第三話 ていうか、戦闘の最中にもぐら叩き。
バリバリバリバリリィィッ
グギャガガガガガガガ!!
命中!
「ヴィー、一気に開けちゃうわよ! 馬鹿力でお願い!!」
「はい! でやああああああああっ!!」
ギギギギギギギギ!
「リル! リジー!」
「「おう!」」
扉が開け放たれると同時に、リルとリジーが飛びかかっていく。
リルのフィンガーリングが敵の頭にめり込み、リジーの〝不殺の黒剣〟が魔獣の首を程よく斬る。
「何でそんな中途半端な斬り方するんだよ!」
「呪いの反転だから仕方ない! 相手は死ぬからいいの!」
「……まあそうだけど……」
そんな会話をしてる間にもリルとリジーは、敵をバシバシ葬りながら先を進む。
その後をヴィーとエイミアが生き残りを狩りながら進み、私が殿軍を担当する。
ギルドでの情報通りに道はまっすぐだ。だけど小さい横穴はポコポコ開いているため、そこから敵が出てくる恐れがある。
ていうか、もう出てきてるし!
「必殺! もぐら叩き!!」
ぴょこ!
「えい!」
ぼこん! ピギャア!
ぴょこ!
「うりゃ!」
ばごん! ギャア!
ぴょこ!
「はいや!」
どごん! グゲッ!
「……楽しそうですね」
「楽しいわけないでしょお! エイミアも手伝いなさああい!」
「あ、はい…………≪蓄電池≫!!」
バチバチィ!
ギャャャャャアアアアア!!
ブスブス……
「はい、終わりました…………どうしたんですか、サーチ?」
「……あ、な、何でもないわよ……オホホホ」
……ちょっと残念に思ってしまったってことは、私は結構もぐら叩きを楽しんでいたらしい。
「ヴィー! 横穴からも敵が出てくるから……」
どかん! ガラガラ……
どかん! ガラガラ……
どかん! ガラガラ……
な、なんかハデにやってるわね……。
「はい! わかってますので穴を塞いでいます!」
……ナイスアイディア。
「エイミア、穴は釘こん棒で叩いて崩しなさい!」
「はい!」
私も≪偽物≫でハンマーを作り、横穴を叩いて崩す。
どがっどがっどがっ!
ガラガラ……
よし、順調順調。
「サーチ、横穴はこの辺りだけだ! 全部潰しちまえ!」
先に進んでいたリルが戻ってきて叫ぶ。
「りょ〜かい! みんな、ここの穴を潰せば、後顧の憂いは断てるわよ!」
「「おーう!」」
穴も七割は潰した! もう少しだ!
ぴょこ!
「エイミア、後ろ後ろ!」
「え……きゃあいやあ!!」
ごすっごすっごすっ
ギャアアア!
「ついでに穴も潰しちゃって!」
ごすっごすっごすっ
ギャアアア!
「エイミアー?」
ごすっごすっごすっ
ギャアアア!
「おーい……」
ごすっごすっごすっごすっごすっごすっ
ギャアア……ア…………がくっ
「エイミア〜……むごいから止めてあげようね〜……」
「え? あ、はい! なら穴を塞ぎます!」
ごすっごすっごすっごすっごすっごすっ
「ちょい待ち! 崩れる崩れるって!」
ごすっごすっごすっご
「やめなさいっての! えいっ!」
「はああああああああああん!」
あ、エイミアの腰が砕けた。
「ななな何をするんですか!」
胸を押さえて叫ぶ。
「やっかましいわ! あんたは洞窟そのモノを崩す気か!」
「…………………………へ?」
おいおい、記憶にないの!?
「ここの壁、向こうの穴、こっちとあっちとそっち……」
「わ! 何ですかこれ……こんなにひび割れて……いったい誰がこんな事を!?」
「あ・ん・た・よ!」
「う、嘘……ですよね?」
………………マジで記憶ないの?
「……また≪鬼化≫ですか?」
「……でも前みたいに泣いてない」
……もしかして……。
「……リル。獣人が≪獣化≫を制御できない場合は、感情が昂ると勝手にスキルが発動する……なんてことはあり得る?」
「ああ。私も完全に制御できるようになるまでは、よく暴走してたよ」
……怖いわね。
「だから獣人は≪獣化≫が制御できるようになって、初めて一人前と認められるんだ。でなきゃ村からも出してもらえないよ」
「……てことはエイミアは危険な状態だってこと?」
「いや、エイミアは鬼族が混ざってるんだから……≪鬼殺≫じゃねえかな」
「バーサーク? 狂っちゃうの?」
余計ヤバいじゃない!
「違う違う。≪獣化≫とはまったくの別系統だよ。≪鬼殺≫は≪撲殺≫系統のスキルの最上位だ」
「……そういえばエイミアの≪撲殺≫スキルは≪滅殺≫か何かにスキルアップしてたわね」
「そう。それが最上位になったんだよ……エイミア、スキルの≪鬼殺≫を発動してみな」
「は、はい……≪鬼殺≫」
エイミアがスキルを発動した途端に、エイミアのちっちゃい角が一気に伸びた。
「あ、あれ? 角が伸びちゃいました」
「身体に変わったところは? それと、暴れたいっていう衝動はないか?」
エイミアは自分の身体をあちこちチェックする。
「……いえ。格別変わった箇所は無いです。暴れたい……とは思いません」
「そうか、ならもう大丈夫だ」
……はい?
「リル、その『大丈夫』認定の根拠は何?」
「≪獣化≫の完全制御認定に当てはめただけだよ。獣人も鬼族も元々な似たような種族だからな」
「……そうなの、ヴィー?」
「まあ……近いと思いますよ。鬼は動物とモンスターの中間に位置する存在ですから」
「そういうわけだ。獣人が制御できてない場合は、破壊衝動に振り回されて大暴れするからな。数人係りで取り押さえるんだ」
「……それでエイミアは大泣きした時に暴れまくったのね……」
たぶん≪鬼化≫の状態を制御できるようになることが、≪鬼殺≫を覚える条件だったのね……。
「ま、せっかくだし……≪鬼殺≫の威力を試してみたら?」
エイミアの後ろを指差した。
「え? って、きゃあ!」
エイミアの後ろには、でっかいカブトムシみたいなモンスターが近づいていた。
「ななな何ですか、あのでっかい虫!」
「殺人甲虫……! まさかこのダンジョンにこんな強力なモンスターが……!」
「サーチ姉、あれ強いの?」
「ん〜……そこそこ。硬い! しつこい! 魔術効かない! そのクセ経験値低い! ……っていう嫌われモンスターの代表格」
「何を言ってるんですか! 一匹で災害級の被害をもたらす、と言われるほどの強敵……」
「いやああああ!」
どぐおおおおんんんっ!!
「一撃で木っ端微塵。スゴい威力ね」
「ああ。これに≪充力≫を絡めたら恐ろしい威力になるな」
「あ、そうそう。災害級が何だったっけ、ヴィー?」
「……な、何でもありません……」
……ちなみに……あのカブトムシは触角を叩き折ると、移動もままならなくなるという致命的な弱点があるのだが。
まあ知ってるのは私ぐらいか。