第十四話 ていうか、いよいよダンジョンとさよなら……?
幾多の試練を乗り越え続けた、このダンジョンでの一ヶ月。様々な思いが巡るけど……ついに。
「お、おい。あそこにあるのは……」
リルが指差す遥か先。
今まで通りなら、その先にあるのは果てしなく続く道……なんだけど。
今回は、違った。
「あ、ああ……あれは!」
「このダンジョンの入口にあった扉と同じですよ!」
……ということは!
「出口よね」
「出口だな」
「出口ですよ!」
「出口……ちょうさ」
「出口です……ちょうさって何ですか?」
そ、それはスルーして。
「…………ぃやったああああっ!!」
私達はついに、ダンジョンの出口へと到着したのだ。
全員疲れも忘れ、スキップするような足取りで進む。
全員ニコニコ。ここまでの笑顔を見たのは、ダンジョン内の旅館にいたときくらいだろう。
(みんな浮わついてるなあ……無理ないけど。マンガとかラノベだと、こういう展開で難敵が現れたりするのよね……)
しまった、変なことを考えちゃった。
(……一応警戒しながら進もっか)
みんなより少し離れた位置を歩きながら、周囲を警戒していた。
……結局これが、ヴィーの命を救うことになる。
扉まで200mくらいになった時。
「フンフンフーン♪ ……きゃっ!」
先頭を歩いていたヴィーに、異常が起きたらしい。縮地並みのダッシュで駆け寄り、ヴィーの腕を掴んだ。
「……! サ、サーチ……!」
「このバカ……! 油断しちゃダメでしょ! 足下を見てみなさい」
ヴィーが私に言われた通りに下を見ると……。
「……なっ!? 真紅のサソリ!?」
この世界で最凶最悪の毒を持つといわれる、大型のサソリ型モンスター。それがヴィーの足下にわんさといた。
「あいつの毒は≪毒耐性≫でも無効にできないらしいわ。気をつけなさい」
ヴィーを引っ張りあげながら、ちょっとお小言。
「は、はい。申し訳ありませんでした……」
「わかればよろしい。さて……こんなところに、こんな罠があるとなると……すんなりと扉まで行けそうにないわね」
「ああ……少しずつ罠を警戒しながら進もう」
「わかりました。私も≪電糸網≫を広げておきます」
「ん、油断大敵」
……ふと。
「ねえリジー。呪われアイテムで、罠を感知」
「ない」
「……まだ最後まで言ってない」
「ないったらない。毎回言うけど、サーチ姉は私の呪われアイテムを何だと思ってるの……。というより、もし罠を感知できるアイテムがあったとしても、それはすでに呪いじゃない」
……確かに。
その時だった。
「きゃ、きゃあ! 何かいるぅ!」
ヴィーが突然パニクり、パンツを脱ぎ下ろした。
ああ、なかなかの脚線美が……じゃなくて!
「えい」
ぷすっ
エイミアの足にくっついていた真紅のサソリの頭に針を突き刺した。
たぶん子供と思われるちっちゃいサソリは、痙攣しながらひっくり返る。
「もう大丈夫よ。刺されたりしてないわよね?」
「はい、大丈夫……です。ありがとうございます」
「なら良かった…………意外と黒のシンプルなヤツね」
「!!!! な、何を見てるんですかああああっ!」
ま、いいじゃないの。役得ってヤツよ。蛇まで紅潮したヴィーの横に転がってた真紅のサソリを無限の小箱に収納すると「ちょっと待て」……何よ。
「そのサソリをどうするだよ!? ま、まさか夕飯に……」
「そうそう、今夜のメインはサソリの丸焼きを……って冗談よ冗談」
ずざざざざっ! と音を立てて私から離れたみんなを呼び止める。
「みんなは苦手なんでしょ? 無理強いはしないわよ」
「「「「……ほっ」」」」
それに、こんな美味しいモノ……私が独り占めするに決まってるじゃない。
その後、私が先頭に立って罠の有無を確認しながら進んだ。
前世でもよく罠は使用してたから、解除するのもお手のものだ。
「……ここに落とし穴。エイミア、弱い静電気を奥の溝にお願い」
「はい……えいっ」
バチィ!
「……よし。これで作動しないわ」
一体誰が罠を仕掛けたか知らないけど……めんどくさいこと、この上ない。
「ダンジョンってよく罠があるけど……どうやって出来るんだ?」
「知らないわよ。でも、ここの罠はダンジョン製じゃないわ」
人為的に作られてる罠が、巧妙に混ぜられてる。
「じゃ、じゃあ……私達以外に誰かいると?」
「うーん……何とも言えないわねえ……。なんせ見通しは良すぎるくらいのダンジョンだから、潜める場所なんか限られてるんだけど……」
ダンジョンの最初の頃にあった横穴は、この辺りにはないし。
「……落とし穴に潜んでる可能性は?」
……あ。その可能性があったか。
「……リル、ヴィー、エイミア。封鎖したとこ以外の、開いてる落とし穴を調べて」
「わかった。匂いで探ってみるわ」
「それでは、怪しい穴には≪聖水弾≫を放り込みます」
あ、リルとヴィーは私の作戦を察してくれたみたいね。
「え? じゃあ私は……?」
安定のエイミア品質!
「水から怪しいヤツが出てきたら静電気噛ましたるのよ!」
「あ、成程……」
よし、あっちはOKね。
「私達はこのまま進むわよ。リジーは敵がいた場合の補助で、私の後ろにいて」
「わかった」
……またカタツムリ並みの進軍が始まる。
「……ここは鉄食い蟻か……」
「……サーチ姉、蟻以外は何もいない『がちんっ!』……危機一髪」
顔を突っ込んでいたリジーが噛まれかける。危ないわよ。
「……OK! これが最後の罠だわ」
「やっと終わりかあ……やれやれ」
「……あんたは何もしてないでしょ」
「……噛まれかけた」
それはあんたのミスだからね。
「あ、ヴィー達は?」
「え? あれ?」
……いない?
「どこ行ったのよ、あの娘達……? 私見てくるからさ、怪しいヤツが来ないか見てて」
「がってんしょうち」
……その妙な返事は何とかならないの?
「……まあいいわ。頼むわね」
見た感じ、何ヵ所か水が溜まってる場所がある。どこかに落っこちたのかしら?
「ヴィー? エイミア? リル?」
がっ
な!? 足に何か掴まった!
「うわっ!!」
引っ張り込まれた!
「な、何ががぼぼぼ…………」
「ぶ、ぶくぶく……ぶはあっ! はあ、はあ……」
「あ、やっぱりサーチでした!」
「はあはあ…………ヴィー、やっぱりあんたが私を引っ張り込んだの?」
引き摺り込まれてる途中で気づいたんだけど、足に絡まってたの、蛇だったのよね。
「申し訳ありません。私達もこの空間に引き摺り込まれまして……」
空間!?
「今はリルとエイミアが対峙しています」
「何がいるの?」
「……有翼鬼です」
うわ、マジか。
空からバンバン魔力弾を落としてくる、B級モンスターだわ。
「多分……守護神かと」
……たく。
あと少しで出口だってのに……。
「……仕方ない、私が片付けてくるわ」
「え? サーチが?」
「ええ。ちょっとヴィーも協力してくれる?」
「わ、わかりました……」