第六話 ていうか、今度は純和風の民宿!
熱血館を早々にチェックアウトした私達は、近くにあった民宿に移った。
まるで江戸時代の武家屋敷を再現したかのような内装は、私にとっては「ドンピシャ!」だった。
初めて見るであろう他の四人は、見慣れない様式に戸惑いつつも、興味津々のようだ。
「サーチ、この四角く囲ってあるのは何ですか?」
「囲炉裏よ。その真ん中に炭を入れて火を……ちょっと!」
「あっちいいいっ!」
「……だから火を起こすって言ってる最中だったのに……」
火傷した指をヴィーに治してもらっている。どうやら、砂か何かだと思ったみたいね。
「おい、何だこれ!? 戸に紙が貼ってあるぞ!」
「ん? ああ、それは障子。破っちゃダメ『ぱすんっ!』……って言ってる間にもう!?」
「わ、わりぃ……『ぱすんっ!』……ニャ」
また穴を……ってリル?
「ニャ! ニャ! ……アニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャ!!」
ぱすんっ! ぱすんっ! びりびりびり! ぶすぶすぶすぶすーっ!!
「こらああああああっ!! あんた何をしてくれてんのよ!!」
「つ、爪研ぎニャ! 爪研ぎだニャアアアア!」
「爪なんか研いでいいわけないでしょおおっ!!」
「に゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! ギブニャギブニャギブーー!!」
お仕置きのアナコンダバイスに悶絶するリル。タップするけど無視。
その間にヴィーが≪修復≫で破れた障子紙を直してくれた。
「サーチ姉、これ何?」
「今度はリジーなの? それは般若の面よ。道成寺で使うヤツ……って被っちゃダメだって!」
「え? 別に呪われてない」
そういう問題じゃない!
「その面は……たぶん……超貴重品だから、丁寧に扱いなさ『ぱきっ』あああっ!? あんた何てことををををを!?」
真っ二つにしやがったよ、このバカ!
「サーチ、落ち着いて下さい。私が≪修復≫で直しておきますから」
「あ、あ、ありがとうううっ!!」
ひしっ
「きゃあ!? サササーチ!?」
あ、しまった。
つい嬉しくて、修復中のヴィーをハグしちゃった。
「そそそんな、こんな真っ昼間から……で、でもサーチが望むなら私……」
「……もしもし、ヴィーさん? あんた何を口走ってるのかな?」
「え!? すすすいませんんん!」
メキャ! バラバラ……
「……あ」
め……面があああああ!? 般若の面が粉々にいいいいい!!
「……それは私は悪くないかと……『がしぃ』ごめんなさい! ごめんなさむきゃああああああ! ぎぶぎぶぎぶぎぶみーちょこれいとおおお!」
私がお仕置きの卍固めをリジーにかけてる間に、ヴィーが謝りに行ってくれた。結局、大したモノではなかったらしく、少額の弁償で許してもらえた……良かったあ……。
「……お詫びに私の秘蔵の面を」
「ダメダメ!! それって〝肉付きの面〟でしょ!?」
肉付きの面は、超ド級の呪われアイテムだ。そんなヤバいモノ渡すなっつーの!
(注! 実在します。知りたい方は「肉付きの面」で検索を)
「……結局ヴィーにお世話になりっぱなしだったわね……はい」
「あ、ありがとうございます……おっとと」
夜。
私とヴィーは、外の居酒屋で夕ご飯兼一杯を楽しんでいる。
以前に「二人っきりで飲もう」と言ってたヤツを今日にしたのだ。
「でも良かったのですか? 皆を置いてきてしまいましたけど……」
「いいのよ。エイミア以外は」
リルとリジーは、罰として旅館で半日正座の刑を執行中。エイミアは「見張りますので。お二人でごゆっくり」……とのこと。ただ、なぜか殺気を感じたのは気のせいかな?
「……エイミアには恩返しをしないといけませんね」
「そうね。お土産に折り詰めでも……」
「でもエイミアとサーチを二人っきりにするのは……ああ、悩ましい……!」
「……ヴィー? ちょっと?」
「へ……? あ、何でもありません……グイ」
ちょっと……またハイペースで飲むと……。
「……サーチ……」
て、言ってるそばから目が据わってるし!
「あ、一杯どうぞ」
「え? あ、ありがと」
酔ってないのかな……?
んん? ……何これ。
「ちょっとヴィー。何でこのお酒、ピンク色なのかしら?」
「え〜? おかしいですね〜?」
……あんた、何か混ぜたわね……そのお酒を捨てようとすると。
「あ……ああ……」
めっちゃ残念そうにするヴィー。何を期待してたのよ……。
「じゃあ、あんたが飲みなさいよ」
「え……い、いえ。結構です」
……はは〜ん……。
「媚薬か」
「ひうっ!?」
ビンゴみたいね。
ていうか単純……ていうかバレバレ。
「……ヴィーが私を騙すには十年早いわね」
「そうみたいですね……」
……ひっかかった。
「なるほど。私を騙そうとしてたのは確かなのね」
「えっ!? し、しまった……」
ホントにウソがつけない娘ね。
「まあそんなヴィーだから、私は一番信頼してるんだけどね……はい一杯どうぞ」
「え!? えええ!? 一番愛してくれてるんですか!?」
「どうやったらそう聞こえるのかな!?」
「信頼……それは愛と同等の尊き感情……」
「……さいですか……ていうか飲め」
「ありがとうございます……グイ」
あ、飲んだ。
「あれ? 妙に甘い……ま、まさか!?」
「そう。まさか」
私は空のコップを見せた。そう、ヴィーが私に飲ませようとしてたヤツ。
「ま、まずいです! 非常に……あ……あ……」
そんなに効くのかしら?
「……きゅぅ……」
ぱたん
あ、テーブルに突っ伏した。
やれやれ……≪毒生成≫で作った眠り薬、ヴィーに効いたか。
「ヴィーは毒に耐性があるから、アルコールを絡めないとダメだったわ……」
ヴィーの肩に上着をかけてやった。
「さてと……人のプライベートをコソコソと探って楽しいのかしら? さっさと出ておいで」
私の斜め後ろに座っていたグループが全員、ビクリと反応した。
「エイミア。しっかりと見張ってるんじゃなかったの?」
「ワ、ワタシ、ムズカシイコトバワカラナイ」
「バレバレだっつーの! いい加減にしないと、朝ご飯に太る毒を仕込むぞ」
「すいませんでしたああ!」
「たく……リルとリジーはどうなの?」
「ワ、ワタシ、リルジャナイヨ、リリーダヨ」
「コ、コムギコカナニカダ」
「……二人とも正座の刑、六時間追加で」
「すすすいませんでした!」
「コムギコジャナイヨ、ハクリキコ」
「リジー……剥くわよ」
「くぅ……参った」
「参ったじゃないわよ! 何をコソコソしてるのかって聞いてるの!」
「あ、そうでした! さっきソレイユから、念話があったんです! それで早く知らせた方が良いと思って……」
「ソレイユから? 何だろ……ていうか、何でコソコソしてたの?」
「は、はい……どうせならサーチとヴィーのデートを覗こうって、二人が……」
「……ふーん……」
「いや、私じゃなくてリジーが……」
「ワタシ、ダマサレタノヨ!」
「……二人とも! 終日正座の刑よ!!」
「「………はい」」
ヴィーが寝てしまったので、そのまま飲み会はお開きになった。
「ヴィーの面倒はお前が見ろよ」
「あんた達はエイミアに監視してもらいなさいよ」
「「はい……」」
半ば引き摺るようにしてヴィーを部屋へ。そのまま布団に突っ込んだ。
ヴィーの着替え? いろんな意味でヤバいから止めとく。
「……じゃあ寝よっと……ふああ」
アクビをしながらビキニアーマーを脱ぎ捨てて、布団に入り……。
「……何か不安だから……」
一応媚薬を飲んでるわけだし……念のために、ヴィーをヒモでぐるぐる巻きにする。
「これでよし……今度こそおやすみぃ〜……」
私も……寝る。
ここで私は大きなミスを犯した。
ヴィーは……蛇の特性持ちだということを忘れてた。
「……おっそいわね〜……サーチもヴィーも何をしてんのよぉ〜……」
……ソレイユも忘れてた。
次回、ようやく話が動きます。