第十六話 ていうか、異空間に閉じ込められての戦闘!
「リルー、エイミアー! あとは私が引き受けるわ! 交代ねー! 」
へー……あれが有翼鬼かあ……。ホントに岩で出来てんのね。
「で、ヴィー。さっきの話だけど……ホントに有翼鬼はクズ男を食べたのね?」
「はい。……あの……そういう直接的な表現は控えて頂けませんか? 食欲に影響が出そうで……」
あら? ヴィーって意外と食べるのが好きなのかしら?
「わかったわよ……だけど」
ここでちょこっとイタズラ心が疼いたので、少しヴィーをからかうことにした。
「よく食べるのは大事だけど……私は今のままのヴィーが好きよ。あまりデブにならないでね?」
そう言ってヴィーの顎の先を、ツー……となぞった。
「……え……」
するとヴィーは「この娘、噴火するんじゃね?」というくらいの勢いで、全身を真っ赤にした。ありゃ、蛇まで赤い。
「あっははははははは! 私の想像通りの反応ありがとう! あはははははははは!!」
「なっ……!! サ、サーチィィィィ!!」
「じゃ、さっさと片づけてくるわ」
私がヴィーとの会話を打ち切ったところで、リルとエイミアが戻ってきた。
「サ、サーチ。後はお願いします。つ、強いです」
「まったくだ。すばしっこい上に硬い。おまけに遠距離攻撃ばっかしてきやがるから、どうしようもならねえ」
「エイミアの電撃は?」
「効果がありませんでした」
……電撃が効かないのか……身体が絶縁体なのかしら。
「それとサーチ」
ん?
「ヴィーにあまり思わせ振りなこと言うなよ。ああいうマジメタイプは、絶対に真に受けるぞ」
「あら、別にいいじゃない。好きな気持ちは私も変わらないわよ?」
「いや、お前の好きは『友達として好き』なんだろ? ヴィーは純粋に」
どびゅん!
「あっぶなっ! ……不意討ちとは汚ないヤツね……!」
リルとナイショ話してた私を、背後から有翼鬼が急襲してきやがった! 許せん!
「気をつけろよ! 並みの速さじゃねえぞ!」
「わかってるわよ! それよりリル!」
「何だ!」
「あんたにピンクは似合わないわよ?」
「……は?」
「今の有翼鬼の不意討ちの巻き添え。あんたのミニスカが犠牲になったわよ」
「え……い、いやああああ! 見るニャアアアアアア!!」
リルの叫び声に背中を押される形で、有翼鬼に対峙する。≪偽物≫で盾を作り、両手に持つ。そしてレッグガードの表面を、ミスリルでコーティングする。
ガア!
初撃は有翼鬼。数発の魔力弾を右手から発射する。その全てを盾で防ぐ。
その瞬間、有翼鬼は私に肉薄してきた。
ガアアッ!
有翼鬼の鉤爪が、私の首筋に迫る!
が。
ぎいん!
当然、盾で受け流す。
で。
「はああああっ! 」
ばがんっ!
グギャア! !
がら空きだった有翼鬼の脇腹に、渾身のハイキックが決まる!
「……この程度で……倒せるわけないか」
一応ミスリルでコーティングした足でのハイキックだったけど……。
ガア……!
まったく効いてないわね……! さて、どうしようか……。
ガパッ
え? 口を開けて……って、まさか!
ゴオオオオッ!
「あっつぅぅぅっ! 」
あ、危なかった!
避けられたから良かったけど……まさか≪火炎放射≫までできるなんて……!
ゴオオオオッ!
有翼鬼が連続で吐いてくる!
「くそ……! さすがに≪火炎放射≫は盾じゃ防げないわよ……! 」
たぶん有翼鬼は、それに気づいたんだろう。魔力弾を使わず、≪火炎放射≫のみで攻撃してくる! 避けるしかない状態に追い込まれていると。
「≪聖水の加護≫」
ヴィーが唱えた聖術が、私の肌を直接コーティングする感じで包む。
「サーチ! それで三十分くらいは炎を無効にできます! ≪火炎放射≫を気にせずに攻撃出来ますよ!」
「ありがとうヴィー、愛してるわよー!」
ついでに投げキッスもプレゼントしたら、ヴィーがひっくり返った。
ゴオオッ
「もう効かないわよ! くらえっ!」
もう一回ハイキック!
ごげんっ!
グギェッ!
今度は首筋にヒットさせたけど……どう?
ガ、ガアアアアアアッ!!
あ、怒ったっぽい。
てことは……まったく効いてないわけね。
「おい、ますます興奮してるみたいだぞ! 最悪≪自爆≫しかねないぞ! 」
あ、そうだった!
有翼鬼みたいな、岩や金属で身体が構成されているモンスターには、≪自爆≫スキルがあるんだった!
「ヴィー! ≪自爆≫の発動条件は!?」
「極度の興奮、だったと思います」
やべえっ!
「……仕方ないか……即死させれば発動しない!?」
「え……? あ、はい。死んだ後に発動する事はないです」
よーし!
「じゃあ何とかするわ! みんなは念のために離れてて!」
無限の小箱に手を突っ込んで、目的のモノを確かめる。よし、大丈夫!
「来なさいよ石人形! ボッコボコにしてやるわ!」
ガッ!? ガアアアアッ!!
あ、さらに怒った。
「ほら、かかって来なさいっての!」
ガアアッ!!
突進してきた! 思うつぼ!
もう一回両手に盾を作り、有翼鬼の魔力弾を弾き飛ばす。
ガアアッ! ガアアアアッ!!
完全に冷静さを失った有翼鬼は、魔力弾を放ちながら突っ込んでくる。
「魔力弾なんか、効かないっての!」
魔力弾を全て防がれてさらに逆上した有翼鬼は、私の目の前に迫る。
「シールドアタック!」
ばいん!
効果は薄いだろうけど、盾で有翼鬼の顔をはたく。
ガアッ!
近距離で≪火炎放射≫を放つつもりみたいで、口を大きく開く。
「今だ!」
右手の盾を消すと、有翼鬼の開いた口に右手を突っ込んだ。
ガグッ!?
そして右手を食い千切られないように、すぐに引き抜き。
「せいっ!」
がごっ!
右手にトンファーを作り出し、有翼鬼を殴り飛ばす。
ガッ! ガガ……
バリバリ
何かを噛み砕く音が響く。よし、勝負あり!
「サ、サーチ? 一体何を?」
「まあ待ってなさい、もうすぐだから……」
バリバリバリ……
ガッ? ガ…………ズウン!
「え、倒れた……」
「はい、即死完了。これで出られるでしょ」
「ははあ……有翼鬼の口に真紅のサソリを押し込んだんだな」
「……あ! 私の足にくっついていた……」
さすが最凶最悪の毒、よーく効くこと。
バリン!
何かが割れるような音がしたあとに、私達は元々いたダンジョンに戻った。
「も、戻れた……」
「よ、良かったですうう……もう出られないかと思いましたあ……びええっ」
緊張の糸が切れたのか、リルは座り込み、エイミアは泣き出した。
「サーチ姉! どこに行ってたの!?」
「あ、リジー。ちょっと有翼鬼と戦闘してきたの」
「え、有翼鬼!! 死体は?」
「え? 持ってきたけど……」
「頂戴頂戴! 」
え?
「……ああ……そういえば有翼鬼って……呪われアイテムの一種ではありますね……」
…………そうね。
言えなくは……ないか。
「……わかったわ。今回はリジーもがんばったんだし……ダンジョン出たらあげるわよ」
「やった! わーい」
子供かっつーの。
「ヴィーもがんばったんだらさ、ご褒美でサーチに添い寝してもらったら?」
「え!? ええええ!」
またまた顔を真っ赤にするヴィー。
「いいわよ〜。一緒に寝る?」
「!!! ……はうっ」
「げっ、ヴィー!? ヴィー……失神してるぞ」
……リアクションが子供かっつーの。