第一話 ていうか、久々の大陸で第一町人発見!
「……何故、私はこんなに頭が痛いのでしょうか?」
ヴィーの様子が特に変だった水浴びのことは、まったく覚えてないらしく。
「……何でだろうね〜!? 知らないな〜!」
私としては、封印したい黒歴史的な痴態だったので、ヴィーが覚えていないのはありがたい。
まさに、渡りに船。
「………………」
「……何よ?」
「サーチの反応はわざとらし過ぎて不自然です」
ジト目で私を睨んでくるヴィー。こういうときには、普段通りの切れるヴィーは誤魔化しにくい。
「…………エイミア。何か知りませんか?」
ヴィーはパーティメンバーへの事情聴取に踏み切った。止めれ。
すると聞かれたエイミアは。
ぼんっっ
…………と、「音が鳴らなかった?」と聞きたくなる勢いで、顔を真っ赤にして。
「ししし知り知り知りませんからっ!!」
と言って全速力で逃げていった。ま、まさか、あのバカ……!
私の推測を肯定するように、こっそりと逃げようとするリルとリジー。
ぎゅうっ
「「あいたたたたたた!!」」
素早く二人に駆け寄り、耳をおもいっきり引っ張り上げた。
「……二人とも、ちょおっと顔貸しなさい。イヤだって言っても耳だけ持ってくからね」
「「は、はひ…………」」
二人はガクブル中。
あっけにとられてるヴィーを放置したまま、私達はこの場を離れた。
「……あんた達……覗いてたわね」
「しし知らない!!」
「私の記憶にはございません」
ごがあっ!!
…………≪偽物≫で鉛製トゲバットを作り、二人の間に振り下ろす。
「もう一度聞くけど…………覗いてたわね」
「す、すまねえ……」
「大変にいかん事をして遺憾でござぶぎゅ」
反省の様子がまったく感じられないリジーに、鉛製のトゲバットをプレゼント。
「リル……」
「だ、だって仕方ないだろ! あれだけの声が響いてこれば、誰だって気になるさ!」
「…………私の?」
「そうだよ! こっそり見に行ったら素っ裸でヴィーがお前を「黙れ」…………リル、黙ります」
ヴィーの半径3m以内には、近寄らないようにしよう……。
とりあえず三人にはしっかりと口止めした。たっぷりと恐怖を植えつけたから、大丈夫だとは思う。
「……何かヴィーがマーシャン化してきてる気がする……」
実際に半径3m以内に近寄らないようにしたら、ヴィーが涙目でハンスト起こしたので止めた。
…………反応がかわいい。
森を抜けた私達はモンスターに遭遇することもなく、無事に町に到着した。
到着した。
したのだ!
「わああ! 町よ町よ私達以外の人間よおおおっ!」
「目と耳が二つで口と鼻が一つずつ…………! 間違いねえ、人間だ!」
「臭いも臭くありません……! ああ、正常な人間の香り……!」
「骨がいない。腐ってない。そして何より生きている……生命って素晴らしい……」
町に入るなり、いきなり怪しい言葉を連発し始めた私達から、次第に人が離れていく。
ちっちゃい子が「ママ! あれなに?」とか言って、そのママから「関わっちゃいけません!」と注意されて、人混みに引っ張り込まれる。
町の皆さん、ごめんなさい。だけど察してください。一ヶ月半もダンジョンに入りっぱなしで、会うのが仲間かモンスターぐらいだと……誰でもこうなる。
「…………?」
……現役バリバリのモンスターであるヴィー以外は。
「いつまでもハイテンションで怪しい行動してると、警備隊にしょっぴかれますよ?」
「「「「……はい」」」」
ヴィーに諭されて我に返った私達は、まずはギルドに向かうことにした。
はっきり言うと、ダンジョンコアを売り飛ばさない限り、旅館代も出せないくらい困窮してるのだ。
「あ、あったあった…………すいませーん」
すぐにギルドは見つかり、中に入ったけど…………誰もいない?
……バタバタバタ
「……あ、ちょうど良かった! パーティの方々ですね?」
「は、はい。そうですけど……」
「ギルドからの緊急召集です。お願いできませんか?」
ギルドからの緊急召集。この場合は、多数の人の命に関わる事件が発生していることが多い。
町の中にモンスターが侵入したとか、近くのダンジョンからモンスターが異常発生したとか。
このような緊急事態の際に、ギルドから全ての所属冒険者に緊急召集がかかる。この場合は必ず応じなければならないのが鉄則なのだ。
「!! ……わかりました。何があったのですか?」
私達の間にも緊張感が走る。あのエイミアですら、顔がマジだ。
「はい。この近くに、魔王を祀っている邪教集団が来ていまして……」
……魔王を祀る邪教集団?
「そいつらが先程、町の中で怪しげな呪文を唱えながら、奇妙な踊りをしていたと……どうかしましたか?」
「…………いえ、何でもありません」
膝から崩れ落ちそうになるのを、必死に耐える。それ、高確率で私達だ。
どうしよう……説明のしようがないんだけど……。
「それなら大丈夫です。その者達は私達が町から叩き出しました」
ニッコリとそう言い放ったのは、何とヴィー。
「あなた達が!?」
「はい。入口にいた衛兵さんに聞いてもらえばわかりますよ」
ちょ、いいの? そんなウソぶっ込んで……?
(サーチ姉、大丈夫。さっきヴィー姉に頼まれて≪化かし騙し≫で幻覚見せてきた)
……そういえば、途中でリジーが別行動してたけど……。
「そういう訳ですので、報酬は私達の総取りで良かったですか?」
「あ、は、はい。すぐに確認します」
「それと買い取りの担当の方を呼んでもらえませんか? ダンジョンを攻略しましたので、ダンジョンコアを買い取って頂きたいのですが」
「だだだダンジョンコア!?」
「はい。大変良質なモノが手に入りましたので、ぜひ高額で買い取って頂きたく」
「ちょちょちょちょっと待って下さいね」
「できれば邪教集団を追い払った功績も考慮して頂いて、報酬に色をつけて下さると助かります」
「……〜っ……ギルドマスターお願いしまあす!!」
ギルドの職員は悲鳴に近い叫び声を上げつつ、奥へ下がっていった。
「……ちょっと、ヴィー」
「何ですか、サーチ」
「……ちょっとぶっ込み過ぎじゃない?」
「いいんですよ。魔王様への畏敬の念を邪教呼ばわりするなんて……」
あ、そっか。
ヴィーにとっては許せることじゃないわよね……。
「……滅ぼしてやりましょう」
「「「「待て待て待て待て」」」」
…………なんて話していると、ギルド職員が戻ってきて。
「あの、皆さんのパーティ名は?」
あれ? 名乗ってなかったか?
「竜の牙折り…………じゃなかった、船の底抜きです」
「船の底抜きですね。少々お待ち下さい」
そう言って書類に視線を落とす職員。
「……やはり……あなた方船の底抜きには、約二ヶ月前にギルドへの出頭命令が出され……まだ出頭していない、とありますが」
……はい?
「……あ! 前にエイミアが聞いてきて、すっかり忘れてたヤツ……!」
……そうだった……やべえ。