第二十話 ていうか、ヴィーに振り回されるのも悪くない?
次の日の朝。
私が朝ご飯を作っていると、一番最初にヴィーが起きてきた。相変わらず寝癖……蛇癖? がヒドい。
「おはようございます、サーチ」
「おはよ、ヴィー。卵は生で殻ごと?」
「はい、朝から丸飲みが健康の秘訣…………って何をやらせるんですか!!」
めっちゃノリノリだったじゃない。ていうか、それよりも。
「ヴィー、昨日の夜のことなんだけど」
「! ……はい」
ヴィーの目を見据えて、言った。
「……お酒飲むときはちゃんと申告してね」
「……………………はい?」
「あんたね、昨日の夜の酔い方はヒドかったわよ?」
「……………………へ?」
「夜の見張りやってた私にいきなり絡んできて、突然のブチューよ、ブチュー」
「あ、や、いえ、その」
「終いにゃ押し倒されるかと思ったわよ」
「え!? そこまでは考えてませんし、そうなったらなったで……ゴニョゴニョ」
「……何?」
「い、いえ! 何でもありません!」
「……まあいいけど……私だったから良かったけど、これがリルやリジーだったら半殺しだったわよ。エイミアなら泣くし」
「………………」
「飲みたい気持ちはわかるから。だから飲みたいときは、私に言いなさい。とことん付き合ってあげるから」
「……はあ……(サーチ以外にあんな事はしませんよ)」
「何?」
「いえ、何でもありません」
「…………何か気になるわね……とにかく、飲みたいときは必ず私に言いなさい。で、絶対に私以外を誘っちゃダメだからね?」
「……はい、わかりました」
じゃないと私以外に被害者が出ちゃうからね。
「すみませんでした、サーチ。近いうちに、お詫びも兼ねて一杯やりましょう。勿論、私の奢りで」
「……いいの? じゃあ次の町でね」
「はい、楽しみにしています。私は顔を洗ってきます」
そう言って近くの川に向かうヴィー。
そのときに。
「……なら、お酒を理由にしてサーチと二人っきりになれるのですね。後は、昨日のようになし崩しで……」
……と呟いていたけど、聞こえない。聞こえないったら聞こえないの!
しばらくすると、全員起き出してきた。朝ご飯を終わらせてから、大陸の地図を広げてリルと相談。
「グラツまでは、できるだけ早く行きたいな」
「いつ七冠の魔狼が現れるかわからないからね……」
そうなると……最短ルートを選ばざるを得ないから……。
「サウスルプス山脈を越える……の?」
「それって余計に遠回りじゃね?」
そう……よね。
「いえ、試してみる価値はありますよ」
「……ヴィー?」
「聞く限りですと、相当険しい山脈なのでしょう? そういう難所には、必ず抜け道があるはずです」
抜け道って……。
「山がある以上は、山に頼って生きている人間がいるのは必然です。猟師、木こり、山菜を集めて回る薬師……。彼らしか知らない道は、必ずあります」
「…………そうか。蛇の道は蛇ってヤツか」
「はい、その通りです」
「「………………」」
「……待っていても『……蛇だけに』なんて言いませんからね」
……ちっ。
「でも、それならギルドを頼れば何とかなるな。猟師や木こりなんかが『森の道案内』なんて仕事を請け負うこともあるし」
……なら、いけそうね。
「じゃあ次の町で、道案内する人を雇って山脈越えルートで行きましょう」
ムリなら正規の街道ルートで。
「じゃあ行き先は決まったわ。荷物をまとめて出発よ!」
「「「「了解!」」」」
「次の町で……うふ、うふふ……サーチを独占〜♪」
歩きながら一人でしゃべって一人で笑うヴィー。気味が悪いもんだから、全員がヴィーから一定の間隔を空けて歩いてることにも気づいてない。
「……またヴィーが妄想モードに入ったわね……」
「サーチ姉、妄想というよりは暴走」
……違いない。
「この調子なら夜までには森を抜けられるな。確かこの森は、夜になるとゾンビが徘徊する地域だから……」
ゾンビかあ……あんまり関わりたくないわね。
「臭い移りはマジで勘弁してほしい」
「あ、でもヴィーの≪消臭≫があるから……って、そういえば≪消臭≫はゾンビ系には即死級の効き目があったんだっけ。ヴィーに連発してもらえば、私達に臭い移りする心配もないわよ」
「なら安心」
「ヴィー! 頼んだわよ……………………ヴィー?」
「サーチィ……すりすり」
「!! …………ヴィー、気を確かに!」
ヤバいので、近くに落ちていた枝を投げつける。
「うふふ…………」
ぽこっ
「痛っ! な、何が……………………ぃぃいやああああああっ!!」
正気に戻ったヴィーは、なぜか抱きついてすりすりしていたゾンビをブッ飛ばした。
「ゾンビ嫌ぁ! ゾンビ嫌い! 大っ嫌い!!」
……手についた肉片を払いながら、ヴィーは涙目になっていた。半泣きのヴィー……も萌える。
「おほんっ! 何であんたはゾンビに抱きついてたわけ? 下手したら殺されてるとこだったわよ?」
ヴィーは注意されて、涙目でしゅんとした。
涙目のヴィー……も萌える。
「も、申し訳ありません。色々と考え事をしてまして……」
100%いかがわしい妄想よね? たぶん私を題材にしたヤツ。
「……あんたに何かあったら一大事なんだからね? わかってる?」
「わ、私に何かあったら……一大事って……うふふ……」
……?
何かヴィーが頬っぺたに手をあてて、クネクネし始めたんだけど……?
「あんたが唯一の回復役なんだからね。何かあったら誰が回復を…………」
…………あ。
ヴィーの背後に「がーん」って文字が浮かんでる。しまった、失言だった……。
「……わ、私にとっても一大事なんだから! ヴィーに何かあったらめっちゃショックなんだから! わかった?」
「は、はい、わかりました! ランララランララン♪」
…………ふぅ〜、フォローできた。浮き沈みが激しいわね、ヴィーは。
「サーチ姉。上手く操縦してね」
操縦って……。
「いやいや、結構重要だぞ。うちのパーティの回復兼バックアップを、一手に引き受けてくれてる逸材だぜ。サーチの言動で浮き沈みするんだから、がんばってヴィーの機嫌を取ってくれ」
ヴィーの機嫌をねえ……。
森を抜けてすぐの川原で一泊することにした。野営の準備を終え、各自で休憩していると……。
「サーチ!! 川で水浴びしませんか?」
「「ほらほら、ご機嫌取り」」
「な、何よそれ!? だったらあんた達も……」
「後は若い人同士で……」
あんたは見合いの仲人か!
「私達は行くのは野暮ってもんだよ。さっさと行け!」
「わ、わかったわよ……」
……変に気を回すなっつーの。
「………………」
「ん、どうしたエイミア? 何かムスッとしてるな?」
「…………別に何でもないです。ただ……」
「……ただ?」
「……恋愛の女神様から、天罰が下れって思っただけです」
「……はあ?」
……実際に、すっっごい天罰を食らうことになる。
あとサーチとヴィーのキャッキャウフフ回をはさんで、新章です。