第六話 ていうか、謎の旅館の女将さんは……?
「モ、モンスター!?」
一瞬でミスリル製のリングブレードを作る。そして一瞬でヴィーが逃げていく……早いな!
一瞬のつっこみの後、一瞬で攻撃を仕掛ける……ていうか、何回一瞬って言ったんだろ、私……。
「ちぇいっ!! ……ってあれ? いない?」
『……急に攻撃など無粋です無粋。よって成敗します』
ズパパパパパン!!
そんな言葉が聞こえたかと思ったときには、私の全身に攻撃が打ち込まれていた。
「あぐぅぅぅっ!! かはっ……」
……吐血して、その場に崩れ落ちる。
「サ、サーチィィィィ!!!」
「……っ! 大丈夫です、すぐに回復させますから! それよりあの邪霊剣を!」
『んん……? あなたはメドゥーサですか? 何故モンスターであるあなたが人間のパーティに?』
「黙りなさい死にかけ! 私の大切な仲間を傷つけておいて何を……」
「ちょ、ちょい待ち……待った待った……」
「サーチ! 動いては……」
「大丈夫、大丈夫だから」
……少しだけなら。
「……すいませんでした……何せモンスターだらけのダンジョンを通り抜けてきたもんですから、あなたの姿を見たらつい……」
『え? ああ、すみません! 骸骨のままでお客様の前に……大変申し訳ありませんでした! 今すぐ傷の手当てを』
「あ、待ってください。あなた……〝竹竿〟じゃありませんか?」
「「「「ええっ!?」」」」
エイミア達がリアクションしてる最中、骸骨は紫色の煙に包まれる。
『……何故……私が〝竹竿〟だと?』
「だって、あなた竹竿で攻撃してきたじゃないですか」
『竹竿を? 何処に持っていましたか?』
「持っていましたよ。ただ私達からは見えないように巧妙に隠してましたけど」
『……へえ……』
「……初代〝竹竿〟の異名の由来は、竹竿で戦ってたからじゃなく……竹竿を隠し持てるほどの暗器の達人だったんじゃない?」
『……あの一瞬でそこまで見破ったの? 何て惜しい子なのかしら……』
……惜しい?
『あなただったら……真の〝竹竿〟を継げたでしょうに……』
そして、煙が晴れたあとには。
『……いらっしゃいませ、お客様。私がこの「其杯館」の女将であり、初代の〝竹竿〟であります邪霊剣でございます……以後、お見知り置きを』
……綺麗な妙齢の女性が立っていた。
ちなみに。
邪霊剣ってのは………………大魔導の剣士版……と思ってもらえばいいかと。
ヴィーが私の治療をしてくれてる間、リルとリジーが邪霊剣さんに絡んでいた。
「この女将が……初代〝竹竿〟?」
「とてもそうは見えない」
「……なら、邪霊剣さんの後ろ側に回ってみなさいよ」
『……できれば女将、と呼んでいただければ』
「……なら女将さん、そのまま動かないでくださいね」
『いいですよ』
リルとリジーの二人が女将さんの背後に回り込み……。
「「……!!」」
……絶句した。
「ね? 前からは見えない位置に竹竿があったでしょ」
「こ、こんな長いのを……か?」
多分2mくらいあるんじゃないかな?
『あなた達全員の死角に入る位置に、竹竿を隠していただけですよ』
……簡単に言うけど、五人の視線を考慮しながら、常に死角に竹竿を持っていくって……人間じゃ不可能よ。
『私、人間じゃなくて邪霊剣なんですが』
「心を読まないでくれるかな!? 痛、イタタタ」
「サーチ、動いては駄目です」
「……ねえヴィー。聖術でちゃちゃっと治してほしいんだけど……」
「MPを節約しなくてはなりませんので。すいませんけど薬草と包帯で我慢して下さい」
……まあ、いいんだけどさ。何で治療してるはずなのに膝枕になってるんだろうか……?
「ヴィー? さ、流石に公の場で膝枕はちょっと……」
「……嫌なのですか?」
「イヤとかじゃなくて! 周りの目が……」
「でしたら周りの目がなければよろしいのですね。わかりました……なら同部屋の際に、ゆっくりと……」
なんか貞操の危機を感じるんですけど!?
『……よろしければ泊まっていかれませんか?』
「結構です! 仲間を痛めつけるような人が経営してる旅館、こっちから願い下げです!!」
「おいおい、珍しくヴィーがヒートアップしてるな? やっぱ想い人が傷つけられたのが『かちんっ』」
「リ、リル!? 何でリルが石化しちゃったんですか!?」
……ヴィーに茶々を入れる、という愚行に走ったから。
「エイミア、しばらく放置します。単なるお仕置きですのでお気になさらず」
「は、はあ……いいんですか、サーチ?」
「……今のはリルが悪いから……」
「わ、わかりました……」
それよりも。
「邪霊剣さん。この旅館には露天風呂はありますか?」
『あります』
「じゃあ二泊ほど」
「サーチ!?」
ヴィー……あなたは甘いわ。
「例えこの身が傷つけられようと、お風呂が私を救ってくれる」
「何か名言を捩っただけにしか聞こえないんですけど!?」
「なら……入っていいのは風呂に入る覚悟があるヤツだけだ」
「意味わからないんですけど!!」
「え〜……なら……シャワー生活十年で悟りえぬことが、入浴生活一週間で悟れるものさ。よき温泉愛好家の誕生を期待しよう」
「…………もういいです…………」
『あ、あの……?』
「あ、三泊で」
「一泊増えてるし!?」
「はあ〜……温まる〜……」
「……あんなに嫌がってたヴィーが一番蕩けてますね……」
まさかこの世界に岩盤浴があるとは!
……というわけで全員で岩盤浴初体験♪ となったのだ。
けど、最初からこの旅館に泊まることに反対だったヴィーは、ずっとむくれていたのだが……。
「はあああ…………日光浴より温まる……」
……さすが変温動物。
「でも下手なサウナよりも汗が出る……もうべたべた」
「……どうしてこんなに岩が温かいんでしょうか? 火の魔術がかかってるにしては熱すぎませんし……」
「岩盤の下を熱い温泉が通ってるのよ。蒸気の可能性もあるけど」
「お、温泉で岩が温まってるんですか!?」
「流石にある程度薄い岩盤じゃないとムリだけどね……でも直接お湯を浴びるのとは違う温もり……これはこれで良いもんよ〜……」
はあ〜……ヴィーじゃないけど蕩ける……。
「……でもうつ伏せより仰向けの方が温まりますね」
「そう?」
リジーの方を見るけど「……そんなに変わらないけど?」と答える。
「……気のせいじゃない?」
「そうでしょうか?」
……と言って仰向けからうつ伏せへ体勢を変えるエイミア。
「……やっぱりうつ伏せの方が温かさを感じないです……」
………………。
「あの……?」
私とリジーの視線を感じた場所を見たエイミアは。
「ああ! 岩との間に断熱材があったから、ですね」
「「削ぎ落としてしまえ」」
「サーチ!? リジー!?」
それからゆっくりと岩盤浴を満喫したんだけど……石化したままだったリルを思い出したのは……次の日の朝でした。