第八話 ていうか、修行回二回目! 今度はヴィーの番なのだ!
逗留二日目。
リルとエイミアはご就寝。ヴィーとリジーは、近くで食後のお茶を楽しんでいる。
で、私はというと……。
「はっ! えいっ! はいや!」
……≪偽物≫で鉄棒を作り、朝から訓練に勤しんでいた。
(イメージできる〝竹蜻蛉〟はもう少し角度があった……少しの狂いも許されない。反復練習をして身体に叩き込まないと……)
そしてまた訓練を開始する。早朝からなので、もう三時間くらいかな……もう少し訓練してから朝食にしよう。
「サーチは朝から何の練習をしてるのですか?」
「ん?〝竹蜻蛉〟の練習」
「「……竹とんぼ?」」
……リジーは少し考えてから。
「………………サーチ姉、流石に武器を振り回しても、竹とんぼみたいには飛べない」
「茶番ストラッシュ!」「うきゅっ」
「んなことはわかってるわよ!」
「サ、サーチ姉! 流石に鉄の棒は痛い!」
あ……ごめんなさい。ちょっと鉄棒は痛かったか。
「あ、サーチ姉危な」
めこおっ!
「うぼおっ!! げほげほごほ!」
わ、脇腹に強烈な一撃が……!
「ごめんなさい、サーチ姉。私の梯子、自動防衛しすてむが可動したみたいで……」
「イタタタ……どういう梯子なのよ!」
そういえば最近、戦闘中のリジーの周りを梯子が飛び回ってたわね。
「……でも今のが裁けないようじゃ、まだまだだなあ……」
「……そうですよね。いつものサーチなら、真横の攻撃でしたら難なく避けますよね?」
「……そうね。流石に梯子が自動で攻撃してくるのは想定外だったわ……」
「そうです……か!」
ぶおんっ!
ヴィーの左フックが空を切った。
「何よ、ヴィー……何のつもり?」
背後に着地した私に、ヴィーはいたずらっ子みたいな顔で答える。
「……私が練習相手になります」
「ヴィーが?」
「行きますよ!」
そう言うなり、再び殴りかかってくる。凶悪な連撃を難なく避けながら、ヴィーの足元を払う。
「きゃっ……まだまだ!」
ヴィーはニット帽を取ると、蛇の束を私に向かわせる。
これも避けるが、束から分岐して伸びてきた蛇が私を襲う。
「これは流石に……避けられないわね!」
トンファーを作ると、迫ってきた蛇の頭を遠慮なくぶっ叩く!
スコン! カコオン!
「「シャシャア!?」」
「いったあい!」
……ん?
蛇の叫び声の間に、本体の声が混じってたような……?
ヴィーを見てみると、なぜか頭を抱えて踞っている。チャンス!
すぐにヴィーの背後に回り込み、フルネルソンの形で抱え込む。
「え!? ちょっと待」
「ドラゴンスープレックスぅぅ!!」
「きゃああああ!」
どごどごおっ!
し、しまった。後ろが壁だったの忘れてた……がくっ。
「……うっるせえな〜……何の音だよ…………って、何やってんだ? サーチ、ヴィー」
「……何故、ブリッジした体勢で二人とも頭が壁にめり込んでいるんですか?」
「…………サーチ姉とヴィー姉のらんでぶー」
「「……はあ?」」
「……と、とにかく! ヴィーは全体的に大振りなのはわかってるわよね?」
……エイミアが頭に包帯を巻いてくれてる状態じゃあ、説得力もクソもあったもんじゃない……。
「……そうですね。それはよくわかってます」
……反対にヴィーはノーダメージ……流石にメドゥーサだけあって丈夫だわ。
「私の練習相手になってくれるのはありがたいけど、ついでにヴィー自身の訓練もした方がいいわよ」
「私の……訓練ですか?」
「ええ。ヴィーはエイミアと違って矯正は効くと思うから」
「え……あ、あのエイミアは……」
「だってエイミアったら、何回も大振りはダメよって言ってるのに、全然直んないし。終いには『全部砕いちゃえばいいんです!』とか言って、≪雷壁の鎧≫と≪滅殺≫の混合攻撃で辺り一面吹っ飛ばしちゃうんだから」
「あの……サーチ……」
「何よヴィー。あんたもエイミアみたいになっちゃダメよ。胸がデカいのは頭に行くはずの栄養がきゅっ」
く、首が……。
エイミアが包帯で首を絞めてるんですけど……。
「サーチ…………頭に行くはずの栄養がどうしたんですか?」
やべえ。
エイミアが私の後ろにいたこと、すっかり忘れてた。
「……そのせいで、私は馬鹿になったとでも?」
「あんたね、何回くらい私やリルを一緒に吹っ飛ばしてるか、わかる?」
あ、エイミアの目が泳いだ。
「毎回! 毎回毎回々々々々々々々!! いい加減にしてくれないと、あんたの頭の中身を疑うわよ!」
「わ、私の頭の何を疑うんですか!?」
「スポンジか石じゃないかって!」
「え…………ひ、酷い! ひどいわあああ!」
ぶおんっ!
「サーチ危ない!」
え?
「≪蓄電池≫フルパワーー!!」
げえっ!
エイミアが限界まで静電気を……!
「……そこまで言うんでしたら……また吹っ飛ばしてやりますぅぅぅぅぅぅ!」
やめえええっ!!
ダンジョンまで吹っ飛ばすつもりかあああ!
「≪聖水弾≫!」
すると、ヴィーが水系の聖術をエイミアに向けて放った。
って水系!? 雷には効果は薄いわよ!
「……展開!」
するとヴィーはエイミアに当たる前に、水球を膜にして広げる。
「包装!」
そして水の膜でエイミアを包み込んだ。
何のつもり? 一瞬で電気分解で蒸発されるだけじゃ……。
「≪石化魔眼≫!!」
かちんっ
ええっ!? 水を石化した!!
『な、何ですかこれ!?』
「エイミア、聞こえますか? 今、あなたは私が作った石の球の中です。少し興奮していたので閉じ込めましたが……気分はどうですか?」
『え? え? 何がなんだか……出してください! 出さないのならぶち破ります!』
どおん! どおん!
……中でハデに暴れてるわね……。
「……≪鬼化≫しちゃったのかしら?」
「いえ。多分スキルの暴走でしょう」
スキルの暴走?
「あまりに威力が大きいスキルを使用すると、稀にスキルの副作用によって……酒に酔ったような状態になることがあります」
「そ、そうなの? 知らなかったわ……」
「珍しい事例ですので、知らなくて当然かと。私も一度経験してますので知っていただけです」
「ヴィーが暴走……………………危険だわね……」
「……魔王様に滅茶苦茶叱られました。現場にいたデュラハーンさんを半殺しにしたらしくて……」
……ヴィーらしいわ。
「それより。あのままだとエイミアが出ちゃうわよ?」
「大丈夫です。お任せ下さい」
ヴィーはそう言うと、再び≪聖水弾≫を唱えた。
すると、水球を器用に操って、石の球の上に移動させ。
「侵入」
水球を石の球に入れた。
『わっ! 水が……がぼがぼ』
「……回転」
『がぼっ!? がぼぼ……ぶはあっ! いやあああああっ!!』
「……新聖術、完成」
………………洗濯機ね。
「しばらく回転してなさい」
「ねえ、ヴィー」
「はい」
「その聖術の名前、≪洗濯≫でいいんじゃない?」
「あ、いいですね。ありがとうございます。採用です……ウフフ」
? 何故か嬉しそうね。
「……サーチに名前を頂いちゃいました! ウフフ……」
……何も言うまい。
「あ、私の訓練は……」
「ごめん。やっぱいいわ」
「え!? えええ!? な、何故……」
いや、だって……ねえ。
これだけ聖術で臨機応変に対応できるんだから……。
「わ、私が何をしたというのですか、サーチ!」
……どんな状況でも、攻撃を確実に当てる手段を導き出せるでしょ。
「わ、私を見捨てないでくださいい!」
……ヴィーの最大の武器は……頭脳だ。
「サーチ! サーチったらあ! ふえええん!」
「ええい鬱陶しい! 泣くな!」
……エイミアが正気に戻ってから、私もきちんと謝って和解した。
ていうかエイミアは、何も覚えてなかった。
「……回る回る……世界が回る……」
……また正気に戻さないと。
「今度は逆回転で……」
「止めなさい」