第四話 ていうか、エイミアは勇者の素質以上に、トラブルメイカーの素質がありそう。
「ぎゃあ！ 今度は大王鋏虫です！」
「うわ、こっちは人食い百足だ！」
「毒々蛾出現。毒々蛾出現」
何で虫ばっかなのよ！
だったらこれで一掃してやる！
「≪毒生成≫からの！ 夏の風物詩≪殺虫スプレー≫！！」
シューッ！
バタバタ！ ボトボトボト！
……へ？ 効くの？
「おい、スゲーな……ヴィーが言うところの災害級(笑)をバタバタと……」
……いや、この中の一匹に実際に街が襲撃されたら、一溜まりもないのは事実だからね。
「でもそれじゃレベル上げになりませんよ……」
虫の体液がついた釘こん棒を掃除しながら、エイミアがボヤく。
「一応パーティ配分で経験値は振り分けられるわよ。だけど実際に戦った方が経験値は高いしね……よし、さっきの≪殺虫スプレー≫は当分使いません。どうしようもなくなった時にのみ、とします」
「「「「はーい」」」」
「じゃあ戦闘再開！」
「…………ちょっと…………いきなりなの？」
「無理です！」
「あんなの殴れるか！」
「呪われアイテムが穢れる……」
「見たくもありません！」
……私だって見たくはないんですけど……。
カサカサカサ……
特徴的な長い触角。
全身アブラギッシュな光沢のある………………もうイヤ！ 解説したくない！
……何が出たかって？
あれよ！ 今じゃ一年通してキッチンに現れる人類の大敵！ ジャイアントダイオウゴキブリの……子供の大群！
「……これって子供でもSクラスなのかしら？」
「「「「知るかっ！」」」」
「……とりあえず≪殺虫スプレー≫」
シューッ
バタバタバタバタ！
ピクピクピク……
「……はい、終了。ヴィー、リジー。焼却」
「「ええ〜……」」
「……あのGの死体を踏むか退かすかしながら進む？」
ヴィーとリジーは首が千切れるんじゃないか、っていうくらいの勢いで首を左右に振った。
「……聖術、≪聖火球≫」
「……≪火炎放射≫」
ゴオオオオッ！
次々と灰と化していくG達。申し訳ないけど、君達は成仏しないでね。あの世で現れてもイヤだから。
「……わあ……凄い……」
「どうしたのエイミア？」
「い、いえ。凄い勢いでレベルが上がってくんです」
え？
言われた私もステータスを開いてみる。
……スゲえ、もう10も上がってる。
「……腐ってもSクラスか。流石に経験値が半端ないな」
「……でもゴキ……Gを倒しての経験値って、何か気分的に嫌じゃありません？」
「「「「………………」」」」
「な、何ですか？」
「……あんたね、みんなレベルが上がって喜んでるときに……わざわざテンション下げるようなこと言わないでよ……」
「え、そうなんですけど…………Gに関連するモノが私の身体の一部になるかと思うにょ……にゅ？」
「あ・ん・た・は〜！ さらにテンション下げてどうすんのよ！」
「いひゃい！ いひゃい！ いひゃい！ ひょひぇんひゃひゃいー！！」
「か、身体の一部……」
「確かに、考えようによっては身体の一部とも……」
「Gの経験値……体内に……」
「ほら見なさい！ みんなショック受けちゃってるじゃない！せっかく楽な経験値稼ぎの方法が見つかったのに……！」
「ご、ごめんなさい〜！」
はあ……仕方ない。今度からはGはスルーするしかないわね……。
「……ねえ……」
しばらく進むと、私達はまたモンスターに囲まれた。
「はい？」
「あんた達さ……Gはダメでも、ムカデやらゲジゲジやらは大丈夫なわけ……？」
……今回は足の多いヤツばっかだ。
「え？ 何が問題あるんですか？」
基準がわからん。
私はGよりもムカデとかの方が抵抗あるけどなあ……。
「……私からすると……平気でGを倒せるサーチの方が……」
「……方が？ 何？」
「い、いえ。何でもありません……」
「エイミア〜。言いたいことは、はっきりと言いなさいよ〜？」
「い、いえいえいえ！！ 何も無いです！ また失言になりそうなので絶対言いません！！」
「ほほう……失言になり得ることを言おうとしてたわけか。おおよそGを殺せる私のことを、変人扱いするつもりだったのかしら？」
「変人だなんて思ってません！！ 変わった人だとは思ってますけど」
「『変わった人』を縮めれば『変人』でしょうがああああっ！！」
すぱああああんっ！
「うみゃああああ！」
≪偽物≫で作ったアルミ製のハリセンでひっぱたいた。
「いい痛いですぅぅ！ サーチ、それは痛いですよぅ！」
……そうかな？
アルミ製だから、対してダメージはないと思うけど……？
「おいサーチ！ そっちにモンスターが行ったぞ！」
あ、ゲジゲジモドキ。
ちょうどいいわ、試しに……。
すぱああああんっ！ ぱんぱんぱんばっしいいいん！
グエアッ！？
あ、効いてる。
これって意外と……痛い？
ばっしい！ びしばしびしばし！
ばしんばしんばっしいいいん！
グゲ……ゴ……がくっ
「あ、死んだ。結構な凶器だったわ………………エイミア痛かった？ ごめんね〜ナデナデ」
「…………今更遅いですぅぅぅ！」
バリバリバリずどおおん！！
「きいあああああああ！！」
ハ、ハリセンなんか目じゃないくらい痛いんですけどおおおおおっ！！
「大丈夫ですか、サーチ？」
……何故かヴィーに膝枕をされている、という状態で目が覚めた。
「……一体何がどうなって？」
「エイミアの≪蓄電池≫の余波でモンスターが寄って来てしまいまして……」
……失言以上に失敗するわね、エイミアは……。
「それでリル達が迎撃しています。まだ気絶していたサーチに関しては、私が治療兼護衛という事で残りました」
「あ、そういうことか……でも何で膝枕？」
「私の勝手な願望です。ご迷惑でしたか？」
ご迷惑どころかメッチャ良い感触です。
「普通は逆じゃない？」
「……逆とは？」
「『膝枕をしてみたい！』ってよりは『膝枕されてみたい！』じゃないの？」
「そうでしょうか？ 私は好きな人に尽くしたいと思うタイプですけど？」
「うぇ！？ ……い、いきなりぶっ込んできたわね……」
「……どうやらサーチは尽くされたいタイプみたいですね……」
な、何かヴィーがやたらと積極的なんですけど……！
「……サーチ……」
……ヴィーの顔が近づいてくる……。
やべぇ……幽霊が主人公の映画のテーマ曲が流れてきそうな雰囲気…………ヴィーの顔が私に到達しそうになった……その時。
「サーチぃぃぃ！ 大丈夫ですかあああ！」
……雰囲気ぶち壊しのエイミアの叫び声が響いた。
た、助かった……。
「だ、大丈夫よ〜」
たまにはエイミアも役に立つわね！
「……ちっ」
あのヴィーが舌打ちしたよ！！
「……あ、あの……？」
「……サーチ……また今度、続きを………………エイミア、サーチはもう大丈夫ですよ」
そう言ってエイミアに近づいていくヴィー。
でも私は見た。ヴィーがボソッと「……≪石化魔眼≫」と呟いたのを。
「……ん？ あれ？」
「どうしたのですか？」
「何故かブラが固くなって……？」
「まあ、おかしいですね。どうしたのでしょう」
ヴィーがわざとらしくエイミアの背中を叩く。
バラバラ……
「え！？ えええ！？ ブラが崩れた……きゃあああああ！！」
「まあ。どうしたのでしょうね」
……ヴィーが私のウイスキーボンボンを摘まんだことが発覚するのは……これから二時間後だった。
