触は?
ふにっふにっ
……柔らかい……?
恐る恐る掛布をめくってみる。すると。
「……何だ、おっぱいか……どうりで柔らかいわけね。でも大きさといい、形といい、羨ましい限り……っておっぱい!?」
何で私の布団の中に!? パニクりながらも掛布を一気にはぐる。
すると、そこには。
「んん……サーチィ……」
「……何であんたがここにいるのよ……」
ヴィーがいた。
「……そういえば、ヴィーは蛇並みに全身軟らかかったわね……」
縄抜けなんか朝飯前なわけだ。
『どうしたのサーチ? 何かあったの〜?』
ソレイユが見えるように、念話水晶をヴィーの方に向けてやる。
『え!? へヴィーナ!? ……もしかして……お酒飲んだのかな?』
「そう。結構な量を」
『なーる……そういえばアタシもベッドに潜りこまれたわ……』
……ヴィーの酒癖の悪さは昔っからか。
「ヴィー、起きなさいよ。ソレイユが見てるわよ」
『ま、寝てるんだからいいじゃない。そっとしときなさいよ』
そうね。昨日は忙しかったし……ヴィーだけ。
『それよりサーチ、あんたその全身の痣はどうしたの?』
アザ?
「どこに……ってホントだ。いつの間に……?」
『そういえば新必殺技の訓練をしてるんでしょ? それが原因じゃないの?』
……いや、昨日はアザができるほど激しくは……?
『……やたらと胸に痣が多いわね……』
胸に? ……あ、ホントだ。
『それと……首筋にもいっぱい……』
!? 胸に首筋って……まさか!?
『サーチ……ヴィーとはそういう仲だったの……』
違ぇよ。
「ていうかソレイユ、あんたの首筋もアザだらけよ?」
『え……! あ、あいつ! あれだけ気を付けてって言ったのに……!』
「……何を気をつけろって言ったのかしら?」
『え? キスマ……』
「キスマ……ねぇ……」
こういう話が苦手なソレイユは、あっという間に赤面し……。
ぼふんっ!!
……噴火して。
ぷつん……
通信が切れた。
「ていうか、ホントに噴火するような音が聞こえたんだけど……?」
大丈夫……よね?
「魔王様、判子を頂きたいのですが……魔王様? どうなさいました?」
「な、何でもない。早く書類置いて、部屋から出なさい」
「え? でも凄く赤くなっていますが。それに首筋にポツポツと痣が」
「出ていけって言ってるだろがあああああっ!」
ズッゴオオオン!!
「ぎいいあああああああああああっ!!」
……しばらくデュラハーンの頭が行方不明になったそうです……。
「ていうかマジで起きなさいよ!!」
「………くぅ」
≪偽物≫でミスリルを〜。
「嫌あああああ!! ミスリルが、ミスリルがあああっ! ……って、あれ?」
まだ作ってなかったのに……よくわかったわね。
「あ、サーチ。おはようございます」
「はいおはよう。さあて、ヴィー。この状況を説明してもらいたいんだけど?」
ヴィーは頭上に「?」を浮かべて、首を傾げた。
「……何がですか?」
やっぱり記憶とんでるしぃぃっ! 脱ぎ散らかされたヴィーの服や、私の胸や首にできたアザを指差した。
「え……! え……!」
ヴィーはそれらの証拠を突きつけられ、自分が何をしたのか察したのだろう。
「〜〜〜〜っ!!」
さっきのソレイユ並みに赤くなっていった。
そして、布団にくるまって頭だけ出すと、こう言った。
「わ、私だったから良かったんですが……このような事は相手の了承を得た上ですべきかと」
……直後にヴィーの頭にミスリルハンマーが振り下ろされた。
あんたが実行犯よ!!
「……………なあ」
朝ご飯。
静かな食事風景。
その静寂に耐えられなくなったリルが、私に話しかけてきた。
「……何?」
「何でヴィーの頭に、でっけえたんこぶができてるんだ?」
……触れるなっての。
「聞かないで下さい。私の多大な勘違いですので……」
「……ヴィー。もう怒ってないからさ、≪回復≫しなさいよ」
「いえ、駄目です! 私はサーチを疑ってしまうという、とんでもない過ちを……!」
……過ちには過ちなんだけど……そこまで自分を責めなくても……。
「私が私を許せるまでは、私はたんこぶを治しません!」
……さいですか。
「ていうか、私のアザを治さないのは何で?」
「……サーチがミスリルハンマーで殴ったからです。ミスリルは私達モンスターの術を、一時的に封印する効果があるんです」
あ、そうなんだ。
「それより。魔王様からの連絡は何だったの?」
リジーからの疑問。まあもっともな疑問よね。
「七冠の魔狼の最新情報よ」
「七冠の魔狼の!?」
「ええ……すでに堕つる滝、闇深き森、獄炎谷に七冠の魔狼が現れたっていう情報」
「え!? もうすでに三ヶ所!?」
「こちらの大陸にある〝八つの絶望〟はあと三つ。つまり……」
「……私達が向かっている氷河の城壁にも……現れる可能性が高い、と?」
そうなるわね。