第十九話 ていうか、ホントに間違いなく今度こそダンジョン脱出!
次は地味だけど、砕けたダンジョンコアの回収作業。天井に残ったままだった欠片は、ヴィーに蛇を伸ばしてもらって回収した。
うーん、便利な伸びる蛇。
「……サーチ? 何を考えているのですか」
「……シャシャ? シャーシャシャシャ?」
……めっちゃ睨まれた。な、何で私の考えてることってバレるのかしら……?
「……お前は顔に出過ぎなんだよ」
「え? ウソ!?」
「……あれだけ言われてるのに、まだ自覚がなかったんですね」
「サーチ姉は自分の事には疎い」
「そこがまた良いのです」
自覚がなくて悪かったわね! ていうか、最後のヴィーのコメントは何なのよ!
「それより、一つ残らず集めなさいよ! 欠片であってもダイヤより高いんだからね!」
ダンジョンコアは魔術で属性を持たせると、一級品の護符になる。しかも絶対数はダイヤよりも少ないため、ダンジョンコアは高額で取り引きされるのだ。
「ほらほら、そこにもあるわよ! 地面這ってでも集めなさいよ!」
「はい、お任せ下さい」
ヴィーは頭の蛇を這わせて、順調に集めていく。
「這ってでもって言われてもなあ……」
……リルは何かブツブツ言ってるわね。
よし、警告。
「……三味線」
「アニャ!? やりますやります! 一生懸命やらせていただきます!」
「……お腹すきました……」
「……疲れた……」
エイミアとリジーもか! はい警告!
「お昼はサソリでいいかしら?」
「ひえっ!? お腹すいてないです! まだまだ働けますー!」
「ぎゃあ!! サソリは嫌です働きますー!」
……香ばしくて美味しいのに、何でそんなに嫌うかな? ま、罰にはなるからいいか。
「……マジメに働いてるのはヴィーだけね。ありがとね」
「い、いえいえ! とんでもありません!」
ただただ照れまくるヴィーをジト目で見ながら、リルが呟いた。
「……ヴィーの場合は下心があるしな……いてえええっっ!!」
「どうしたの、リル?」
「な、何か私の尻尾に噛みつきやがったんだ!!」
「え!? まだモンスターでもいたの?」
リルは背後をキョロキョロ見回すが……何もいない。
「気のせいじゃありませんか? 何もいませんよ」
しれっとした顔で言うヴィー。
だけど私は見た。
リルの背後から、ヴィーの頭の蛇がこっそり戻っていくのを。
ヴィーもたくましくなっていくのね。
「……うん。これだけあればリジーの件で吹っ飛んだお金は取り戻せるわね」
「おい、リジーがいるんだぞ。あんまりそういうことは言わない方が……」
「……あの様子を見てリジーがホントに反省してるように見える?」
たぶん私の話が聞こえているであろうリジーは、呪われアイテムを磨いてうっとりしていた。
「………………してねえな」
「ヴィー。噛みつく攻撃」
「はい」
がぶがぶがぶっ
「痛あい!! 痛痛痛い!!」
「ヴィー。毒攻撃」
「はい」
「ちょい待ち! 冗談だから! ていうか、やっちゃダメ!!」
「え、やらないんですか?」
ていうか、本気でやるつもりだったのかよ!
しばらく硬直していると、やがてヴィーが吹き出して大笑いをした。
「あはは…………あー可笑しかったです。最近散々からかわれましたので、仕返ししちゃいました」
「うぇっ!?」
ふ、不意討ちすぎるわよ!! うわ、反則だ!ウィンクしながらアッカンベーなんて……! やば、グラッときた。
「「………………」」
「え、どうしたんですか?」
「……ヴィー、その表情は……」
「……サーチの前以外ではやるなよ……」
「……? は、はい」
……エイミア並みに危険だわ、この娘。
「……ていうか、ちょっとヴィー! マジでリジーに毒を流し込んでない!?」
何か静かだなぁ、と思ってリジーを見てみたら……全身紫色になって泡吹いてたよ。
「あ、失敗しました。少し眠たくなる程度のモノのつもりだったのですが……つい永遠に眠たくなるモノを……」
「や、やべえええっ!!早く解毒草を!」
「リジー、しっかりしろおお! 傷は浅いぞ!」
「リジーがああ! びえええええええっ!!」
「バカエイミア、縁起でもない! まだ死んでないから!」
「あ、あの……」
「ちょうどいいわ、ヴィー! 早く回復ををを!!」
「み、皆さん……落ち着いて聞いてくださいね? 冗談……なんですけど……」
………………………………はい?
「……冗談?」
「はい」
「……上の段じゃなしに?」
「上段ではなく、冗談です」
……じゃあ……リジーは……。
「ただ痺れてるだけです」
び……びっくりしたあああああ!!
「止めてくれよ! マジで心臓に悪い……!」
「びええええええっ! リジーが無事で良かったああ! びえええええっ!!」
エイミア。ホッとしたのはわかるけど、リジーをガクガク揺さぶるのは止めなさい。せっかく治りかけてたリジーの顔色が、さらに悪くなってるわよ。
「それより、ヴィー」
「はい……にゅ!?」
「……やり過ぎ」
ぐいっ!
「あいひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」
あれ?
「予想より伸びないわね……」
ぐいいっ!
「ひぃひゃああああああああいいいっ!!」
「おい、サーチ。エイミアは特殊だからな。だから止めてやれよ」
「……そーね」
リルの忠告通り、私はヴィーを離した。
「痛いです! 本当に痛いですって!」
半泣きのヴィーもなかなか……じゃなくて!
「じゃあダンジョンコアも回収したから脱出よ! ヴィー、とっととリジーを回復して! リルは出口までの要偵察! エイミアは……まず鼻をかみなさい!」
「はい!」
「じゃ、行ってくるわ」
「はひ……ずびびびっ!」
ヴィー、リジーにちゃんと謝りなさいよ。
エイミア、汚い。
…………え? リルには何もないのかって?
……………………………………ない。
「……あれ? 何かすっげえ悲しい気分になったんだが……?」
鋭い。
「モンスターは数匹いたからぶっ飛ばしといた。ただ外に問題がある」
「……外に?」
「行けばわかる」
……?
……こうして。
私達は、一ヶ月以上に渡る長期のダンジョン攻略を終えて。
私達が出会い、私達が始まった大陸に帰ってきた。
ざああああああああっ!!
……大雨の中。
「……しばらく出れないわね……」
道は川になってるし。
川はめっちゃ氾濫してるし。
「……しばらく危険だから、ダンジョンの出口で待機」
「「「「……りょーかい……」」」」
……またダンジョンに戻った。
夜。
ダンジョンの中で野営することになり、順番で見張りをしていた私達。
ちょうど私の番のとき、簡易テントからヴィーが出てきた。
「? ……どしたの、ヴィー。明日も早いんだからちゃんと寝ないと」
「わかってます。一つ忘れていた事がありまして」
「忘れていたこと……? っていいイタタタタタタ!!」
「おもいっっきり引っ張ってくれましたので……仕返しです」
ちょっと! マジで痛い痛い! ≪怪力≫フル使用で引っ張ったら千切れるって!
「イタタ……ちょっと!」
さすがに痛すぎたので怒ってやろうと思い、怒鳴ろうとすると。
「え?」
顔が近い!? ていうかもう密着……むぐっ!
「………………!」
「……ぷはあっ! お休みなさい」
………………。
……頭が真っ白になった。
あと少しで新章です。