第四話 ていうか、結局泊まることになってしまいました……「ふんぬっ!」「ふんぬっ!」
「いえ、全々々力でお断りさせていただきます」
私達はキレイに一礼して、その場をあとに。
「待ちなさい……ふんぬっ!」
「待ちなさい……ふんぬっ!」
……できなかった。
ていうか、こいつら語尾に「ふんぬっ!」つけないとしゃべれんのか!?
「我らが旅館は……ふんぬっ! 他の旅館とは……ふんぬっ! 違う」
「望まれるなら……ふんぬっ! 我らのような……ふんぬっ! 肉体美を」
「結構です」
「現在の肉体で満足だ」
「胸以外はですよねあぎゃああ!」
「エイミア姉は一言多い……私も遠慮」
「≪回復≫……私も遠慮します」
あの筋肉で顔だけエイミアって……想像したくない。
「そう言わずに……ふんぬっ! 体験してみなさい……ふんぬっ!」
「我らの旅館のプログラムは……ふんぬっ! ダイエット効果が」
「「「やりますっ!」」」
ええっ!?
「ちょっと!? エイミアにリジーに……ヴィーまで!?」
「わ、私は二の腕が……」
「呪いを食べ過ぎた」
「私はサーチの為に……ゴニョゴニョ」
「……お前らなあ……あいつらみたいな、マッチョになりてえのかよ……」
リルのため息まじりの一言に、三人は全力で首を横に振った。
「そりゃそうよね……エイミアやヴィーが筋肉達磨になったら、絶交しちゃうわよ」
「「はうっ」」
はうっ?
「「気を付けます!」」
な、何を……?
「そこの二人の方もぜひ……ふんぬっ!」
そう言われてもねえ……。
「私は体型で悩んでないし……ていうか太るほど食べないし」
「「はうっ」」
……さっきから「はうっ」「はうっ」うるさいんだけど……。
「そうだな……私もすぐ痩せられるし」
「「はうっ」」
「何なんだよ、さっきからはうはうはうはう……」
「ま、そういうわけだから……あんた達だけで泊まりなさいな」
私とリルは、もう少し静かな旅館に泊まるからさ。
「「「そ、そんな〜」」」
「……バストアップも見込めますぞ……ふんぬっ!」
「私も泊まるぞ! ホントにバストアップするんだろうな!」
「ちょっと落ち着きなさいよリル! どう考えたって脂肪は削られるわよ? どうせ筋肉でガチガチにされるだけよ?」
「……そうなのか?」
「我らの……バストトップは……ふんぬっ!」
「余裕の100㎝越え……ふんぬっ!」
「お前らがバストトップって言うのは止めてくれ!!」
お願いだから「胸囲」って言って……。
「大体なあ、胸が揺れなきゃ意味ねえんだよ!!」
「揺れますぞ……ふんぬっ!」
ピクピク
「筋肉をピクピクさせてるだけだろがああああっ!!」
……ここ泊まったら、逆に疲れるだけだわ……。
「いらっしゃいませ……ふんぬっ!」
「ようこそおいでくださいました……ふんぬっ!」
……あんたらさあ……一応私達はお客様なんだからさあ……筋肉誇張するポーズよりも、頭を下げなさいよ……。
「えっと……こうですか? ふんぬっ!」
「エイミア、やらなくていいから……」
マッチョホテルマンがペンと宿帳を持って私達のところに来る。相変わらずの危ない黒パンツだけど、意味のない蝶ネクタイが追加されていた。
半裸のマッチョの蝶ネクタイ姿……一体、誰得?
「宿帳に記入をお願いします……ふんぬっ!」
「あ、はいはい……ペンをお借りしても?」
「どうぞ……ふんぬっ!」
何でペンを貸すだけでポーズが必要なの……?
「じゃあ借ります」
ズシンッ! めきっぼきっ
「きいいあああああああ!! ゆ、指が! 指が折れたああああ!」
「サ、サーチ!? 大丈夫ですか!?」
「ペンをどかしてええっ!!」
「ペンを……?」
ずしっ
「な、何ですか、このペン!? めちゃくちゃ重い……! ヴィー、お願いします」
「重いって……本当ですね。かなりズシリときます」
ヴィーがペンをどかしてくれた。
い、痛い……!
「筋肉の基本は鍛練にあり! 文字を書く時も鍛練あるのみ……ふんぬっ!」
「こ、こんなクソ重いペンで文字が書けるかあっ!!」
ヴィーが≪回復≫で治してくれてる間に、マッチョホテルマンに食ってかかる。
「これぐらいで音を上げては……ふんぬっ! ダイエットは難しいかと……ふんぬっ!」
そのペン持てるころには、腕の太さ倍になってるわよ!
「仕方ありません。私が書いておきます」
私の指の治療を終えたヴィーが代わりに書いてくれた。
「……ほお……そちらの女性は見所がありますな……ふんぬっ!」
「我らと同じ境地に至れそうですな……ふんぬっ!」
「私が見所があるのですか……」
「……ヴィーがマッチョになるの? 止めてよマジで……」
「私は今のままでいいです!」
「そうか……残念ですな……ふんぬっ!」
「仲間が増えると期待したのですが……ふんぬっ!」
「ヴィーを巻き添えにしないでくれる!?」
「ああ……サーチが私の事を想って……やはりサーチは私の事を……ぽっ」
「すいませーん、ちょっと妄想に耽ってる娘がいるんですけど、ムキムキコースでお願いしまーす」
「サーチ!?」
「冗談よ、冗談……」
その後、部屋に案内されたんだけど……。
「んぎぎぎぎぎ……! ドアが開かない……!」
……から始まり。
「な、何だこのポット!? 重くて持ち上がらねえぞ……!」
「んぃ〜〜〜! 蛇口が回らない〜!!」
「このスリッパ、片方だけで漬け物ができる気が」
……という具合で、下手したら移動すらままならない状態。
「そうですか? 普通に生活できますが……」
……ほとんどヴィーに頼らないと、どうにもならなかった……。
「はい、サーチ。あ〜〜ん」
当然ながら、箸もスプーンもフォークも同じ超重量仕様で……持てない。
そんなんじゃ食事も難しいので、手掴みで食べるか……。
「サーチ、恥ずかしがらなくてもいいんですよ。ほら、あ〜〜ん」
……ヴィーに食べさせてもらうか。
「ヴィー、いいから。私も手掴みで食べるわよ」
「……蕎麦をですか?」
……こういうときに限って、アツアツの料理が出てくるんだし……。
リルは「熱いニャ!熱いニャ!」と叫びながら食べてるし、リジーとエイミアも悪戦苦闘している。
「ほら、サーチ。恥ずかしくなんかありませんよ〜〜」
ヴィーはニコニコしながら迫ってくる。
……あーもう、わかったわよ!
「はいはい、あ〜〜ん」
「♪ ……はい、どうぞ」
………………美味しいわ。
「じゃあサーチ♪ 私にもくださいな♪」
あんた問題なく、その重い箸持てるでしょ!
「サーチ、やってやれよ……」
……仕方ない。今日はヴィーに指治してもらったし。
「じゃあ目を閉じて、あ〜〜んして」
「は、はい……あ〜〜〜〜ん」
……口でかいな。
入りそうね。
「えい」
「ぱく……んぐ」
「ホ、ホントに入るのね……生卵入れてみたんだけど」
「うー! うー!」
あ、怒ってる。
「サーチ……そりゃねえぞ……」
ごめんごめん、つい。
「んうーっ! んうーっ!」
「? ……どしたの?」
「えっと? ……喉に詰まったみたいです」
「ええ!? 割りなさいよ!」
「んぐぅーっ! んぐぅーっ!」
「えっと? 割れないみたいです」
「おい!? 顔色がヤバいぞ!!」
「サーチ姉、さっき飲ませたの茹で卵」
げっっ!!
「ちょっとヴィー! 吐きなさい! 吐きなさいっての!」
ばんばんばん!
目一杯背中を叩きまくる!
「むぐぐぐ……ぷはあっ!」
ぽんっ
「あ、出たあ! 良かった……ごめんなさいヴィー!」
「けほけほ……はあはあはあ……」
……一晩中、石化正座の刑になりました。
一瞬だけど……楽器の大魔王が浮かんだのは、私だけかな……。
「……サーチ、反省してないようですね……」
「ご、ごめんなさいごめんなさいきいああああああああっ!!」
話が進まない。