閑話 恋愛(ユリ)の神様からの、バチ
ここはサーチ達がいる世界とは違う世界。
また、サーチが以前にいた世界とも違う世界。
仮にこの世界のことは「神界」と呼びましょう。
その神界にて、一人の超絶美少女……つまり私……が叫んでいた。
「な、何よ何よ何よ! 何であのメドゥーサの好意を無下にするの!?」
私はずーっと、メドゥーサの美少女と……あの忌まわしい半裸女との恋愛の進展を見守っていた……のだが。
「あれだけ露骨な好意を寄せられておきながら、何の反応もしないだなんて……! 美少女の精一杯の勇気を無駄にして『酔っ払い』扱いするなんて! 許せん許せん許せないい!!」
「……おい、さっきなら何を騒いでいるんだ?」
ヒートアップする私に、同じようで違う恋愛の神様が話しかけてきた。
「うっさいわね! 今の私はめちゃくちゃ忙しいの!」
「……まーた地上のカップル観察に熱上げてんだろ? 暇だなあ……」
「あんたも似たようなもんでしょうが! 大体こんな閑職、私情を挟みまくらないとやってらんないわよ!」
「……神の自覚0だな……オレは真面目に仕事してるぞ?」
「なら私のも仕事よ。邪魔しないでちょうだい」
……恋愛の神は「仕事じゃなくて私事だろ……」とか呟きながら、私から離れていった。
「……ふん。私の勝手よ。放っといてちょうだい」
……そして、再び観察に戻る。
「……それにしても……私好みの美少女だらけ。何て優良なパーティなのかしら……」
私よりも平たい娘を見て勝ち誇っていると。
「ん? んんん? 何よ、あの巨乳娘!? 私の理想のカップリングに、割って入るつもりなの!?」
これまた美が三つくらい付いちゃう美少女が……いや巨乳娘が、我が愛しのメドゥーサに敵対しようとしてるのだ。
どうやらあの半裸女に気があるらしい……。
「……これは見過ごせないわ。私の理想のカップリングを邪魔する者は、例え美少女であっても許すまじ」
……天罰で始末してあげましょう……巨乳娘の命を刈り取ろうとした時。
『みょーーーーんんん!!』
……ぶふっ!
「あっはははははははははは!! 何あれ!? 何であんなに伸びるの? ……ぶっ、ふふふ……ひゃはははははははは!!」
お、お腹痛い……!
……一頻り笑い続けて、ようやく落ち着いた。
「はあ、はあ……いいわ……とってもいいわ、巨乳娘!! あなたのような逸材を死なすのは、あまりにも惜しい……! あなたには≪恋愛の神の加護≫をあげます。これからも精進なさい……」
「……ひう!?」
「……どうしたんだ、エイミア?」
「い、いえ……恋愛の神様に願い事をしたら、何か寒気がしたんです……」
「はあ? 恋愛の神様だあ? そんなバカみたいなのいるわけねえだろ」
「……貧乳娘には天罰」
ひゅーー……
ばいいんっ!
「アニャア!? いてて……な、何でタライが空から……?」
「あ、タライに何か書いてありますね……えっと『貧乳はこのタライで洗濯でもしてろ』……ぷぷ」
「……エイミア……」
「あ、すいません! つい笑っちゃひぇみょーーーーんんん!!」
「ぶっ! あっはははははははははは! も、もう笑わせないで……ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
は、腹が! 腹があああ!
「……?」
「どしたの、ヴィー?」
「……いえ……何か笑い声が聞こえた気がしまして……」
笑い声?
……誰もいないわね……。
「……気のせいでしょ。それよりも水浴びするなら、ちゃっちゃと脱いじゃいましょ」
そう言ってビキニアーマーを外していく。
「………………」
カチャカチャ
「………………」
ガチャガチャ
「………………」
……脱ぎにくいわ!
「ちょっとヴィー! 私が脱いでるときにガン見するの止めて! やりにくいのよ!!」
「はっ!? あ、すみません、つい……!」
「おのれ……あの半裸女! せっかくメドゥーサの美少女が可愛い顔で眺めていたのに、何故に希望通りに見せてやらないのよ!」
印を組んで、術を発動する。
「お前にも天罰てきめん!」
……ブーーーン……
ちくっ
「いってええええええええっ!!」
「わっ!? びっくりした……どうしたんですかサーチ!?」
「せ、せ、背中背中! 何かに刺されたあ!」
「え? 背中を?」
ヴィーが私の背後に回って看てくれた。
「あ、蜂ですね。赤く腫れてますよ」
はちぃ!?
この季節外れに!?
「うぅ〜、痛い痛い痛い〜! ヴィー、何とかしてよ〜!!」
涙出てきた〜!
「はいはい、少し待って下さいね。すぐに回復を……」
「……まどろっこしいわね……。仕方ない、手を貸してやるか」
「……へう!?」
……へう?
……ぴと
「……! な、何か柔らかい感触が……」
「そうですか? 気のせいではありませんか?」
いや、気のせいじゃないよ……。
「これって……もしかしてメロン?」
エイミアがスイカなら、リジーとヴィーはメロンよね……。
「ええ。サーチ専用のメロンです」
そんな専用はいらないわよ!
「ていうか、背中に当たってるって!」
「当ててんのよ」
だから何であんたがそれを知ってるのよ!!
「……いいわ。いいわよ!」
あんまりやっちゃ駄目なんだけど、私が直接あのメドゥーサ美少女に干渉して、性欲を増大させたのだ。
効果の程は、ご覧の通り……。
『ちょ、ちょっとヴィー!? あんたどこ触ってるのよ! こ、こら……』
「う、うふふふ! これよ! これが私が求めていた恋愛なのよ! さあ、堪能させてもらうわよ……!」
「……貴様は何をしているのだ?」
……ん? この声は……。
「え……あ! こここれは恋愛全般の神様! ごごご機嫌麗しゅう……ひぎゃ!」
恋愛全般を仕切っていらっしゃる上司の手が、私の顔を掴む。
「生憎だが私の機嫌はすこぶる最悪だ。何処かの馬鹿が、禁じられているはずの地上への干渉を行っているらしくてな」
メリメリメリ……
「いい痛い痛い痛い! 顔が潰れる〜!!」
「白状すれば緩めてやるが……」
「ごめんすみません申し訳ありません〜!! 私がやりました!」
「……そうか、認めるか」
「認めます認めます!」
「なら、これより刑を執行する」
「え゛」
めきっばきっ
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーっ!!!」
「……あれ? 私は何を……」
「……ヴィー?」
「え? 何故私はサーチの耳を噛んでいるのでしょうか?」
「……私が聞きたいわあああっ!!」
ごんっ!!
「うきゃああああああ!」
その夜。
私の夢の中に、すっげえ美青年と顔に手形がついた女の子が出てきた。
『『大変申し訳ありませんでした』』
……はあ……。
『今回の事は、借りとさせていただきます』
借り?
『何か困った事がございましたら、何時でも呼び出して下さい』
……どうやって呼び出すの?
『では失礼します』
おいっ!
『ちゃんとメドゥーサ美少女の想いに応えてやりなさいよ!』
おいっ!
『『ではさらば……』』
呼び出し方を教えなさいっつーの! おいっ!
「…………呼び出し方を! って、あれ?」
私は周りをキョロキョロ見て。
「……夢か」
現実を認識した。
「……で、何で私の左手にヴィーがくっついて寝てるのやら……」
寝ぼけて入ってきたらしい。
「……想いに応えて……か」
……余計なお世話だっての。
「……たく……またからかうネタが増えたわね……」
…………想いに応えないわけ、ないじゃない。
明日から新章です。