第十五話 ていうか、今回はヴィーの視点で、前回を振り返ってみる。
題名通り、ヴィー視点です。
サーチと別行動を始めてすぐ、一つ目の落とし穴にリルの嗅覚が反応を示しました。
私はすぐに≪聖水弾≫を放ち、穴の中を水で満たします。
すると……。
ゴボ……ボコボコ……
「……やっぱり何かいやがったな」
「痺れさせます?」
水面に上がってきてからでも遅くはない、とは思いますが……先程のような事態もあり得ます。ここは慎重にいきましょう。
「……軽くお願いします。気絶するかしないか、くらいの威力で」
「わかりました……そ〜っと≪蓄電池≫」
バチバチッ
ごぼぼっ! がぼぼぼ!
「……反応ありましたね」
ぶくぶくぶく! ざばあっ!
「げほっ! はあはあはあ……うぐっ」
「はい、動かないで下さいね」
私は杖を、浮かんできた男の首筋に突きつけました。
「く……くそ!」
「それじゃあ洗いざらい吐いてもらおうか。何で私達を狙った?」
「……ふん、さあね……」
……流石にこれくらいでは答えませんね。少し脅しをしてみ「私に任せとけ」……はい。
「な、何をするつもりだ……」
……? リルが針を取り出して……男の手を掴んで……?
ぷすっ
「ぐっ! うぐぅぅぅっ!!」
い、いやあああああ!
つ、爪と皮膚の間に針を……! 想像するだけで寒気が……!
「さーて、次いくかぁ? 〝深爪〟のリルを舐めんじゃねえぞ?」
「ふ、〝深爪〟!? わわわかった! 話す、何でも話す! だから深爪は止めてくれええっ!」
あ、あっさりと!? 〝深爪〟のリルの噂は聞いていましたが……流石の鮮やかさです。
「普段は〝深爪〟って言われるの、嫌がってるのに……」
「うるせえよ、〝お花摘み〟のエイミア!!」
「いやあ! 言わないでくださあい!」
……〝深爪〟に〝お花摘み〟……私でしたら絶対に遠慮する異名ですね……。
「「好きで付けられたわけじゃない!」です!」
「「サーチが広めたんだ!」です!」
……納得しました。
で、男の供述によると。
「このダンジョンを、人間の振りをしたモンスターが通過しようとしている、という情報を掴んだ。人間社会に紛れ込まれると厄介だから、ここまで来たヤツは全員抹殺」
……という事でした。
「な、何故ヴィーの事がバレたんですか!?」
「……帝国であれだけ暴れたからな……。見られてても不思議じゃないだろう」
……迂闊でした。
「そのモンスターがメドゥーサらしいんだ。だから領主様が『首を持ってきたら税を免除してやる』と……」
……!
まだこのような輩が……!
「メドゥーサの首があれば、どんな相手でも石化し放題だ。そりゃあ誰でも欲しがるさ」
こ、この誤解が……!
この誤解が原因でメドゥーサは絶滅しかかっているのに……!
「おい。何を誤解してるか知らねえが……メドゥーサの石化はスキルだ。死んでるヤツの首で石化はできねえぞ?」
「な、何?」
「この事はギルドからも伝達されてる話だ。この誤解のせいで、メドゥーサが極端に数を減らしてるの、知らねえだろ?」
「そ、そんな……俺たちの苦労は……」
……リルが諭してくれました。これが切っ掛けで、少しでも誤解だとわかってもらえれば、或いは……。
「で、でもよ。所詮化け物だぜ?殺した方がいいだろ?」
……は?
「……見た目が……化け物なら……意思の有無構わず……殺せ……と?」
「はあ? 頭から蛇生やしてる化け物に意思があるわけが……ひっ!」
……なら……意思がある私は何なのかしら?
「……このクズを諭そうとした私がバカだったみたいだな……ヴィー、こいつは好きにしろよ」
「……ヴィー。私達は何も見ていません。聞こえません」
……ありがとう。
なら……このクズは……私が始末します。
私の頭から蛇が伸び、男の身体に絡まります。
「ひ、ひ、ひぎゃああああああっ!!」
……一番苦しい手段で始末しても、構いませんよね?
「……すみませんでした。少々取り乱しました」
「……気はすんだか?」
「さっきの男の人は、転んで頭打って死んだんですよ」
「…………はい。そうですね」
その心遣い、感謝します……。
ただ、どちらにしても、ダンジョンを出てから、話に出てきた領主は何とかしないといけませんね。
「くそ! 化け物が!」
……なんて考えていると、別の落とし穴に潜んでいたらしい、もう1匹のクズが出てきました。
「……まだいたのかよ……」
「よくも仲間を……! これでも食らえ!」
そう言って男は、私達に石を投げてきました。エイミアの足元に転がって止まります。
「……こんな石で、私達がどうにかできると思っているのでしょうか?」
そう言って石を蹴飛ばしました。
……ん? あの石は、まさか……!
「エイミア! すぐに離れて……」
パァン!
辺りを閃光が包んで……遅かった……!
「ま、眩し……一体何が起きたんですか!?」
「……周りを見て下さい」
「……っ!? ど、何処ですここは!? さっきまでいたダンジョンとは……違う?」
「あの男が投げたのは『時空石』です。石が砕けて広がった空間に、対象を強制的に閉じ込めるアイテム……」
「空間に……閉じ込める? なら私達は……」
「もう……出られないのか?」
半泣きになっているエイミアを向いて、首を振りました。
「いえ。空間を繋ぎ止める役を担う者も、同じ空間に存在します。その者を倒せば空間は消滅し、私達も元の場所に戻れます」
「なら、そいつを探せば……って、あいつか?」
リルが示した先には、何故か石を投げつけた本人がいました。
「ち、ちくしょう! 逃げ遅れた……!」
「……馬鹿ですね」
「……間抜けです」
「……アホだな」
「う、うるせえ!」
「でもあなたがいるなら、好都合……繋ぐ役の者は誰?」
男の首に蛇を巻き付けて、口を全開にして牙で威嚇します。
「や、止めろ! 言う、言うから!」
「じゃあ何ですか?」
「あ、あれだ! このダンジョンの守護神!!」
守護神!?
「まさか……あなたは、守護神をこの空間に!?」
「ちくしょう! まさか俺まで空間に巻き込まれるなんて……!」
そう言ってから、男は頭を抱え込みました。
「終わりだ……! もう終わりだ……勝てるわけがない! 有翼鬼に勝てるわけがない!」
有翼鬼!?
「ヴィー伏せろぉ!!」
「え……きゃ!」
リルに押し倒されました。そして、私がいた場所を何かが高速で通り過ぎ……。
「……!」
半身が削られた男が転がっていました。
「有翼鬼だ! エイミア、援護を頼む!」
「は、はい!」
「ヴィー、この空間から外部に連絡を取れるか!?」
……そうですね……。
空間の一部くらいなら……穴を空けられる……かも。
「やってみます!」
「頼むぜ!」
まずは魔術の効果を消す聖術を試してみます!
「≪消去≫!!」
ばぢっ!
「……効きました! 少しだけ穴が空きましたね……」
私は……通れるか微妙ですが……蛇なら!
「お願いします! サーチに知らせて!」
「シャッ!」
頭の蛇の中で、一番元気な蛇に行ってもらいます!
お願い……どうか……!
「え!? 何かを捕まえた!?」
……サーチかしら?
「え!? 何かを引き摺り込んだ!?」
ぶくぶくぶく……
「……ぶはあっ! はあ、はあ……」
「あ、やっぱりサーチでした!」
「はあはあ…………ヴィー、やっぱりあんたが私を引っ張り込んだの?」
「申し訳ありません。私達もこの空間に引き摺り込まれまして……今はリルとエイミアが対峙しています」
「何がいるの?」
「……有翼鬼です。多分……守護神かと」
「……仕方ない、私が片付けてくるわ」
「え? サーチが?」
「ええ。ちょっとヴィーも協力してくれる?」
「わ、わかりました……」
サーチに協力を依頼されちゃいました♪ うふふ……。
全て丁寧語のヴィーすごい。