第二話 ていうか、ダンジョン攻略開始前に……。
「ええ。曲がりくねったり、二股に分かれたりすることも一切無いって。ひたすらまっすぐ……だそうよ」
「簡単……だな。確かに……」
簡単過ぎて嫌になるヤツよね。ひたすら先が見えないトンネルを、ひたすら歩き続ける……。
「……うわあ……」
「……ひええ……」
「……げええ……」
やっぱり嫌そうな声がほとんどだった。
「そんな、とっっても素敵じゃないですか! 細くて長くて真っ直ぐなんて……ああ、理想的……!」
蛇が混じってるヴィーを除いて。いや、蛇だからってのは……関係ないと思う……。
それぞれの準備も終え、狭い洞窟内での戦闘の手段を再確認する。
そして私達船の底抜きは、今度こそサクランドを旅立った。
乗合馬車の通る場所でもないため、基本的に歩き。そんなに強くないモンスターをあしらいながら、半日もしないうちに目的の祠へと到着した。
「意外にあっさりと着いたわね」
「途中に廃墟が一杯ありましたよね。この辺りは数年前まで、風光明媚な港町だったんです」
……だった、か……。
「……何か……あったんでしょうか……」
「モンスターにでもやられたか? 突然の暴走ってのもよくある話だしな……」
暴走ってのは、モンスターの集団襲撃のことだ。何の前触れもなく起きるそれによって、数多くの村が壊滅させられている。
ソレイユに一度「暴走は何とかならないの?」と問い質したことはあったけど……。
「……わからない。アタシにもわからないのよ……」
……とのことだった。
それだけ謎の多い現象なのだ。
「……お祈り……していきます?」
……リジーの提案に賛同して目を閉じる。
「あの……単なる過疎化ですよ」
「「「「早く言えよ!!」」」」
しんみり感がマジで台無しだよ!
「祠の下にあるのよね?」
「はい。中の何処かに隠し階段があるはずです」
……わからん。
「……全員で床の探索」
「「「「はーい」」」」
……こうして可憐な乙女が五人、床を這いずり回る異様な光景が出来上がった。
「……怪しい箇所はねえな……」
「あーあー……音が反響する空間も無い」
「となると魔術的な……? ヴィー、何も感じない?」
「…………魔力は感じません。かなり巧妙に隠されてますね」
「ギルドが封印した、とは聞いたけど……そんなに危険なダンジョンなのかしら……」
「え? ギルドが封印って……勝手に開けちゃうの、マズくないですか!?」
「ちゃんと許可はもらったわよ。それにギルドがダンジョンを封印するのはよくあることだし」
敵が極端に強いダンジョンとか、使用頻度の低いダンジョンは、モンスターが外に溢れ出るのを防ぐために封印されることが多い。
「……そうなんですかへみゅ!」
なぜか突然、エイミアが足を滑らせてコケた。
「……何でこんな真っ平らな場所でコケられるかな……」
ギギギギ……ゴト
「サーチ! 床に階段が!」
んなバカな!
「なんでエイミアがコケたら隠し階段が見つかるのよ!!」
「まあ言いたいことがあるのはわかるけどよ、せっかく先に行けるんだからさ……」
そうだけど! そうなんだけど!
「サーチ姉落ち着いて……エイミア姉は何かを持ってるだけだから」
……はあ……確かに。深く考えないほうがいいか。
「うう〜……地味に痛いです……」
「大丈夫ですか? 何処が痛いのですか?」
「む、胸を擦ったんです……」
「削ぎ落としてしまえ」
「ヴィー!?」
……いちいちムカつくのよね……エイミアの巨乳って……。
かなり長い階段を下った先に、かなり重厚な鉄の扉があった。これがギルドの封印なのだろう。
「どう、ヴィー。魔力の封印?」
「……違います。魔力は感じられません」
「エイミア! 静電気で鍵穴の構造を調べられない?」
「こ、構造をですか!? や、やってみますけど……」
エイミアは鍵穴に手をかざして静電気を送り込む。
「……鍵のボコボコがあって……あれ? 奥が溶けてる?」
「溶けてるのね?」
「はい……無理矢理穴が塞がれてるような感じです」
「うう〜……私達には一番厄介な封印だわ……!」
「厄介な封印って? 呪い?」
目をキラーンとするリジー。
「違うわよ。重い鉄扉を持ってきて鍵をぶっ壊す……重量に物を言わせた、単純だけど一番めんどくさい封印……」
「……わざわざ鉄扉を設置するくらいなら、洞窟内を爆破してしまえば良かったのでは……」
………………確かに。
「ま、まあとにかく、こいつを何とかしないと先には進めないわ」
「そうですね……押し通りましょう」
ヴィーが袖を捲り上げる。そうね……こういうときはヴィーの≪怪力≫が役立つ時。
「じゃあ行きます……はあああああっ!」
どぐわああああんんっ!!
「いひゃあああああああっ!!」
あ、ヴィーが戻ってきた。
「痛い痛い痛いぃぃ!! な、何ですか、この扉! びくともしないんですけど!」
……まさかグーパンでいくとは思ってなかったよ。
「ヴィー。これだけ質量がある扉だから、パンチみたいな一点集中は効果は薄いわよ」
「は、は、早く言ってくださあああい!! ≪回復≫」
……あれは指折れたっぽいね。
「しかしどうするよ? ヴィーでムリとなると……ヴィーとエイミアの二人係りか?」
エイミアにも≪充力≫があるけど、リジーの魂の焔火を見習ってエコにいきましょう。
「エイミア、扉の真ん中辺り……この隙間ね。ここにアーク切断お願い」
「あーく……? あ、金属を切るあっついヤツですね。わかりました」
……エイミアには「金属を切るあっついヤツ」って言わないと通じないのか。
バチ! バチバチバチ……
激しい火花が続く。
「……いいわ。これくらいで」
「へ? もういいんですか?」
「いいのよ、エコでいくんだから」
エイミアが「えこ??」と顔に?を浮かべながら離れる。≪偽物≫で長細いヘラを作ると、エイミアがアーク切断した場所に突っ込む。
ギ……ギギギギ……
……よし、少し開いた。
「ヴィー、少し力いるから手伝って」
「はい」
「エイミア! 扉が少しでも開いたら、隙間からありったけの電撃をぶち込んで!」
「え? あ、はい」
「リルとリジーはエイミアが撃ち漏らしたヤツを掃討して!」
「……待ち伏せか?」
「ていうか、エイミアのアーク切断の光に集まってきた……と思う」
リジーは私とリルの会話で合点がいったようで、耳をピクピク動かして音を探っている。
「…………ん。一杯いる。多分三十匹」
ぐあ……そんなに集まってたか。
「よーし……ヴィーいくわよ!!」
「はい! はあああああっ!!」
ギギギギィ!
「≪蓄電池≫最大出力!」
バリバリバリィィ!!
……このエイミアの電撃の音が、このダンジョンでの戦いの狼煙となった。