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第五話 ていうか、ダンジョンの真ん中に旅館!?

 約半月、私達は相変わらずダンジョン走破に全力をあげていた。

 ……ていうか長い!


「……サーチぃ……飽きた……」

「……私もよ……」


 聖杭を打ち込みつつボヤくエイミアに、私もボヤきで返した。


「ひたすら真っ直ぐな道を突き進む……という事は、どのような苦難を乗り越えるよりも難しい……という名言があります。まさか自分が実際に(・・・)体験することになるとは……」


 そう言ってスープをかき回すヴィー。最近目が死んでる。ていうか、ダンジョン入る前に「楽しみです♪」とか言ってたのは、ヴィーだったような気がする……。


「あ〜……温泉入りたい……ダンジョンの真ん中にでも湧いてないかしら……」

「「あったら怖いです!」」


 ……ですよね〜……。


「サーチ姉、やっほ〜」

「………………」


 ……パーティの中で一番元気さを保っている二人が、偵察に出ていたんだけど……あれ、おかしいな。なんかリルの様子が変だ。


「……リル、どしたの?」


 ……なぜか頬っぺたを赤くしたリルが私達の前に立ち。


「……すまねえけど……つねってくれ……」


「「「……はい?」」」


「サーチ姉、私も頼まれてつねった」


 それで頬っぺたが赤いのか。


「ていうか、何でつねるの?」


「……何て言ったらいいのか……夢でも見ているような……」


 あかん。リルが何かヤバい。


「これこそ、(キツネ)に摘ままれたような気持ち」


 そういえばリジーはキツネ獣人だったわね……。


「……どうします?」


「まあ……リルのご希望ですから……」


 そう言ってヴィーが進み出る。

 ヴィーは赤くなっていない方の頬っぺたを掴む。


「行きますよ……えいっ」

 ギュウウウウ!!

「あだだだだだだだだだ!!!」


 リルはヴィーの腕をパンパン叩く。降参らしい。


「……ヴィー、まさか≪怪力≫を……」

「……少しだけです」


 ……いや、少しって……止めてあげなよ。リル、頬っぺたを押さえてのたうち回ってるわよ。


「じゃあ私ですね」


 こ、この状況でエイミアやるの!? しゃがみ込んで、リルのお尻を掴んだ。


「行きまーす……うりゃ」

 ギュウウウウ!!!

「ぎゃああああああああああ!!」


 リルは地面をパンパン叩く。降参らしい。


「……エイミア、あんた≪充力≫(パワーチャージ)を……」

「……ちょっとだけです」


 ……これは……しばらくまともに座れないのでは……リルは泡吹き始めたわよ……。


「「次はサーチです」」


「わ、私も?」


「「当然です」」


 ……エイミアもヴィーも、目が据わってる……。

 やるしか……ないか。


「……とはいえ……」


 ……すでに半死半生だから……止め刺すようなことはできないし……。


「「頑張って殺っちゃって下さい!」」


「がんばって殺ったらマズいでしょうがっ!!」


 ……逆に……気付けになるようなことをすればいいか。うつ伏せになってるリルをひっくり返して……。

 つねった。


「ギニャアアン!!」


 ……変な叫び声をあげて、リルは飛び起きた。



「ま、まあ良かったじゃない。痛くはなかったんだから」


「サーチ……アレ(・・)を摘まむのは止めろ。絶対止めろ」


「……もしかしてリル……感じちゃった何でもないですごめんなさいごめんなさい」


 リルがめっちゃ殺気立ったので謝り倒した。


「それよりリル。一体何があったの?」


「あ、ああ……それがさ……」


 ……まだ痛いらしい頬っぺたとお尻を擦りながら、リルはダンジョンの奥を見て……。


「……ちょうどダンジョンの中間地点くらいに……旅館が営業してた(・・・・・・・・)


「「「……………………………………は?」」」


「そうなるだろ? 私が頬っぺたをつねってくれって言うのもわかるだろ? だけどホントなんだよ」


 ……私達は視線をリジーに移す。


「……うん。本当にあった」


 ……マジで?


「……ほら見ろ。お前らだって自分の頬っぺた、つねってるじゃねえか」


 ……あ、いつの間に。



「「「ホ、ホントにある……」」」


 私達が野営しようとしてた地点から十分ほど。何故かモンスターのいない、清浄な空気が広がる地点が現れ。

 壁を削り出して作ったのであろう、立派な玄関がそこにはあった。

 そして玄関の上には「其盃館」と書かれた看板が掲げられている。


「き、きはいかん……かしら?」


「本当に旅館なのですか?」


「ここに『いらっしゃいませ』と書かれた看板がある。間違いない」


 看板を出しておくのは勝手なんだけど……見るヤツは誰もいないような気がする……。


「どうします? 入ってみます?」


「ちょい待ち。ここまで罠っぽい罠もないわよ」


「でもサーチお望みの温泉だぞ?」


「確かに望んだけど! でもホントに、ダンジョンの真ん中に旅館があるなんて……いくら何でもおかしすぎるわよ!」


「……確かに怪しさ満点ですね……どうします?」


 う〜ん……そうねぇ……みんなの士気が下がってるから……こんなときに温泉なんて入れれば一気にハイテンションよね……。


「……どちらにしても、これだけ清浄な空気の場所は貴重よ。旅館には入らないとしても、ここで野営をするのは決定で」


「それは異議無しです」


 全員頷く。

 あとは最大の問題……この旅館に入るか、入らないか。


「……試しに覗いてみるくらいなら良いんじゃないですか?」


「その試しが怖いのよ。ちょっとした油断が、命取りになりかねないんだからね」


「まあまあ……少しくらいの息抜きは必要だろ。私達が警戒してれば問題ないさ」


「リル……あんたまで何よ。警戒してればいいって問題じゃないのよ?」


「サーチの言う通りです。このような幻影で獲物を誘うモンスターも存在しますから、危険な行為は慎むべきです」


「そんなレアモンスターが、ホイホイといるわけねぇだろ。警戒するのは結構だけどよ、し過ぎるのは単なる腰抜けだぜ」


「腰抜けで結構です。逸る気持ちを抑えきれずに、自ら敵の顎門に飛び込む愚を犯すよりは、遥かに増しですから」


「……何か小難しいことを並べ立てれば、納得するとでも思ってるのか?」


「……この程度で小難しいと言われてしまうと……ふぅ」


 ぶちぃ


 あ、リルがキレた。


「……新入りのくせに、ずいぶんと偉そうなことをほざくなあ。一度シメてやらないとダメか?」


「あらあら、古株だから自分の方が立場は上だと? 高い立場を利用して威張り散らすのを『パワハラ』と言うのですよ? 知ってました?」


 ぶちぶちぃ


「……シメる。マジでシメてやる。力任せの大振り女が! 目にものを見せてやる!」


 リルがケンカを売ると同時に、ヴィーはエイミアの側に駆け寄った。


「聞きましたか、エイミア! 力任せの大振り女(・・・・・・・・)なんて言ってきたんですよ! 酷いと思いませんか!?」


「……すいません。私も力任せの大振り女ですもんね……」


「はあ!? エイミアは関係ないだろ!」


「ああやって私だけじゃなく、エイミアまでディスってくるんですよ。酷いと思いませんか!?」


「リル……私に何か恨みが……?」


「だ、だから何でエイミアが……」


 ……この勝負、ヴィーの勝ちね。口ゲンカじゃリルは分が悪過ぎるわ。


「酷いですリル……びえええええっ」


「あらあら、罪の無いエイミアをディスって泣かすなんて……酷い人」


「だ・か・ら! 何でエイミアが絡んでくるんだよ! おいサーチ、何とか言ってくれよ!」


「え、私!? ………………何とか」


「ホントに『何とか』って言ってほしいわけじゃねえよ!!」



『あの〜……』



「え? うわ」


『……玄関口で騒がれますと、他のお客様のご迷惑になりますので……止めていただけますか?』


 ふいに背後から声を掛けられたので、振り返ってみると、着物に身を包んだ骸骨(・・)が立っていた。

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