第十三話 ていうか、エイミアがまたやってくれましたよ。
ダンジョンの攻略を再開して一週間。私達は厳重に聖杭で結界を作ると、その場に鎧やら衣服を脱ぎ捨てた。
やっぱりビキニアーマーの私が一番早い。みんなが苦戦してるのを横目に。
「おっっ先にーーー!!」
ざっばああん!
「……ぶくぶく……ぷはーっ! うっわ、最高の湯加減! ナイスな力加減よ、ヴィー!」
ヴィーはニコニコしながら、私の「ぐっじょぶb」に手を挙げて応える。次にリルとエイミアが飛び込み、一番厚着なリジーと普段は穏やかなヴィーがゆっくり入ってきた。
「しっかしナイスアイデアね。温泉とは言えないけど、これって立派なお風呂だもんね〜」
「はー気持ちいい。はー生き返る」
「そうですね……本当に。皆、少し臭かったですもんね」
ピシィッ!
…………エイミア……言ってはならないことを……。
「エイミア……誰が臭かったと……?」
ヴィーの≪石化魔眼≫が煌めき、エイミアの足元を石化して固定する。
「……一体誰のせいで臭くなったんだろうな……?」
目が据わったリルが、エイミアの右手を拘束。
「……私達のせいでは無い……という事は確か」
同じく目が据わったリジーが、エイミアの左手を拘束。
「すすすすいません〜! 私が悪かったんです〜!」
「そうね……エイミアが悪かったのよね……」
最後に私がエイミアの前に立つ。
「だったら…………何で犯人のあんたが『女の子が言われたくない言葉』を代表するような暴言を、私達に吐くのかな……?」
「すいませんーーー! ごめんなさいいいい! つい臭いって言っちゃってすいませんでしたあああ!」
「まだ言うかああああっ!! 天誅ーーーーーー!!」
私の両手が……エイミアのヒマラヤ山脈を掴んだ。
「きいいぃああああああああああぁぁぁぁぁ………………」
……エイミアの悲鳴は洞窟の奥まで響き渡った……。
二時間ほど前の事。
私達は何も語ることなく、トボトボと歩いていた。周囲には、異様な空気が漂っている。
「あ、あの〜……そろそろご飯……『ギロッ』ひえっ!? な、何でもないです……」
今のパーティの雰囲気は最悪だ。私達がパーティを結成してからも、ここまでの悪い雰囲気はなかっただろう。
原因は……。
「…………〜っ!! あ゛ーー!! 痒い痒い痒いー!」
リルが足で首の辺りを掻きむしる。
「あああもおお!! 脱皮が脱皮が脱皮があああ!」
ヴィーは蛇達が脱皮して残した皮を捨てる。見た感じはフケだ。
「ベトベトしてるから脱ぎたいけど、恥ずかしいから脱ぎたくない……ベトベトしてるから脱ぎたいけど、恥ずかしいから脱ぎたくない……ブツブツ」
……少しトリップしかかってるリジーは、終始独り言を言い続ける。
「はあ……ブラの痕に垢が溜まってる……はあ……」
ビキニアーマーの私は、外気に触れている部分が多いため……肌が汚れやすい。なので下着と肌の間に、よく垢が溜まるのだ。
何故乙女が揃いも揃って、痒みやら、ベトベトやら、垢やらに辟易してるのかと言うと……。
「うー……痒い……」
ローブの中に手を入れてポリポリと身体中を掻くエイミア。
……こいつが原因だ。
「……エイミア? あんたが旅館に清洗タオルを忘れてこなければ、こんなことにはならなかったのよ?」
ちなみに、清洗タオルってのは、水が無くても拭くだけで汚れがスッキリ落ちる、という超便利品。
旅の間は入浴代わりに使えると、その手軽さが大変重宝されることになり、今では女性の冒険者には必需品となっている。
その必需品の大半を、エイミアは旅館に忘れてきたのだ。各自で持っていた清洗タオルは、二日で尽きた。
「…………どうやったら無限の小箱に入ってるヤツを忘れてこれるのやら……」
普段はエイミアに寛容なリルも、今回は許せないらしい。
「ご、ごめんなさい〜……ちょっと無限の小箱の整理をした時、部屋の隅に出したままにしちゃいました……」
そう言うとエイミアは、またローブに手を突っ込んだ。
「か、痒い痒い……下乳に汗疹ができて……」
……ピシィッ!
で、出やがった……!
巨乳の女の子だけの悩み!
肩凝りと並ぶ、巨乳の証……!
「うぐあああああっ! 当てつけかあ! 私に対する当てつけかああああああ!」
あ、リルがキレた。
「え、何でリルが怒るんですかうびゅっ!」
「お前に私の気持ちがわかるかあああ! よこせ! 私によこしやがれえええっ!」
ポカポカポカッ
「い、痛! イタタタタ!! や、止めてくださああい!」
……止める気にならない。
「この! この! こんのおおお…………ん? クンクン……おい、モンスターだ! たぶんゾンビだぞっ!」
モンスター!?
「どこにもいないわよ……?」
≪絶対領域≫を広げてみる……と。
「!! みんな、上よ! 天井にいるわ!!」
天井にへばりついて近づいて来たんだ! 上を取られてるのは非常に厄介だ。苦戦は必死か……。
私が武器を作り出そうとしていると。
「……≪聖火弾≫……フルパワー」
「……≪火炎放射≫……フルパワー」
……二人の荒れ狂った乙女の八つ当たりによって、ゾンビ軍団は瞬殺された。
これ……七冠の魔狼にも勝てるんじゃね?
「「……早く進みましょう」」
……そうね……一日でも早くダンジョンを脱出して、お風呂に入らないと……!
身体をキレイに出来ない日が過ぎるたびに、乙女成分が失われていく……!
……………………ピシッ
ん?
……ピシ……ピシピシ……
「な、何の音?」
「……サーチ……あれ……」
ヴィーが指差す先には……さっきの炎によって天井がダメージを受けたのだろう。ひび割れが広がり……。
ポタッ……ポタポタポタッ……ザアアア……
そこから水が流れ落ち始めた。
「きゃ、きゃあああ! 海水が! 海水がああ! 逃げないと危ないですよ!」
「大丈夫よ。潮の香りがしないから、単なる地下水だわ……」
「ペロ……あ、本当だ」
普通の……水か。
……ん? 普通の水?
「ねえ、ヴィー。この辺りに≪怪力≫でさ、大きめの窪地を作ってくれない?」
「はい?」
「でさ、威力を加減した火系聖術を、溜まった水の中にぶち込んでくれる?」
「……はいい?」
……というわけで。
ヴィーの聖術によって即席露天風呂が出来上がったのだ。
「ホンット……ヴィー様々だわ〜」
それにしても……何かテンポのいい掛け声が聞こえていたような……?
ていうか……この柔らかさは?
「……はあ……はあ……」
……ん? エイミア?
……ていうか、忘れてた!
「ご、ごめんエイミア! お仕置き中に考え事しちゃったわ」
……あれ、エイミア?
「おーい……あれ? 反応がないわね」
「……精も根も尽き果てたんだよ」
……へ?
「さ、流石にやり過ぎだよ……! 私まで変な気分になっちまったよ……」
あらら。
エイミア以外にも……リルとリジーも……真っ赤だ。
「ごめんね〜……あ、ヴィーは?」
「……お前の後ろ」
へ?
ぎゅっ
「っわっ!? ヴィー!?」
「……サーチ……」
「あ、あんた何してんのよ! ていうか、背中に当たってるって!」
エイミアに負けず劣らずの柔らかさ……じゃなくて!
「サーチ……当たってるんじゃないわ」
「……じゃあ何よ」
「当ててんのよ」
何でそれを知ってるのよ!?
「ていうか……正気に戻れっつうのっ!!」
一時間ほどかかって、ようやく沈静化した。
ただし……エイミアは二三日日歩けなくなってしまい……ヴィーにおんぶされて移動することとなった。