第十七話 ていうか、ついにダンジョン脱出!
それから残りの落とし穴を調べて、また二人のクズ男を発見した。
リルの尋問の結果、先ほどの連中の仲間だということと、ここの落とし穴は全て一週間かけてクズ男達が作ったモノだ、ということがわかった。ご苦労なことです……。
結局メドゥーサ目当ての凶行だったのは、明白だったので。
「ヴィー、許す? 許さない? あんたにコイツらの処遇は任せるわ」
ヴィーは目を閉じ……。
「………………」
……溜めに溜めて……。
「……バツ!」
両手を交差した。
ばっしゃあああん!
「「うわっ!」」
……ご丁寧にも男達の頭上から≪聖水弾≫が降ってくる懲り様。……これって……昔のバラエティで……?
「はーい、さようならー」
「「ぎゃあああ!」」
……男達は自分達が作った落とし穴に叩き込まれた。無論、真紅のサソリがたっぷりいる穴に。
「……でもあの人達、よくあれだけのモンスターを捕まえられましたね」
「多分ですが……時空石を使ったのでしょう」
え? 私達を異空間に閉じ込めた、あの石を?
「最初の時空石は何の効果もない唯の石。その石に『繋ぎ止める者』を封じる事により、初めて『異空間を開く機能』が発現します」
「え?『繋ぎ止める者』って有翼鬼限定じゃないんだ?」
「はい。あくまで何を『繋ぎ止める者』にするかは、製作者次第です。おそらくあの男達は、このダンジョンの守護神であった有翼鬼を、初めから『繋ぎ止める者』に封じるつもりで製作者も連れてきていたのでしょう」
「……何でも『繋ぎ止める者』にできるのなら……わざと弱いモンスターを『繋ぎ止める者』にしておいて、次に真紅のサソリを時空石の空間に閉じ込めちゃえば……」
「流石ですサーチ。おそらくはその手段によって、落とし穴内のモンスターは連れてこられたのです」
「……いや、待って。真紅のサソリが『繋ぎ止める者』を殺して、異空間を脱出したとして……どうやって落とし穴内に……?」
私達みたいに、元々いた場所に出てきちゃうんじゃ意味ないし。
「時空石の真ん中には『核』があります。その核がある場所が脱出口となりますので、石が砕けた後に核を回収して落とし穴に放り込んだだけかと」
回収した核はすぐに無限の小箱にでも収納すれば、その間は時間が止まってるから、中のモンスターが解放される心配もないわけか。
「でもそれって……やり方次第では街を大混乱に陥れる事もできますよね?」
エイミアの疑問はもっともだ。前世で言うところのテロよね。
「勿論、過去に何度も起きた事案です」
現在進行形だったのね!
「ですから時空石の流通は厳しく制限されています。採掘される場所も、国かギルドによって監視下に置かれているはずです」
「……つまり。監視下に置いてる国なら時空石は使い放題ってわけか」
「なら簡単ですね。このダンジョン近くで時空石の鉱床を持っている国が、今回の件に関わっているわけです」
時空石の鉱床……か。
「でもそれって……当然一般には公開されてないわよね?」
「え? そうなんですか?」
がくっ
「エイミア……国やギルドが監視下に置くような危険なモノがある場所を、普通に一般公開したら大変なことになるでしょうが!」
「……下手に盗賊なんかの手に落ちたら、ろくなことにならねえだろ?」
エイミアは不思議そうな顔をした。
「……でも……ヴィーは『製作者』って言ってましたよね? だから誰でも作れるモノではないわけですよね?」
まあ……そうなるわね。
「なら『製作者』の適性がない人が手に入れても、何の問題もないのでは?」
んん〜……エイミアも少しは考えるようになったわね。でも甘い。
「だったら『製作者』が危険になるじゃない。拉致されてムリヤリ作らされたりなんて可能性もあるわけだし。ていうか『製作者』自らが率先して大量生産するかもしれないわよ?」
「そ、そうですね……勉強になります」
……勉強になる以前の問題だと思うけど……。
「でも、その辺りの情報ってギルドでも教えてくれないよな?」
そうなのよね……地道に裏のルートを当たるしたないか……。
すると、エイミアからびっくり発言が出た。
「でしたら私に任せてもらえませんか?」
「「「「……え?」」」」
「……何ですか、その反応は……」
え、だってエイミアだし。
「……サーチ?」
す、すいません……。
「おほん! こちらの大陸の領主さんには、私の実家を通じた伝があるんです。ですから私なら聞き出せますよ」
そうなの?
「けどさ、あんた実家とは縁切ったんじゃなかったっけ?」
「はい」
「それで大丈夫なの?」
「いいんです! 実家の名前を悪用しまくって、実家の信用を落としてやるんです!」
……それって縁切ったって言わないんじゃない? でも……使えるモノは使ったほうがいいわね。
「……わかったわ。次の町で繋ぎをつけられそうならお願い。だけど今は七冠の魔狼の件が最優先だから、手間取りそうなら早めに見切りをつけて」
「わかりました」
「ヴィーもそれでいいかしら? 私もできる限り協力はするけど……」
「構いません。より重要な問題を優先する事は当たり前の事です」
「……ありがと、ヴィー。それじゃあ、まずは……」
「脱出ですね」
「……だな」
へ? あんた達何を言ってるの?
「ちょっと待ってよ。もっと優先させなきゃいけないことがあるでしょ」
「え?」
「何かあったか?」
「……心当たりがありません」
「同じく」
……やれやれ。
「……今の私達には、旅に絶対に必要なモノがないのよ」
「……へ?」
「な、何だ?」
「本当に心当たりがありません」
「……あ」
……リジーはわかったみたいね。
「……リジーが沈めたでしょ……船を」
「「「……ああ……」」」
私の一言で、全員合点がいったみたい。
「……お金ですか……」
「賠償金を結構な額、取られたんだったよな……」
「……リジーがすぐにわかった訳ですね……」
「……すまそ!」
リジーはホントに反省してんの!?
「でも……お金がないのはわかりましたけど……ダンジョン脱出を渋るのはどうしてなのですか?」
「……ヴィーもわかんないかな〜?」
「え!? ええっと……」
うふふ。困ってる困ってる。
「あ、わかり「わかりました! ダンジョンコアを手に入れてお金に変えるんですね!」…………です」
……ホントにタイミングが悪いわね、エイミアは……。
「……そうよ。ギルドに持ち込めば、ダンジョン攻略の報奨金とダンジョンコアの素材代で、かなりの収入が見込めるわ」
リジーの沈没騒動での出費が、十二分にペイできるくらいの金額が、ね。